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18話 No.D

急いで下の階へ戻るべくレルゲンが全員を念動魔術で浮かせ、一直線に攻略本部へと戻る。


もうこれは全ての階がボス部屋のようなもの。


そもそもボス部屋からボス本体を解放する事自体が可能なのかすら分からないが、


現実にボスが辺りを彷徨いているのは確かだ。


超速度で戻っている最中に、何人かスケリトル・ファラルにやられている冒険者が確認できるが、


既に惨い死を遂げているのが見てわかる程荒らされているのが分かる。


(早く戻らないと大変なことになる)


攻略本部へと通じる転移魔法陣が見つかり、速度を落とした瞬間、まだ息のある冒険者が忠告する。


「奴は魔法陣に乗ろうとすると襲いかかってくる…」


声を聞いた瞬間、天井に何か張り付いているのが視界の端で捉える。


即座に全員の軌道を急角度で変えると、


レルゲン達がいた場所にスケリトル・ファラルが体重を活かしたプレス攻撃を仕掛けていた。


ドスンと勢いよく落ちて来た事による地鳴りが発生し、


レルゲンに教えてくれた冒険者が噛み砕かれている。


「何やってんだ、お前」


魔力が乗っている術式詠唱のような影響力のあるレルゲンの声に、


スケリトル・ファラルはピクっと反応して初めて言葉を返した。


「お前、さっきの、余計な事、俺、こいつら、殺す、邪魔、するな」


瞬間、ピシッ!と大気が震えたことによるダンジョンの悲鳴が響き、


レルゲンが纏っていた空気がガラリと変わり、重苦しい程の圧を発する。


初めてレルゲンが激昂する姿を見たミリィは、恐怖の余りセレスティアの裾を掴んだ。


レルゲンの纏っている"何か"にスケリトル・ファラルが反応を見せ、噛み砕くのを中断してレルゲンを睨む。


「お前、何者だ、空気、変わった」


レルゲンはそれに答えず右手をスケリトル・ファラルに向けてかざし、一言だけ呟く。


「捻れろ」


すると、スケリトル・ファラルの右翼がグルグルと捻られてゆき、あっという間に引きちぎられた。


「グルルァァァアアアア!!!」


片翼をもがれたスケリトル・ファラルは痛みによる声を上げたが、徐々に魔力を右翼に集中し、翼が再び生えてくる。


瞳孔が広がり少し驚いた表情をするレルゲンだが、未だに怒りが収まらないのか、続け様に呟く。


「潰れろ」


今度はスケリトル・ファラルの背中と腹から万力で押し潰すような力が加えられ、骨が折れ、肉が潰れるような鈍い音が響く。


あまりの容赦のなさに三人は固唾を飲んでいたが、レルゲンからの声で動きを再開する。


「マリーとセレスは予定通りに、ミリィは奴が動きそうなら足止めを!」


「「「了解!」」」


いつも通りの声色で伝えるレルゲンに応えようと三人が各々の準備を行う。


マリーは神剣に全力で魔力を注ぎ込みながらスケリトル・ファラルに突っ込んでいくと、剣が白い輝きを見せ始め


(これならいける…!)


マリーの口角が上がり確信する____これは"聖"攻撃だと。


一方でセレスティアは考えていた。


(この杖は何も威力だけが上がるだけでなく、マリーの神剣と同じだけの"聖属性"の攻撃を放てるはず。


もっと魔力を精密に操れば!)


念じるように神杖へ魔力を流し込んでゆくと、神杖も神剣と同様に白く輝き始める。


聖なる光が二人の武器を包み込み、マリーは魔石へ直接神剣を突き刺し


セレスティアが精製した氷も神杖と同様に聖なる光で包まれている。


巨大な氷の棘が白い光で包まれて魔石目掛けて突き刺すと


古い御伽噺と同じ結末を辿ったスケリトル・ファラルは完全な魔石のみが残った。



この様子を見ていた者が一人、呟く。


「ほう、スケリトル・ファラルに聖属性の武器で対抗か、実に素晴らしい」


呟いた男に声をかける人物がまた一人。


「今度こそ私を楽しませてくれるんだろうな?」


「あぁ、安心したまえよ。今度君が戦うのは四人で六段階目の魔物を打ち倒した勇者様御一行だ」


「勇者ねぇ、早くここまで登って来てこい。最も、魔物達に喰い殺されないといいが」


「そこは賭けにはなるが、このダンジョンは"D"だ。もし登って来られるなら間違いなく君の暇つぶしにはなるだろう」


言葉は返さず、白い歯を覗かせて笑みが溢れていた。



レルゲン達は一度、脅威の去った十二層の現状を伝えるべく攻略本部へと戻り、担当のレインに説明する。


今までそんな事例は過去に無かったらしく、すぐに裏へ行き情報を伝えに小走りで向かっていった。


すぐに十二層の攻略に向かった冒険者のリストを持ってきて、レルゲン達に確認を取る。


中にはレルゲン達に助けを求めてきた男性のパーティもあるようだが、まだ帰還出来ていないらしい。恐らくは……


「生存者は他に見ませんでしたか?」


「いや、ここまで一直線で戻って来たから分からないが、この男性以外の生存者はすれ違っていない」


「そうですか…分かりました。ダンジョン攻略のため、仕方ないと言えばそれまでですが


ボスを解放できると"知っていた人物"には私から殴ってやりたいです」


レルゲンも頷き、ただの高難度ダンジョン攻略だけでなく


裏でボスを解放したダンジョンに詳しい人物を探し出し


あわよくば捕縛する必要があると考え、もっと慎重に立ち回る必要がある。


「とりあえずとはなりますが、十二層のボス討伐____おめでとうございます。


今回の層は計測した所、十四層相当まで連続してあるようなので


一度戻って体制を万全にしてから再度挑まれるのがよろしいかと思います」


「そうだな。一度装備を準備しなおして、明日からまた十三層の攻略に当てたいと思うが

みんなもそれでいいか?」


三人がそれぞれ頷く。

本日はこれでお開きとし、休息を取るべく旅館へ戻る。


すると旅館の女将がレルゲン達へ向かって労いの言葉をかけてくれた。


「ダンジョン攻略お疲れ様でございました。レルゲン様。皆様。お噂は聞いております。


さっ、本日も沢山のおもてなしをさせて頂きますので、どうぞ中へ」


「ああ、今日もよろしく頼む」


ダンジョンから離れている旅館にまで噂が広がって来たのだろうか。


今回の功労者としてまた噂が広がっていくのはあまり歓迎出来なかったが、今のところまだ問題はなさそうだった。


最悪の場合はダンジョンまでセレスティアの隠蔽魔術をかけて、空を飛んで攻略本部に行く可能性も出てくる。


面倒くさい未来が一瞬頭をよぎったが、風呂に浸かる事で一緒に洗い流す。


いつもならここでセレスティアとマリーが突撃してくるのだが、今回はマリーだけ姿を見せたがセレスティアは居ないようだ。


「身体、洗うから」


「ああ」


あまり見ないように頭をマリーとは反対向きにして石でできた大浴場に寄りかかって座る。


水が流れる音が聞こえて思わず想像してしまうが、今はダンジョンのボスについて落ち着いて考える必要がある。


身体を洗いながらマリーがレルゲンに話しかける。


「十二層のボスだけど、やっぱり意図的に解放した奴がいるのよね?」


「恐らくはそうだな」


「解決するまではここにいるつもりなの?」


「女王から二ヶ月の言いつけがあるけど、俺は解決してから帰りたいと思ってる」


「そう、ならいいわ」


(もしかして今、試されていたのか?)


身体を洗い終わったマリーがレルゲンの真横に入る。


レルゲンは逃げずにその場に留まっていると、マリーが頭をレルゲンの肩に乗せてポツリと溢す。


「私、やっぱり貴方と一緒になれてよかったわ」


「俺もだよ」


マリーの肩を抱き二人が重なる。


大浴場に珍しく来なかったセレスティアは、長湯をしている二人に対して、少し表情が柔らかくなるのだった。

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