13話 十一層 遺跡が囲む状態異常攻撃
十一層の攻略へ攻略本部から転移魔法陣に乗ってレルゲン達のパーティが出発する。
レインがレルゲン達を見送りに、ダンジョンの入り口まで来てくれている。
「それでは皆さん、頑張って攻略して来てください!」
「行ってきます」
転移が完了すると、そこには遺跡を基調とした紫色の世界が広がっていた。
「何だか薄気味悪いですね」
ミリィが少し怖がりながら遠慮がちにセレスティアの裾を引っ張り、後ろに隠れる。
マリーは新しいものを見るのが好きなのか、色々と歩き回って確認している。
紫色の水を触ろうとした時にレルゲンがマリーの腕を掴み、静止する。
「何?」
「もしかしたらこの水…」
レルゲンが紫色の水に手をかざして、物質分離の念動魔術をかける。
すると水の色が透明に変わり、紫色の粉末が分離された。
「水と何に分けたの?」
「人体に害のある物質」
レルゲン以外の全員が「えっ」と驚く。
そこら中に紫色の水溜りや沼があり、歩いていくには少し難儀するだろうことが予想できた。
(全員を念動魔術で飛ばしながら連れていくか?
だが、戦闘になった時に空を自由に飛ばしてやることは俺には出来ない)
それこそナイト・ブルームスタットが使用していた念動魔術の真髄。
自動人形のアイとユゥと同じような自然な操作が必要になる。
まだまだレルゲンの念動魔術ではそこまでの域に到達していない。
矢避けの念動魔術や、物質固定の単一命令に関してはナイトを上回る強度での念動魔術を発動することは出来るが、
並列思考で複数の精密動作に関してはまだまだナイトには追いついていないとレルゲンは自覚している。
そのため、空中に仲間全員を浮かせながらの戦闘はまだレルゲンには出来ない芸当だった。
となると、回避策は一つしかない。
「セレス、頼めるか?」
セレスティアが頷き、状態異常無効化の支援魔術を発動する。
「ノーマリィ・コンディション」
全員に金色のオーラが付与され、試しに紫色の水に触れて確認する。
多少触った指先がピリピリするが、しっかりと毒の無効化が出来ている。
「この層は状態異常をメインにした追加攻撃系に気をつけないといけないかもな」
「私が効果切れのタイミングで重ねがけするので余り気にする必要はないと思いますが、
他にも何か気になることが?」
セレスティアが首を傾げながらレルゲンに尋ねると「あくまでも予想だが」と前置きし
「追加攻撃があるってことは、考えを少し飛躍させるとトラップとかの人間の心理状態に作用する仕掛けがあるかも知れないってことさ。
俺達は真正面からの正直な攻撃に慣れているから対処が割とすぐに出来るが、予期しない絡め手には経験が少ないから対処が難しい…
これは今言ったところでどうこうなる訳じゃないから、心の片隅にでも留めておいて欲しい」
「確かに…私もいつも以上に警戒しようと思います」
セレスティアは納得するが、マリーはそこまで深くは考えていないようで
「トラップとかの看破系魔術を使える人が居れば良いのにね」
「そんな便利な魔術があるのか…?」
レルゲンは初めて聞いた魔術の種類だそうで、不思議そうな顔をしていると、セレスティアが解説してくれた。
「看破系魔術は私やナイト・ブルームスタットがよく使うディスペルに考え方が近い魔術になります。
レルゲンでイメージするなら先程やった毒分離の念動魔術になりますね。
予期しないトラップを予め感知するには二つ方法があります。
一つ、トラップの知識を予め蓄えておいて、その知っているトラップの種類に該当するものを検出する方法。
二つ、どんなトラップか不明ですが、自身に対しての悪意ある種類と大別して解除する方法。
二つ目は低度のトラップなら、予め検知や解除が可能です。
特定の足場を踏んだことで起動するなど落とし穴などが代表的ですね。
ただ、私もダンジョン攻略は初めてなので、これくらいしか情報を持っていません」
申し訳無さそうにセレスティアが謝るが、これだけ知ることが出来れば対策も立てやすくなる。
「いや、それだけ知っていれば十分凄いよ。流石は魔術の先生だ。
後はどうやって事前にトラップを検知するかだが、セレスは使えるのか?」
「いえ、私は使えません」
「私も使えないわ」
「あの…」
ミリィが小さな声を上げながら、遠慮がちに手を上げる。
「どうした?」
「私、簡単なトラップ解除なら出来ます」
「「有能な人材いた!」」
思わずレルゲンとマリーが声を揃えてミリィを褒める。
勉強熱心なセレスティアに至っては「ミリィ様、後で教えて下さい」とミリィにお願いしている。
新しい魔術に触れるのが楽しいようだ。
「でもでも、本当に簡単なトラップしか解除出来ませんよ?」
「俺達はその簡単なトラップですら解除出来ないんだ。もっと自信持ってくれ」
「えへへ」
ミリィはやはり自身の技術を過小評価している節がある。
もっと褒めて伸び伸びやって欲しいとレルゲンは思った。
遺跡の跡地のような道なき道を進んでいくと、セレスティアの魔力感知に引っかかる。
「皆さん、少し行った先に魔物がいます。数は十体。魔力的にはそこまでの強さは感じられませんが、
レルゲンが言っていたように追加の状態異常がある可能性があります」
「「「了解」」」
各々が武装を取り出しゆっくりと距離を詰める。セレスティアがノーマリィ・コンディションを再度掛け直すと遺跡の影から魔物が見えてくる。
四段階目の魔物、ナウム・プラント。
花の様な見た目の頭部からは何やら鼻をつく匂いが分泌されており、酸っぱいような、辛いような刺激が強い部類だ。
花からは無数のツルが伸びており、触手のようにウネウネさせながら地面を這って移動している。
「まずは私から参ります。ブルーフレイム・アローズ!」
火の上位魔術が上空に無数に出現し、一斉にナウム・プラントへと突き刺さって火がついたツルは、
忽ち灰になって時間差はあったが魔石へと還っていった。
「俺達もいくぞ、ミリィはセレスと同じ火を使った魔術で攻めてくれ!」
「分かりました!」
マリーは通常通り神剣に魔力を込めてナウム・プラントへ斬りつけようと肉薄すると、
花の頭部が口の様にガバッと開き、何やら射出しようとしている。
「そんな鈍い攻撃当たらないわよ」
横に飛びながら射出された液体は地面に当たると同時に遺跡の石を溶かしていた。
これは間違いなく
「強酸のブレスか!」
即座に自身とマリーに矢避けの念動魔術をかける。
マリーは花である頭部目掛けて斬りつけるが、ナウム・プラントも上手くツルを使って防御体制を取る。
何本にも重ねられたツルで斬撃の勢いは完全に殺され、マリーの腕や足に絡み付かんとする。
「気持ち悪い!」
マリーは即座に神剣に風の魔法、ウィンドカットを纏わせて切断力を上げて身体に纏わりついていたツルを切り刻み距離を取る。
後方から火の上位魔術を使って着実に数を減らしていくセレスティアは問題ないが、近接のレルゲンとマリーは若干戦いづらいさを感じていた。
レルゲンは数少ない使える火の中級魔術、ファイア・ストームでマリーがツルを切断したナウム・プラントを焼き払い討伐すると、
それを見たマリーも一緒に魔術行使に切り替え、風の上位魔術のテンペストを発動するべく距離を取りながら詠唱を始める。
残り半分になったところでマリーがテンペストを発動させ二体纏めて討伐し、
最後の締めにレルゲンが黒龍の剣に魔力を込めて、赤い光線攻撃をナウム・プラントに浴びせて完全討伐した。
仮に強酸攻撃を避けようとして、毒沼に足を突っ込もうものなら意味がない。
状態異常を防ぐ術師や、居なければ解毒剤を大量に携行する必要があるのが、今回の層の特徴のようだ。