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8話 忍び寄る影

気を取り直して一層の攻略を再開する、平原から森へ歩いて行くと、ユニコーンが綺麗な川が流れている水辺で休憩している。その数四頭。


ユニコーンは刺激しなければ襲ってくる事はない。川の反対側にいることからそのまま通り過ぎる。


一枚の絵画を見ているような景色にセレスティアは目を輝かせていたが、ユニコーンを一度怒らせてしまった経験のあるマリーは足音を立てないように気をつけて歩く。


森と川のエリアを抜けていくと石で出来た建造物の入り口が見えてくる。恐らくはボスに通じる建物だろう。


三人がお互いを見合い、少し緊張しながらも建物へと足を運んでゆく。


建物へ入ると内部は迷路のような構造になっているが通路自体は広く、直角に曲がる道があればクネクネと蛇行するような道もある。


通路には魔物の反応はなく、少し開けた部屋に入ろうとすると魔物が自動的にポップするようだ。


さながら冒険者を検知する仕組みがあり、魔力リソースを効率的に回しているとも取れる生きた魔術師のような印象をレルゲンは感じ取っていた。


「今回の部屋はリザルドか。数が多い、セレスは俺とマリーが出来るだけ数を減らしてから援護を頼む」


「分かりました。では全員分のバフをかけ直します」


リザルドは人型の二足歩行で手にはカガチや片手直剣など、片手で振り回せる武器に盾を持った魔物で、身体には防具をつけているものもいる三段階目の魔物だ。


この手の魔物は、魔物と認識するよりも人間と思っていた方が戦いやすい。


リザルドが身につけている武器や防具は古びた装備で、まだ出現して間もないダンジョンでどうやって古い装備を手に入れているかは謎だが、リザルドの攻撃を剣で受けていると、使い慣れていると感じる攻撃をしてくる。


様子を見るように何度か打ち合い、鍔迫り合いをした後に剣を上へ思いっきり打ち上げて、体制を崩す。重心が持ち上げられたリザルドの空いた懐へ浮遊させていた剣を数本突き刺して勝負あり。


マリーは一人で複数のリザルドを相手に攻撃を小刻みに繰り出し連続剣の加護を発動させる。これは中難易度ダンジョンで会得した複数相手に対する加護の発動法で、マリー独自の戦い方だ。


加速し終えると複数から単体へと狙いを変え、速くなったマリーの速度に追いつけなくなったリザルドが振る剣は、明後日の方向へと振り下ろされ、振り下ろされた後の僅かな硬直にマリーが背後から神剣で斬りつけてこちらも魔石へと還っていく。


途中からマリーとレルゲンでどちらがより多く倒せるかの勝負へと変わり、援護の準備をしていたセレスティアは途中から神杖を構える腕を下ろし、口を手で押さえて笑っていた。


結果はレルゲンが二体差で勝ち、マリーが悔しそうな表情を見せる。


「この勝負、レルゲンの勝ちです」


「後少しだったのにー!」


「無駄に疲れるから今後は無しな」


戦闘が全て終了して地面にはリザルドの武器や防具がドロップ品として散らばっている。

換金しても大した額にならないため、念動魔術で全て端に移動させてから次の部屋へと向かう。


レルゲン達が部屋を後にしてから端に寄せられた武器や防具は、ダンジョンの床に吸収されるように沈んでいくのは知る由もなかった。


一方で、レルゲン達の後方から隠蔽魔術で隠し、移動するタイミングで自分達の足音を紛れさせていたパーティがいることに気づく。


途中からレルゲン達を発見し、漁夫の利を狙っているのか、はたまた実力でレルゲン達の身ぐるみを剥ぎ取る事でも考えているのか。

どちらにせよ、こんな常識知らずに碌な奴はいないだろう。


魔力糸をマリーとセレスティアに繋ぎ、糸電話の要領で話しかける。


(態度に出さないように俺の話を聞いてくれ。俺達の後ろから隠蔽魔術を使ったパーティが付かず離れずの距離で後をつけてきている。


何が目的かは分からないが、いつでも戦闘体制に入れるように準備してくれ)


(全然気づかなかったわ。人数は?)


(正確には読めないが複数はいると考えていい。何度も言うが気取られないように注意してくれ。セレスはディスペルと隠蔽魔術をいつでも発動出来るように頼む)


(分かりました。ディスペルは正確な位置が分かればすぐに発動出来ます)


(よし、次に開けたところに出てから魔物を倒した後に、こちらも隠蔽魔術を使って誘ってみよう。

魔物との戦闘中は魔力糸を常に接続するから思念で連携になるな)


道が開けてきて、魔物がポップしてくる。

後衛のセレスは追手とは反対側まで回り込むように素早く移動し、刺客から距離を取る。


今度は遊び無しでレルゲンとマリーが全速で魔物を蹴散らし、セレスティアも攻撃魔術を発動して援護を行うことで、時間にしておよそ五分にも満たない早さで討伐を終える。


討伐が終わったと同時にレルゲンがセレスティアに合図を出す。


(今だ、隠蔽魔術を発動してくれ)


(お任せを、ハイド・スペリア)


三人が急に目の前から消え、刺客が急いで開けた部屋まで走ってくる。

既に三人は念動魔術で天井付近に位置取り、足音を消し、相手を捉えやすくする。

セレスティアが熱感知を使い、ディスペルがすぐにでも発動できるとレルゲンを見て頷く。


(マリーは不測の事態が起こった時のために天井にいてもらう。いつでも行けるように準備しておいてくれ)


(わかったわ)


追手の足音がピタっと部屋の中心で止まり、レルゲン達を探していると分かる。セレスティアに合図を出し、即座に準備していたディスペルを発動させる。


(ディスペル)


隠蔽魔術が強制解除され、追手がお互いを見合って硬直する。

魔力糸を予め蜘蛛の巣状に展開していたレルゲンはこの隙を見逃さなかった。


「綴雷電」


「がっ…!」


バチバチとディスペルによって硬直していた追手の三人が感電し、その場に倒れ込む。

全員分の武装を没収し、レルゲンが魔力糸でグルグル巻きにして拘束し問い詰める。


「さて、君達。なぜ俺たちを隠蔽魔術を使ってまで追っていたのか説明してもらおうか」


「誰が説明するか!」


「そうか、言いたくないか」


再びの綴雷電が追手を襲う。最初は加減して電気を流したが、今度は気絶しないギリギリの強さまで電力量を上げる。


声にならない悲鳴が上げられるが、しばらくの間は電気が流された。

先に根を上げたのは隠蔽魔術を使っていたと思われる術師の女性だった。


「言います。なのでもう電気は勘弁して下さい」


「おい!裏切るのか!」


「現実を見てよ!もうどうすることもできないのよ!」


「ちっ…」


リーダー格の男が大きく舌打ちするが、年齢はレルゲン達より少し上くらいに見える。

ここまで計画的な追跡は初めてではないだろう。闇討ちに近い形で何らかの利益を得ていると考えられる。


「改めて聞くが、君達の目的は?」


「私達はダンジョン攻略者が取り逃がした魔石を回収したり、休憩中の冒険者から素材や魔石の入った袋を盗んだりしていました」


「それで今回の標的が俺たちだったという訳だな?」


「はい。そうなります」


「目的は本当にそれだけか?」


ここでレルゲンの眼に力が込められる。

場を包む空気が一瞬で冷たくなり、マリーとセレスティアまでも表情が固くなる。


暗に嘘をつけば身の安全は保障しないことを伝えると、拘束された男性二人は身体が跳ねて冷や汗をかいており、術師の女性に至っては恐怖の余り涙目になりながらも説明する。


「このまま順調に行けば第一層のボスに挑戦されると思い、上手く行けばドロップ品を回収するつもりでした…」


「そうか。わかっているとは思うが重大な迷惑行為だ。攻略本部に自主してもらうが、構わないな」


「分かりました」


「わかったよ」


三人目の男性に至ってはレルゲンの圧に負けて気を失っている。次に目を覚ました時は既に取り調べ室だろう。


レルゲンが正直に話した女性に向かって表情を少し柔らかくする。


「闇の上位魔術をせっかく使えるんだ。こっちの男達はともかく、君は少なくとも他でもやっていけるはずだ。これを機に足を洗うことを勧める」


話が終わり脅威が去ったのを確認してマリーが空中から降りてくる。


「話は纏まったみたいね」


「あぁ、今日は肩慣らしのつもりだったんだ。これからこいつらを連れて攻略本部に戻ろうと思うが、マリーとセレスもそれでいいか?」


「ええ」


「今日の目的は達成していますし大丈夫です」


レルゲンが頷き、来た道を戻るべく進む向きを変える。


攻略本部に帰ってから、レインに事情を説明すると


「お疲れ様でした。初日から災難でしたね」


と苦笑いを返された。


追手の三人を引き渡し、回収した魔石を換金すると三・四段階目の魔物とはいえ数が多かったのかかなりの金額になっていた。


陽が落ちかける時間までダンジョンに潜っていた事を知り、昼夜の感覚がダンジョンにいると狂ってしまうのは今後注意が必要になると心に留めておくことにする。


「とりあえず二人とも初日お疲れ様。どっか寄る?」


「今日は何だかんだで疲れたわ。私はすぐに帰りたい気分…」


「私もマリーに賛成です。慣れない環境で更にイレギュラーもありましたし、今日はすぐに休んだ方がいいと思います」


「わかった。今日は真っ直ぐ帰ろうか。俺もくたびれた」


三人とも気力面で疲労していると感じているようだ。風呂ではまた一悶着あったが、直ぐに三人とも眠りにつくのだった。

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