10話 新たなパーティメンバーと共に十層ボス攻略会議
ミリィが加わった事で、レルゲン達のパーティは以外にも上手く回っていた。
元々いてもいなくてもそこまで変わらないと思っていたが、そこは腐ってもAランク冒険者。
闇のデバフ魔術を駆使して相手の速度や攻撃、防御力低下など、種類が多い。
セレスティアは支援系魔術を得意とするが、味方全体のバフがメインで、相手の能力を下げる魔術はそこまで使用頻度が高くなかった。
というのも、レルゲンやマリーのように基礎能力が高いと相手より味方の能力に干渉した恩恵が大きいと考えていたから。
セレスティアはミリィの加入で自身の考えを少し転換する必要があると考えるようになる。
ミリィは他にも影移動魔術で魔物を影に強制的に引き込み、影に体が半分ほど沈んだタイミングで影移動を解除すると、
その間の魔物は移動中のため影から動くことができず、棒立ち状態となったところをレルゲンとマリーが片付ける。
非戦闘用の魔術を戦いに転用する方法はどこかレルゲンに似ているとマリーとセレスティアは実感していた。
繰り出される魔術は一つ一つ日頃の研鑽を感じられる使い方で、一人だけ生き残って逃げ回れていた生存能力の高さも頷ける。
レルゲンはミリィの能力を完全に舐めていたが、前衛が安定している時の支援系魔術師は鬼に金棒だと評価を改める他なかった。
(これは後で謝らないとな)
パーティの実力次第で霞んだり化けたりするのが支援系魔術なのだ。
普段から日常魔術を応用しているレルゲンは昔ならきっと気づいていただろう。
しかし、新しい武器を手に入れ続け、急激に成長していった事で心がまだ追いついていなかった。
その事を自覚し、改めることで更にレルゲンの世界は広がって行くだろう。
戦闘が終わり、レルゲンはすぐにミリィの元へと向かって謝罪を入れる。
「すまなかった。正直言って俺は君を舐めていた。だけど、これからはこちらからパーティに残って欲しいと思っているよ。無理にとは言わないが、どうだろうか?」
レルゲンが素直に謝ったことで、マリーとセレスティアは驚いた表情をしたが、ミリィはというと表情は変えず、目を開いたまま片目からのみ涙を流す。
「ごめんなさい、私。そんな事今まで言われた経験なくって──つい」
マリーとセレスティアが優しくミリィを抱きしめる。
子供のような声を出しながらミリィの顔はぐしゃぐしゃになり、今までの我慢が解放されたように暫く泣き続けた。
落ち着くまで待っていると、ミリィがマリーとセレスティアにお礼を言ってレルゲンの方へ向き直る。
「これからよろしくお願いします!」
泣き続けたからか目元が赤くなっているが、笑っている表情を精一杯作り
「えへへ」
と頭の後ろに手をやりながら少し恥ずかしがるのだった。
それからというもの前衛のマリー、中衛のレルゲン、後衛のセレスティアとミリィのパーティは、十層の攻略をどんどん進めていくのだった。
いざ迷宮に入ってからも安定感は崩れずに立ち回ることができ、攻略速度もさることながら危なげなく進んでゆく。
途中、後衛を狙い撃ちする知能の高い四段階目相当の魔物がいたが、全てレルゲンが念動魔術により二人をアシストして、隙をいつも通り作り打ち倒した。
「迷宮なんて入ったことなかったですけど、不思議と怖くはありませんでした」
「前衛がしっかりしているからですね。後衛の私達は前の二人が戦いやすい状況を作れば、自然と戦況が有利に進められます」
「確かに…自惚れるつもりは全くありませんけど、支援が上手くいく時は戦っていて楽しいです」
「これからがもっと楽しくなりますよ」
「私、もっと頑張ります!」
やる気に漲るミリィを見て、セレスティアが朗らかな表情で笑う。
(このパーティに拾ってもらってよかった!)
迷宮内で初めて魔力揮発剤を使用して、簡易的な安全地帯を作って昼食を摂る事に。
ここは迷宮の最深部近くだ。そのため最前線とはいえ冒険者が比較的少ない。
どのパーティも苦戦しているのだ。
その中で優雅に休憩しているパーティをみればからかいたくもなるだろう。
「のんきな連中だな」
「女侍らせて恥ずかしくねぇのか?」
など、言いたい放題だ。
居心地が悪くなったミリィが、心配そうに尋ねる。
「周りの声が気にならないんですか?」
「ああ、大したことない連中だからな。気にしてもしょうがない」
「そうね」
「はい。気になりません」
「……これが強者の余裕ですか。私はそこまで堂々と出来ません」
「実際侍らせるも何も、二人は俺の奥さんだからな。気にする方が不自然だ」
「え!ご結婚されて……!え?二人共?」
三人が頷く。
それを見たミリィは「世界って広い…!」
違った意味で感心するのだった。
ついに十層のボス。アシュラ・ビーストが待ち構える部屋まで到着する。
しかし、直ぐにレルゲン達は挑戦することはない。
何故ならこの十層のボスで攻略が止まっているということはそれだけ情熱を注いでいるパーティがいると同義だ。
一度、十層の冒険者拠点に戻ることにするが、ボス部屋の扉に何やら鋭利な物で傷が付けられている事に気づき、近くで確認してみるが意味は無いように見える。
(何かの印か?)
少し考えたが答えは出なかったので、そのまま帰還することに。
初めてボス部屋の扉を見たミリィは首を上に向けて「はえぇー」と口を大きく開けていた。
冒険者拠点に戻ると一人の爽やかな表情が特徴の男性が、何やら大声で呼びかけを行っているようだ。
「明日、四回目となる十層のボス攻略会議を開催します!来れるやつは指定の時間に集まって欲しい!」
何度も大きな声で同じことを繰り返して、攻略者を募っているようだ。
この呼びかけを聞いたマリーがレルゲンに尋ねる。
「明日だって!行くでしょ?」
「もちろん参加する。みんなもいいよな?」
セレスティアとミリィが頷く。
今日はミリィが加入したお陰もあってボス部屋の前まで来ることが出来た。
明日、攻略会議ではボス部屋の前まで行った経験のあるパーティがメインで話が進んでいくだろう。
次の日、ボス攻略会議は予定通り開催された。
昨日大声で呼びかけを行っていた爽やかな男性が集まった全員に向けてお礼を言う。
「みんな!今日は急な開催にも関わらず集まってくれてありがとう!
俺はヒューゲル。今回も前回の攻略と同様にリーダーをやらせてもらいたいと思うが異論ある人はいるか?」
誰も反論の声は上げない。
ヒューゲルが少し待ってから続ける。
「ありがとう!それじゃボスの行動について話して行こうと思う」
「待ってくれ」
ヒューゲルの進行を妨げる男性が一人。手を上げながら声を上げた。
「何かな?アストさん」
「ここは未だ攻略出来ていないボスの攻略会議だろ?なんでお荷物のミリィがいるんだ?」
名前を出されてビクッと身体が跳ねるミリィ。
どうやらここまで無理についてきたどこかのパーティメンバーの内の一つだろう。
当然の抗議である。しかし、マリーが黙っていない。
「ミリィは私達のパーティメンバーよ、貴方には関係ないわ」
「いや、あるね。攻略が行き詰まってからみんなで何とかしようって時に全体の和を乱す奴がいるとこっちの命まで危なくなるのさ」
「じゃあここで貴方を力で黙らせばいいのかしら」
「上等だ、やってみろよ嬢ちゃん」
お互いに言葉に熱が籠っていくが、そんな中レルゲンは冷静だった。
マリーを手で制し、ヒューゲルに向かって発言を求める。
「どうぞ、そこの手を上げている方」
「レルゲンだ。ミリィの今までの行動については俺からも謝罪する。
だが、彼女がいたからこそ俺達は四人でボス部屋の前まで来たことは間違いないと思っている」
アスタがレルゲンに食ってかかる。
「はっ!たった四人でボスの部屋まで行けるわけねぇだろ。
寝ぼけんな。大体、証拠がなけりゃ口では何とでも言えるぜ。兄ちゃんよ」
「そうだな。口だけなら何とでも言える。だからコイツを見てくれ」
取り出したのは一枚の紙。昨日のボス部屋の扉にあった印の様な傷が描かれている。
その紙を見た何名かが「おぉ」と声を上げた。
ヒューゲルも頷き、アスタを宥める。
証明がされた事で攻略会議へと議題が戻って行く。
「改めてボスの名前はアシュラ・ビースト。
光線や分割した熱線攻撃、素早い移動と巨大な体を活かしたタックル攻撃が今までの攻略で確認されている。
一度ボス部屋を後にすると魔物の傷は完全に癒えた状態に戻り、日を重ねる長期戦は出来ない。
一度で体力が完全な状態の六段階目の魔物討伐だ。
パーティ同士で連携を取るよりも、パーティ内で連携を取った方が安全で効率がいいと考えている。
ボス部屋まで到着したパーティに積極的に動いて欲しいが、レルゲン君のパーティは最初、周囲の警戒をして欲しい。
状況を見て俺が指示を出すからそれまでは支援に徹して貰えると助かる!」
レルゲンが無言で頷くとヒューゲルが更に続ける。
「初めは俺達とアスタのパーティで前衛を務める。ある程度削ったら……」
作戦会議は一時間程行われて、攻略方法の共有が終わる。
有り体に言ってしまえばレルゲン達のパーティは実力が未知数のため、ヒューゲルも扱いに多少困っていたようだ。
前に出る事はほぼない陣形配置となり、マリーが不満気だったが、攻略が行き詰まっている現状では何よりも安全性が重要視される。
その事をマリーはわかっていたためにアスタとの言い合い以降は黙って話を聞いていたのだ。
どうしようもなく、他のメンバーが打つ手がなくなった時にレルゲン達は自由に動くことができるようになる。
まずは今後の攻略を考えれば、ある程度の活躍だけで十分なお釣りが出るのがボス攻略。
しかし、レルゲンはいつでも行ける様に三人に伝えていた。
セレスティアも気づいてはいたが、はっきり言って攻略会議に集まっているメンバーの自然魔力を感知すると、
魔力の揺らぎや大きさから、六段階目で最終奥義の核撃まで考えると実力不足に映っていたためである。
途中から必ず出番がやってくると伝えられたメンバーは、特にマリーがやる気に満ち溢れていた。