表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/249

14話 即死級トラップ

毒沼がある遺跡群を抜けて、次の層に進む迷宮の入り口まで攻略が進み、時間はお昼頃に差し掛かってきていた。


幸いヒュージ・スワンのように空を飛ぶ魔物はおらず、遠距離攻撃を仕掛けてくる魔物も数が少ない。


これならレルゲンの念動魔術で迷宮の入り口まで全員を運んで来れると考えていると、迷宮の入り口付近に魔法陣がある。


王国組の三人はこの魔法陣に見覚えがあり、マリーが近くで観察している。


「これって、転移の魔法陣?」


「確かによく似ているな」


一層から十一層までのショートカットに踏んできた転移の魔法陣とほぼ同じ作りをしている。


わざわざ迷宮の入り口に配置するということは、どこかに転移させてのトラップではなく


「中間地点…か?」


そう、レルゲン達はかなりの速度で迷宮の入り口まで来ていたが、


他のパーティは高位の魔術師が少ないことや、そもそも迷宮までの道のりが長くなっているからか中間地点が設けられている様だった。


「どうする?乗ってみる?」


マリーがレルゲンに聞いてくるが、正直レルゲンもこれが正規の転移魔法陣なのかトラップなのか判別がつかないでいた。


「ミリィ、どう思う?」


「私ですか?!そ、そうですねぇ。私もレルゲンさんと同じ意見で、危険性はあまり無いとは思いますが、確証は無いです」


再び考えていると、セレスティアが「乗りましょう」と提案する。


具体的には仮にトラップだったとしても全力バフと、レルゲンの矢避けの念動魔術が全員分にかかっていれば、即死はないと考えたからだ。


「わかった。一人一人行くより、全員で手を繋いだ状態で同時に飛び込んで見よう」


三人が頷く。


「せーの!」


息を合わせて一斉に飛び込んだ先は、やはり攻略本部がある一層の転移魔法陣の上だった。


「はぁー」


全員が安堵のため息をつく。

今までは帰りの道でかかる時間を計算して攻略を進める必要があったが、


次からは中間地点まで戻ればいい。時間短縮に打って付けというわけだ。


攻略本部にいたレインに会うと「あれ?」といった表情に変わり、レルゲンの下まで歩いてくる。


「今日は随分とお早い帰還ですね。何かありましたか?」


「実は迷宮の入り口付近に転移魔法陣があって、それに乗ったらここに戻って来た」


「中間地点の発見ですね!お手柄です。場所はどの辺りか教えてくれますでしょうか?」


ダンジョン攻略は一本道では無い。

様々な地形、様々な仕掛けを突破した後に得た正規の地形情報はかなり貴重な情報源だ。


これでお金を稼いでいる情報屋までいる程で、今回の転移魔法陣の種類と場所は喉から手が出るほど欲しい情報だろう。


しかし、レルゲン達は意外にもあっさりレインに教えてしまう。


それを見たミリィが「もったいない!」と少し抗議を上げたが、レルゲンはレインに教える代わりに一つ条件を出した。


「今回は攻略本部に戻って来られたから良かったが、トラップが今後ないとも言い切れない。


転移魔法陣に乗る時は万全の準備をしてから挑む様に他の冒険者達に周知して欲しい」


「そんなので良いのですか?

寧ろ攻略本部としましても、新しく出てきた転移魔法陣は警戒して然るべきだと考えるはずなので、


周知は依頼されなくてもされるはずだと思いますが…」


「ならいいんだ。後はそっちで上手いことやってくれ」


「…!わかりました。貴重な情報、感謝致します」


攻略本部を後にして、軽くお昼を摂るために外へ出る。


「本当に良かったんですか?」


とミリィが聞いてきたが、レルゲンは


「俺達より早く攻略しているパーティはいないようだし、


今後巡り巡って有益な情報が手に入りやすくなるかもしれない。出来るだけ恩を売っておくのも大事だよ」


と返す。まだ中間層の攻略だ。

今後情報が回ってくる可能性が少しでも上げられれば、いずれお釣りがくると考えていた。


「したたかですねぇ…」


「レルゲンって結構そういうところあるわよね」


「ふふふ、そうですね。腹黒です」


「腹黒は余計だ」


セレスティアの腹黒発言にツッコミを入れたが、


実際レルゲン自身も利益になることに対してはアンテナが鋭いと自覚する節は以前からあったので、対して抗議の声は上げなかった。


昼食を済ませて、レルゲン達は迷宮に挑み始める。


「さて、どんな魔物が出てくるか」


今回は今までの迷宮とは違って天井の高さがかなり高く設定されており、通路や広間の境界線がない。


意外にも出現した魔物はリザルドで、全員があれ?となったが、よく見ると持っている刀身が黄色く光っている個体がある。


それに気づいたセレスティアはノーマリィ・コンディションを全員分にかけ状態異常対策とる。


レルゲン達はバフがかけ終わってからリザルドに突っ込んでいき、これを少しずつ片付ける。


リザルドを全て片付け終わった瞬間、リザルドよりも大きな体躯で赤い眼光を輝かせ、手には大楯、大太刀を構えながら


レルゲン達を睨みつけた五段階目の魔物、リザルド・ジェネラルが現れた。


ミリィは水の中級魔術、セレスティアは氷の上位魔術を繰り出して先制攻撃を仕掛けるが、


リザルド・ジェネラルは正確な太刀捌きで全て叩き落とし、魔術師二人を驚かせた。


その太刀捌きは、今は片腕を失って療養中のハクロウに似たしなやかさがあった。


即座にレルゲンが全員に指示を出す。


「奴は五段階目だが、実際の強さは六段階目と同等だと考えた方がいい!注意してくれ!」


「「「了解!」」」


「マリー、君の先生に似たタイプだ。

誰よりもハクロウの剣を受けた君に前衛を頼みたい。隙を作ってもらえれば俺が斬り込む」


「任せて!」


マリーがリザルド・ジェネラルに突っ込んでいき、マリーの背後からレルゲンがフォローを入れるべく追随する。


素早い剣戟がダンジョン内に響き、マリーの連続剣の加護が発動する。


徐々にマリーが単独でリザルド・ジェネラルを押していくが、上手くマリーの剣の重さをいなしながら対応しているのが分かる。


牽制の為にレルゲンが鉄剣を背後から浮遊剣にして飛ばすが、これを横に移動することでマリーに当てようとする。


しかし、レルゲンは避けた瞬間に鉄剣の軌道を止め、マリーの剣戟に合わせて鉄剣を操作しリザルド・ジェネラルに斬りかかってゆく。


擬似的な二刀流になったマリーはまるでレルゲンが隣にいる様な感覚になっていた。


(レルゲンがどんな攻撃をするか分かる!隣で一緒に戦ってるみたい)


マリーの口角が上がると同時に、速度と重さがどんどん上がっていく。


マリーの重さに耐えかねたリザルド・ジェネラルが後ろに飛んで体制を立て直すが、


ミリィが影移動を発動させて足止めをする。


「ミリィ、助かるわ!」


短くマリーがお礼をいい、足止め先にセレスティアがフロストジャベリンをリザルド・ジェネラルの腹部に打ち込むと、苦しみの声を上げた。


再度肉薄したマリーが最大限の魔力を神剣に込めると、ヒュージ・スワンの時と同様に輝きを見せ、


リザルド・ジェネラルの肩口から斬り裂き、魔石へと還した。


「五段階目なら危なげなく討伐できる様になったな」


「一人じゃ難しいけど、みんなでならさほど苦労はしないわね」


後衛のミリィも影移動による足止めタイミングがだいぶ慣れてきた。

この分なら本当に四人だけでボス攻略が出来るだろう。


順調に迷宮を進んでいくと、ある法則に気づく。

十層までの迷宮は四段階目の魔物が群れになって出現し、倒してもそのまま進むことが出来たが、


十一層は四段階目の魔物を倒すと、その都度五段階目相当の中ボスクラスの魔物がポップするということだ。


(まるで俺達が倒したのを確認してから次の魔物を出している、人為的な狙いを感じるな)


この事はまだみんなには伝えずに、確証が得られるまで暫く様子を見ることに。


「みんなお疲れ様。

もう少しで迷宮の最奥部だと思うから、休憩を挟んだら最後まで行ってしまおう」


「分かったわ。それにしても随分と登ったわよね」


マリーが通路から下を覗き込みながら呟く。


「落ちるなよ」


「平気よ。落ちても飛んで戻ってこれるわ」


「確かにそうか」


ミリィのトラップ看破の魔術の活躍もあり、最深部に到着しすると、ボス部屋前の大扉が見え、その横にまた転移魔法陣が青く光っている。


「ボス部屋前にトラップって多分ないと思いますが…」


ミリィがうーんと唸りながらどうなんでしょ?と周りを見ながら確認する。


「そうですね。ここは素直に攻略本部に戻る転移魔法陣だと思います」


「また手を繋いで乗る?」


「一応それがいいだろうな。セレス、一応バフを頼む」


「分かりました」


バフがかけ終わり、攻略本部に戻ろうと手を繋いで転移魔法陣を一緒に踏む。


すると、四方を二十メートル程の空間に転移し、レルゲンが瞬間的にみんなに警戒する様に呼びかける。


「なんて陰気なトラップなの!」


マリーが悪態をつくが、この狭い空間で一体何が待ち構えているのだろうか。


二十メートルの扉から四段階目の魔物がゾロゾロと現れる。


「セレス、すぐにリジェネライト・ヒールだ!」


「はい!」


「回れ」

黒龍の剣を空中に放り投げ高速回転させ、風の下位魔法を剣に上乗せする。


「みんな中心に一度集まれ!ウィンドカット」


空中に放られて高速回転された黒龍の剣が、ポップする魔物を一撃で魔石に還しながら周囲を回す様に展開する。


魔石に還った数、既に二十を超える。


「くそ!いつまで出てくるんだ…!」


ようやく魔物のポップが止まったのは、魔石の数が五十を超えたあたりだった。


レルゲンの念動魔術が無ければ間違いなく即死級のトラップだろう。


全ての魔物を倒した後に壁が動き、一つの宝箱が出てくる。


始めは宝箱自体のトラップを疑ったが、恐る恐る箱を開けると、一つの小瓶と手紙のような物が入っていた。


手紙には「新たな命を摘み取り、そなたの道は止まるだろう」と書いてあったが、


内容から推測するに何かしらの生命活動を止めるような劇薬に近いものが入っているようだった。


レルゲンが小瓶を懐にしまうと、今度こそ攻略本部に繋がっている転移魔法陣が出現し、


レインにボス部屋前の転移魔法陣は絶対踏まないように伝えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ