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17話 解き放たれた悪意

彼の朝は早い、陽の光と共に目を覚ますが、今日はセレスティアの方が早く起きており、レルゲンの寝顔を見ていたようだ。


「おはようございます。レルゲン」


「おはよう。セレス」


「今日も攻略ですか?」


「そうだな。余裕はあるけど出来るだけ進めておかないと、後半焦って進めようとして危険だからな。


完全攻略して時間が余ったら適当に理由つけてゆっくりしよう」


「そうですね。ではもう少しだけ」


マリーがまだ熟睡しており、朝も早い。

もう少しゆっくり身体を起こしてからダンジョンの攻略に向かっても罰は当たらないだろう。


暫くしてからマリーが目を覚ます。

昨日の記憶が曖昧のようで、辺りを見回している。


「おはよう、マリー」


「レルゲン、おはよう。あれ?」


「昨日はレルゲンの膝で寝てしまっていたんですよ」


「あ!セレス姉様、私が寝ている事をいい事にレルゲンと一緒に寝ましたね?」


「さて、どうでしょう?」


「もう!うっかりしていたわ。今度は私と二人で寝てもらうからね」


レルゲンは両手をあげて「分かった」と一言だけ返すのだった。


攻略本部にて、ミリィがいつもの待ち合わせ場所に来ており、レルゲン達と合流する。


ミリィは直ぐに気づいたようで


「セレスティアさん、何だかとっても幸せそうですね。何かあったんですか?」


「顔に出ていますか?」


「顔だけじゃなく、身体のオーラみたいななのが幸せーって感じで溢れ出てますよ」


「色々とありまして」


「色々って、え!嘘!まさか!」


口元に手を当てながら指を一本だけ立てて、笑顔で合図を送る。


「さて、今日もダンジョン攻略、張り切って行きましょう」


「おー!」


ミリィが元気よく返事するがマリーは若干、いやだいぶ不機嫌で掛け声に乗ってこない。


十二層は天井がいつもの三倍近くの高さを誇っており、吹き抜けのような構造をしている。


「これは十二層より上の層まで繋がっているのか?」


レルゲンが予想を立てるがまずは探索してみないとわからないだろう。


しかし探索と言っても攻略本部から転移したばかりの地点のはずが、


目の前にボスの部屋へ通じるはずの迷宮の入り口が設置されているではないか。


これまでとは全く違う構造にレルゲン達は戸惑ったが、とりあえず建物内へと入ってみる事に


間違いなくボス部屋へ通じている迷宮と同じ構造をしていた。


今までの平原や遺跡後とは違って、いきなり迷宮に入ったという事は、今まで以上に迷路のような構造になっているに違いない。


通常の攻略よりも時間がかかりそうな気配が伝わってくる。


「行こう」


朝早くから挑戦しているとはいえ、セレスティアの魔力感知には人間から発せられる魔力がいくつも反応がある。


確かに迷宮の入り口で魔物がポップしているのなら、帰りも近い事から絶好の狩場だろう。


なるべく邪魔しない様に隠蔽魔術を発動して戦闘中の側を通り抜け、低階を抜けていく。


何度か階段を登り、中階に来たレルゲン達は隠蔽魔術を解除して付近を改めて見回しながら探索する。


中階にもなると、魔物がかなり強力になるようで、レルゲンの魔力感知からでも間違いなく五段階目の魔物が


多数いると分かる密度の魔力を感じ取っていた。


「ここからが本番だ、セレス。バフを頼む」


「はい」


人数分のバフをかけ終わり、全員が武装を解放する。


遭遇した魔物は予想通り五段階目の魔物だったのだが、マリーの働きが凄まじく、


まるで今朝の鬱憤を晴らしているかのようだった。


今のマリーに何を言っても火に油状態なので、危険が及ばないように注意を払いながらレルゲンが援護を入れる。


今日のダンジョンはマリーの日になりそうだと感じながら、出てくる五段階目の魔物を順調に討伐してゆく。


午後を回ったところでマリーは落ち着いたのか、機嫌が戻っていたことに気づいたレルゲンは


魔力揮発剤を忘れずに散布して、簡易的なセーフゾーンを用意し昼食の準備を進める。


今日の昼食はマリーとセレスティアが作ってくれたサンドイッチだ。


綺麗な形でカットされたパンと、少し不恰好ではあるが一生懸命さが伝わってくるようなパンに別れている。


どちらにも手を伸ばし味を噛み締めたが、変わらない味なのでパクパクと食べ進めていき


「二人共ありがとう、美味しいよ」


「お粗末様でした」


「そうでしょ?あの後セレス姉様と一緒に作ったのよ。美味しくできてよかったわ」


ミリィも目を輝かせてサンドイッチを口に運び、美味しそうに頬張っている。


「本当に美味しいですね!何から何までありがとうございます」


二人がニコッと笑い、ミリィの頭を撫でている。食べ終わった後は安心して攻略が進められるだろう。


いざ昼食を食べ終わり攻略に戻ろうとした時に、一人の男性冒険者がレルゲン達の前に現れて助けを求めて来た。


「すまないが、俺達を助けてくれないか…」


「何があったんだ?」


セレスティアがボロボロの男性冒険者に回復魔術をかけて、落ち着いたのか語り始める。


「ありがとう。ここからそう遠くない上層階にいる魔物が強過ぎたんだ…


俺達は何とか撤退しようとしたんだが、相手が速くて全然逃げられなかった…


今も仲間達が奴の相手をしていると思う。頼む、お礼はするから助けてくれないか?」


レルゲンが全員を見ると助けに行こうという目をしているので、決心する。


「分かった。もう少しその魔物の外見や攻撃方法について詳しく説明してくれ」


「あ、ありがとう。ボスの見た目は…」


移動しながら掻い摘んで説明を受けるが、一つ分からないことがあった。


「大体は分かったが、弱点である魔石が見えているなら、どうしてその弱点を突かないんだ?」


「奴は頭の回転が早い。俺達が狙えるタイミングは決まって奴が誘い込もうとしている時で」


「返り討ちにあったわけか」


「ああ、あんたらもここまでその人数で来た実力者なんだろう?どうか頼む。みんなを助けてくれ」


考えるに知能が高いやつでそこまでの性能を持っているなら間違いなく六段階目だろう。


小走りで向かった先には、確かに魔物が冒険者を追い詰めていた。


件の魔物は聞いていた通りで、骨と肉が顕になっている箇所があり、胸部には光輝く魔石が見える。


龍種のようだが、生きているのか死んでいるのに動いているのか分からない外見をしている。


言葉を話している節はないが、罠を張ったり誘い込んだりする知性はあるため、純粋にめんどくさがっているだけの可能性もあった。


「ガァァァァァアアアア!!!」


レルゲン達の接近に気づいた龍種は人質を取るように助けを求めて来た男性のパーティメンバーとの間に入り、レルゲンを睨め付けながら


「そこを動くな」


とでも言いたげな反応を見せた。

即座に人質のパーティメンバーを念動魔術で円を描くように引き寄せて、龍種から引き離す。


レルゲンの救出に怒った龍種は、何かしらのブレスを放とうと口元に魔力を集中する。


「みんな俺の後ろへ!」


レルゲンが周りに声をかけたが、放たれたのは光線でも、強酸でも無く、サンライトのような光の球だった。


あまりに強い閃光にレルゲン達は顔を覆ったが、魔物は待ってくれない。


目が駄目なら魔力で追うしかないと一瞬考えたが、


ナイトとの戦いから魔力のみの追跡は危険と学んでいたレルゲンは、耳を澄ませるために集中する。


規則的な風の音


(空からの直接攻撃か…!)


瞬時に黒龍の剣に魔力を込めて音の先へと一撃を放つと


「グアアァァァ」


と怯んだような声を上げて地面へと勢いよく降りてくる。


ドシンという音と共に降りた龍種は、次の一撃を放つために全身へ魔力を展開してゆく。


人質は全て回収したが、怪我人も多い。セレスティアの回復魔術で一度落ち着く必要がある。


ようやく視力が戻ったレルゲンは一度撤退を決意。


「一旦撤退する!退路の安全が確保されたら下階へ向かって走れ!」


刀身が漆黒に輝きながら伸びてゆき、高出力の一撃が龍種を飲み込んでゆく。


(手ごたえはあるが、討伐は多分できていないな)


漆黒の光が龍種を覆い隠すように包み込み、光が晴れてから周囲を龍種が見回したが、


既にレルゲン達はいない。


「グアアァァァアアアアア!!!!!」


獲物を逃して悔しがるように咆哮を上げていたのを、撤退していたレルゲン達はハッキリと聞いていた。


完全に巻いてから一息つき、セレスティアがエクストラ・ヒールで癒し、危険な状態を脱する。


「ありがとう。助かった」


「攻略本部までは自分達で帰れるか?」


「ああ、戻る分には問題ない。あんた達は相当強いようだが、奴と戦うのか?」


「そのつもりだ」


「気をつけてくれ。詳しくは分からないが、間違いなく"ボスクラス"の魔物だ」


「分かっている。俺達も危険と判断したら帰還するから安心してくれ」


「無理すんなよ」


セレスティアの魔術である程度は回復してあるはずだが、


それでも足を引きづりながら男性が肩を貸しながら戻って行ったのだった。


レルゲン達が一旦体制を立て直して再度探していると、マリーが龍種を知っているようだった。


「スケリトル・ファラル…間違いないわ。


王国に伝わる話の原典になっている龍で、最後は勇者に倒されるけど、沢山の人の命を奪った魔物よ。


六段階目で、レルゲンの見立て通りね。

私も最初見た時は分からなかったわ」


今まで六段階目の魔物は十層のボスであるアシュラ・ビーストがいたが、戦い方が正反対と言っていい。


スケリトル・ファラルを仮に倒しても十二層のボスがいるはずだ。ここで足踏みはしていられない。


「何かその御伽噺に倒し方のヒントが書いていたりしていないか?」


「勇者の"聖なる光"で倒されたとは書いてあるけど、聖魔術なんて聞いたことないわ」


「俺も最後の一撃はかなり魔力を込めたが、あまり効いている気はしなかったな。別の方法が必要だと思う」


「聖なる力かどうか分かりませんが、私やマリーの持っている武器ならどうでしょうか?


「神聖な」という語句もありますし」


セレスティアが神杖を撫でながらマリーの神剣を見る。


「分かった。やってみよう、俺とミリィで足止めする。


その隙に全力を叩き込んでくれ」


二人が頷くが、ミリィが「私もですか!?」と半泣きになるが、レルゲンが優しく


「君こそが奴の動きを抑える適任者だよ」


「やれるだけやってみます」


と生唾を飲み込むのだった。


スケリトル・ファラルを探して上の階まで登り、ボスの部屋前まで来たが遭遇することはなかった。


そして今回の異変と呼ぶべき現象に納得がいく光景が広がっていた。


ボス部屋が"既に開いている"中にはボスの姿は無く、すぐに全員が気づいた。


(何者かがダンジョンボスを解放した!)

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