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20話 ベヒモス

筋骨隆々の肉体が紅く輝きを放ち、背中には立て髪のような紫色の毛が生えている。


二足歩行のように見えるが、足と腕の筋肉量はほぼ同等と言っていいだろう。


頭部には二本の長い角が生えており、眼光は真紅の光を放つ。


肩には超大型の大剣を携えているが、始めからは抜かずに鞘に納められている。


「ウゥアアァォァァアア!!!!」


開戦の狼煙を上げるような、絶叫とも取れる野太い咆哮を辺り一面に響かせてレルゲン達を迎え撃たんと構えを低くする。


間違いなく六段階目。それも龍種と同等かそれ以上の圧を放っている。


「来るぞ!みんな避けろ!」


レルゲンは咄嗟に距離を取ろうと後ろへ跳んで距離を取ろうとしたが、


一瞬の内距離を詰めたボスは右腕を振り下ろして引き裂こうとする。


黒龍の剣で何とか防いだが、余りの重さに身体中が悲鳴を上げ、魔力が咄嗟に込められた足が地面を抉るように沈む。


(重すぎる…!)


渾身の念動魔術で初撃を防いだが、魔物は逆側の手でレルゲンを握り潰そうと伸ばし


瞬間的に黒龍の剣に魔力を込めて漆黒の光線を放ち、再びお互いに距離が出来る。


(今のをゼロ距離で喰らってその程度か!)


「レルゲン!その魔物はベヒモス、特別な六段階目です!」


セレスティアがレルゲンに向けて注意を飛ばすが、大声を出したセレスティアに狙いを変えたのか、


ベヒモスが口元に魔力が集中してゆきセレスティアに向けて赤い光線が放たれる。


(いきなり核撃か…!)


核撃がセレスティアに向かった瞬間に、レルゲンが念動魔術でセレスティアを自分の方へと引き寄せる。


するとベヒモスはレルゲンに吸い込まれるように核撃の軌道を変え、即座に勝負をつけようとしてくる。


しかし黒龍の剣で核撃を受け、光線の外側をレルゲンの魔力が包んでいき、


軌道変更の念動魔術で核撃がベヒモスに向けて返る。


「自分の攻撃を喰らいな」


爆煙と共にベヒモスの核撃が止まり、この隙にレルゲンがセレスティアに確認する。


「特別って何が特別なんだ?」


「簡単に言ってしまえば、六段階目には分類出来ない秀でた手段を持っている魔物を指します。


ベヒモスの場合は攻撃力が特化されており、特別な称号が与えられています」


「そんな魔物がいるのか」


王立図書館や、深域調査の際にカノンから譲り受けた魔物書には記載が無かった魔物だ。


「はい。本来は高難度ダンジョンの"最終ボス"クラスの魔物の筈ですが、どうして中階層のボスに設定されているか分かりません」


「分かった。出来るだけ攻撃方法を割り出してから撤退しよう」


「レルゲン!扉が!」


マリーがレルゲンを呼ぶが、確認した時には既に閉め切られた扉があるのみだ。


「逃がさないってわけか」


思考を討伐まで切り替えて、三人に指示を出す。


「前衛は俺とマリーでいつも通りやる!セレスとミリィは隙が出来たらいつでも遠距離から攻撃できるように準備しておいてくれ!」


「「「了解!」」」


「マリー、前衛はかなり厳しい戦いになる。奴の攻撃は一人で受けるのは難しい」


「二人同時に受ければいいのね」


「そうだ」


お互いに少し笑い合っていると、ベヒモスの周りの煙が晴れていく。


いつの間にかベヒモスは鞘にしまっていた大剣を取り出しており、身体はほぼ無傷と言っていい。


「あの瞬間に剣を取り出して防御したか…!」


「器用な魔物ね」


マリーが感心したように言うが、その表情には余裕はない。


仮にレルゲンが今ここで最大出力の光線攻撃を繰り出したとしてもダメージは薄くなってしまうだろう。


至近距離からの特大の一撃でなければ意味がないと感じるような異質な雰囲気。


核撃を放っても全く消耗の素振りは感じさせない魔力量は他の六段階目とは一線を画すを多さを誇っている。 


一連の初撃を防がれたベヒモスは大剣を片手で軽々と肩に乗せ、レルゲンとマリーに突っ込んでくる。


念動魔術で振り下ろされるベヒモスの剣の勢いを殺すが、それでも止めるまではいかず、両手で受ける。


再びの衝撃が身体中を襲うが、今回は力に自信のあるマリーも一緒に受ける事で何とか均衡を保っている。


「セレス、ミリィ!」


ミリィが影移動でベヒモスが影に沈んでいくのを確認してからレルゲン達前衛は退避し、セレスティアが全力のマルチ・フロストジャベリンを放つ。


その数およそ二十本以上が射出され全てベヒモスに命中。


若干怯んだ隙にレルゲンが黒龍の剣に魔力を込めて漆黒の光線を叩き込んだ。


「オオォォォォォ!!!!」


気合いが込められた一撃がベヒモスを襲い、光線を全て受けたベヒモスは


皮膚がかなり深いところまで裂けており、傷口からは黒い血のようなものが溢れ出ている。


(流石に効いているな)


ベヒモスは斬られた傷口を手で何度も叩き、雄叫びを上げる。


「ウゥアアァォァァアア!!!!!!!」


最初よりも大きい声をあげてレルゲンに向き直り、攻撃を繰り出そうとする。


黒い血は既に止まり、回復したというよりかは


(筋肉で無理矢理塞いだのか)


そう。ベヒモスに状態異常系の特殊攻撃はないが、こと攻撃に関しては多彩な術を持っている。


筋肉による止血もその土台があってこそ。


再び核撃を放とうと口に魔力が込められる。

しかしレルゲンに核撃は通用しない。


レルゲンに放たれた核撃は赤い光線となって迫ってくるが


初撃を防いだ時と同様にベヒモス自身に当てる事でカウンターを仕掛ける。


二度目の核撃がベヒモスを襲い、レルゲンは疑問に思う。


(六段階目ともなると知能が高いやつが多いが、こいつはそこまでなのか?)


「セレス、こいつは力はあるが知能はそこまで高くないのか?」


「いえ、そんな事はない筈です」


(まさか、わざと核撃を撃って俺を油断させようとしているのか…?)


ベヒモスの表情は変わらない。

まだ未知数の魔物相手に攻めあぐねるレルゲン達。


攻撃を受けてばかりでは戦闘の流れが悪い。


「マリー!ベヒモスの攻撃は俺が何とか止める!連続剣で流れを変えたい!」


「わかったわ!」


ベヒモスの攻撃を掻い潜りながらの攻略戦が始まる。


(真正面から受けていてはいつか失敗する。ここはハクロウのように受け流す)


振り下ろされた大剣を、後退ではなく接近しながら軌道をずらして肉薄し、硬い筋肉でできた身体を斬りつける。


渾身の一撃がまともにベヒモスを襲い、黒い鮮血が飛ぶが、これもまた筋肉で止血される。


(この踏み込みで即時回復か。通常の攻撃では埒が明かないな。やはりマリーとセレスの攻撃が鍵になる)


マリーは連続剣の加護を発動し、細かい傷をベヒモスに与えながら徐々に加速を始め


セレスはマリーがターゲットにならないように、遠距離から中位魔術のフロストジャベリンで牽制を入れている。


マリーはレルゲンとは違いベヒモスの攻撃を左右に移動しながら回避しつつ攻撃を入れていく。


これを鬱陶しがったベヒモスが大きく横薙ぎ攻撃を仕掛けるが、マリーは後ろに飛ぶ事で回避し、レルゲンは剣を垂直に構えて一度受け止める。


そこからしゃがみ込むように体制を低くして横薙ぎを受け流す。


結果的に空振りに終わったベヒモスは体制が大きく崩れて後ろ向きになり


再びレルゲンとマリーがベヒモスに肉薄し細かい傷口を徐々に広げていった。





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