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2話 神剣と神杖

「俺は見ていない、セレスは?」


セレスティアを見るが首を振って見ていない様子。

レルゲンが水龍に下の建造物について尋ねる。


「この下に何かあるのか?」


「うむ、そなたらは水源確保の時は魔法陣を私に依頼したから知らぬのも仕方あるまい。簡単に言うと、私自身かつてはここではない所に住んでいたのだ。


だが、何者かに転移されてな。お主らが初めてここにきた時の原因でもあったナイトとやらとはまた別の人間だ、そやつは知性に溢れ、私以上の頭脳を持っていた。


湖の下にある魔法陣はその時の名残を利用したものよ。見たところ大昔の遺跡のようなものだが、そなたらでは深過ぎて辿り着けまい」


昔を懐かしむように水龍が語るが、その瞳にはかつて自身を騙した人間に対する怨みは無いようだった。


「いや、俺の魔術で水中でも息が出来るから、深さはあまり関係ないな」


「どうやって?」


不思議そうにマリーが尋ねてくる。


「顔の周りに空気を集めて固定すれば、水中でも息が出来るってこと。潜るのがちょっと大変になるけどな」


「念動魔術で空気を……空気は目に見えないのによく出来るわね」


「そこは慣れだな。顔周りの外側に枠を作るイメージだからそこまで難しくは無いぞ」


「私にはまだ出来なさそうだわ。魔力糸がないとまだ物の浮遊すらできないし」


「そのうち出来るようになればいいさ。カノンを起こして潜ってみるか?」


セレスティアが「それは難しいのでは」と前置きし


「一度眠ったら中々起きませんよ。カノンには悪いですが、私達だけで行きましょう。

転移魔法陣のこともあるので、一度着替えて装備を整えてから」


「マリーもそれでいいよな?」


「ええ、何だか冒険みたいで楽しくなってきたわ」


「一応カノンが起きた時に俺達がいないと心配するだろうから書き置きだけ残しておこう」


「そうですね」



着替え終わり、レルゲンが即席の水中探索用に、空気の塊を生成する。


「水龍殿、その遺跡まで案内頼めるだろうか?」


「良かろう、私の背に掴まれ」


三人は水龍の背に捕まり、水中の中を進んでいく。空気の量に限界があるため、会話は魔力糸による思念のみで伝達していた。


(これがマリーの言っていた遺跡か。こんな薄らしか見えないのによく分かったな)


(そう?普通に見えたけど)


(私にはようやく見えるくらいですよ。マリーの目がいいのではないですか?)


水中遺跡に到着し、辺りを見回してみるが、石で出来た柱のようなものが規則的に立ち、奥には祭壇のような物が鎮座している。


何やらその祭壇には古代文字で書かれているようで、レルゲンとマリーは首を傾げていた。


するとセレスティアが書かれている古代文字を読んでいる。


(セレス、読めるのか?)


(何となくですが、恐らくは。「水中の秘宝が欲しければ、この先の試練を突破せよ」だそうです)


(水中の秘宝か、何があるか分からないしあまり気乗りはしないな)


(やりましょうよ!その秘宝がどんなのか気になるわ!)


(私も実は古代の文字で隠されているだけに、貴重な品物だと考えていまして……)


考えているとマリーとセレスがどうしてもやってみたいという眼差しを送ってくるので、どんな試練なのか覗くだけ見てみることに。


試練一、ここにいる水龍に力を認めさせよ

試練ニ、この遺跡を息継ぎ無しで3周せよ

試練三、私の願いを叶えよ


(私の願いとは何でしょうか?試練の一、ニはレルゲンのおかげで問題なくクリア出来ますが、試練三がどんなものなのか気になりますね)


(とりあえず試練一は終わっているし、試練ニからやってみたらどうだ?)


(私が周ってくるわ)


マリーが遺跡を三周し、レルゲンの所まで戻ってくる。すると、地鳴りと共に遺跡が動き始め、秘宝とみられる大きな杖と両手剣が顕になる。


マリーが思わずその秘宝に触ろうとしたが、レルゲンが止める。

まだ試練三が残っているのに、秘宝が出てくるのはおかしいと感じたからだ。


一旦水面まで上昇し、念動魔術で二つの秘宝を持ち上げる。

思っていたよりも重量感は感じず、簡単に持ち上がった。


しかし次の瞬間、遺跡と思われる石柱や祭壇に至るまで、秘宝を残して全て消えてしまったのだった。


迂闊にマリーが触っていたら、今頃は三人とも転移事故に遭っていたかもしれない。

水面から秘宝を取り出して二人に渡すと、確かめるように観察する。


マリーには両手剣を、セレスティアには杖を渡す。マリーの両手剣は柄が青、刀身は白銀。


鍔付近には碧い宝石が嵌め込まれており、その左右には恐らく宝石を嵌め込むための穴が二つ空いている。


長い期間水に晒されていたにも関わらず、錆は一切なく、剣から魔力を感じることから間違いなく魔剣だろう。


一方セレスティアの杖だが、杖は特殊な木製で出来ており、こちらも水による腐食が全くない。


先端には大きな水晶があつらえており、元々小さな木の枝に近い杖を使用していたセレスティアにとって、大きさが変わるのは一長一短といったところだろうか。


大きな水晶からもマリーが持つ剣と同様に魔力を感じるが、これは魔石とはまた違った魔力の質だ。


覗き込むように水晶を見るが、どういった構造なのか博識なセレスティアでもよく分からないようだ。


間違いなく古代の神杖と呼ばれる代物だろうが、神杖と同じくあったこの剣も同じ神剣と呼ばれる伝説上の物なのだろうか?


レルゲンが考えていると二人が新しい武器を試そうと魔力を込めると、二つの武器が碧く輝き、二人の命令を待っている。


マリーは手頃な木目掛けて振り下ろし、セレスティアは低級魔法のウォーターボールを生成する。


するとマリーが斬りつけた木は呆気なく切断され、セレスティアがだした水の塊は思い描いた大きさの5倍以上の大きさとなって現れた。


これには二人とも驚いていたが、深域の、ましてや伝説上の武器ともあれば納得の性能だった。


なぜ深域の奥地にこんな武器が隠されていたのかは謎だが、ありがたく頂く事にするようだ。


「マリーはお母様から貰った魔剣がありますが、どうするのですか?」


「これなら新しいこっちにしたほうがいいかも。切れ味も申し分ないし、何より大きさに対してかなり軽いわ。

一体どうやったらこんなの作れるのかしらね」


「それには同意です。この杖の水晶も恐らくマリーの剣を作成した方が作った物でしょうが、性能が高過ぎて怖いくらいです」


マリーは手数が多ければ多いほど、「連続剣の加護」に対する恩恵が大きくなる。


そのため、剣の重さ自体も手数に大きく関わってくるのだ。


この両手剣なら、マリーの膂力を持ってすれば片手で普段から戦えるだろう。


セレスティアも多彩な魔術を使用することから一度の魔術効率が上がれば更に戦闘の幅を広げることが出来る。


「二人とも、その秘宝を今後も使っていくのか?」


「ええ」


「そのつもりです」


二人とも自力が高い分、武器の性能向上は大きな戦力増強となるだろう。間も無く夕暮れ。


今だに爆睡しているカノンをレルゲンが背負い、一日場所を快く貸してくれた水龍にお礼を言ってその日は深域を後にするのだった。


「はっ!折角のバカンスが寝て終わってしまった!」


飛び起きたカノンは自室に寝かされており、一瞬やってしまったと後悔するが、久しぶりの自室でのベッドでの睡眠を再び謳歌した。


連日の夜更かしで出来たクマはスッキリ取れ、周りに人がいないとここまで熟睡出来ると気づいたカノンは、定期的にレルゲンを誘って睡眠を取りに深域へと赴く事になるのだった。


改めて深域での出来事を女王であるダクストベリクへ報告すると、やはりというべきか古代の武器に相当する代物だと分かるようだ。


しかし、マリーの新しい両手剣に嵌められる宝石については女王ですら心当たりはなく、国で保管している希少な鉱石を試してはみたが、剣の反応は一度も見られなかった。


これにはマリーも若干肩を落としたが、それでも今までの剣より性能が上がっていることは間違いない。

むしろ伸び代がまだあることをレルゲンが伝えると


「じゃあこの宝石探しの旅に付き合ってくれるわよね?」


と屈託のない笑顔で再びの家出宣言をするマリーに女王は少し苦笑いをした。


それから暫く公務に戻ったレルゲン達は暫く缶詰状態となったのだが、ここでカノンがレルゲン達の部屋をノックして入ってくる。


「やぁ諸君!今日は耳寄りな情報を持ってきたぞぉ〜」


「どんな情報?」


この前行ったバカンスだが、あの後から世界各地でダンジョンがやたらと発生しているらしい。


「遺跡の件と関係あるのかしら……?」


「恐らくね、どうだい、気になるだろう?」


「気にはなるけど、ダンジョンは言わば国の資産だろ?


他国のダンジョンに勝手に入って資源を持ち帰ったら問題になるんじゃないか?」


「今どこの国でも冒険者を多く集めて地域活性化を考えているようだから、特需として冒険者には認められているようだよ」


「でも俺たち冒険者じゃなくて、王族関係者だし」


「その点でしたら問題ありません。まだこの王国は設立したばかりですし、他国とのやり取りも途中です。


お母様と王女である私達、貴族諸侯が新興国として周辺国に取り計らってはいますが、未だに私達の国を認めていないところも多くあります。


未だに中央と言えば、王国ではなくギルド本部がある街のような認識が大半ですね」


「なるほど、それを逆に利用しようということか」


ダンジョンといっても難易度が場所によって大きく変わる。


二・三段目までしか出現しない初心者用や、四・五段目が跋扈する最上級のものまで多種多様だ。


今回無数に現れたダンジョンは後者の高難易度が大半のようで、カノンによると、既に中間層の冒険者が初心者でも高難易度でもない数少ない狩場を取り合っているようだ。


「どうだい?君達は高難易度ダンジョンよりも危険な深域を一度攻略している。行ってみてはどうだい?」


「私は行きたいけど、お母様が許すかな?」


「そうですね、そこが一番気になるところです」


血の気の多い冒険好きの二人はさておき、溜まりに溜まった内政はどうするのかと考えるが、頭のいい二人のことだ。


なんだかんだでダンジョン攻略まで漕ぎ着けてしまうのだろう。


となるとレルゲンがやっておくべきことは、二人が交渉している最中に、


冒険者としてギルドに登録して直ぐにダンジョン攻略まで可能な状態にしておくことだろう。


そうと決まれば善は急げだ。


「二人ともダンジョン攻略行きたいんだろ?」


二人とも頷く。


「なら行けるようになるまでに俺の方でもギルドに話を通しておくよ。準備も含めてな」


「ありがとう!じゃあお母様にはこっちから何とか説得してみるわ」


こうして高難易度ダンジョンの攻略が幕を開けようとしていた。

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