第三章 最終話 それぞれの想い
「本当に皆さん、王国のために尽力して下さり、ありがとうございました」
最後の戦いから数日後、傷が癒えた頃に女王陛下から感謝の言葉が述べられた。
王国の水問題はカノンの尽力により普及工事が進んでおり、こちらも飢える寸前で解決へ向かっているようだ。
「ベンジー騎士団長亡き後、現在は空席のままですが、ハクロウ副団長を騎士団長に昇格し、そしてレルゲン、貴方を副団長に任命致します。よろしいですね?」
二人が同時に答える。
「「謹んで拝命致します」」
ナイトの討伐と、王国を狙った数々の暗躍が終了した事を祝して祝勝会が開かれた。
「しっかし、俺がボウズ直々の上官とはねぇ…功績を考えたら普通逆じゃねぇ?」
「私専属の騎士ってだけで、今まで普通の騎士と同じ階級なんだから妥当でしょ」
「いやぁ、俺片腕無くなっているしよ…」
「それなんだがハクロウ、無くなった左腕について話があるから後で」
「ん?ここじゃダメなのか?」
「まあな」
「まぁいいか、んじゃ嬢ちゃん達をあまり待たせるなよ」
「ああ」
短い挨拶だったが、一時は死にかけていたハクロウも晴れやかな表情をしている。貴族に挨拶をして回っているマリーを見つけ、半ば強引に話しかける。
「マリー、ちょっといいか?」
周りの貴族達に別れを告げて、マリーがレルゲンの前に来る。
「どうしたの?」
「俺と一曲、踊ってくれるか?」
その直球な物言いにマリーは少し驚いた表情をしたが、すぐにレルゲンを見つめ返し、返答する。
「喜んで」
簡単な踊りではあったが、マリーは笑顔は眩しく、また幸せそうな顔をしている。
そこはレルゲンとマリーだけの空間、もちろん他の貴族達も一緒に踊ってはいたが、周りも気を遣って少し距離を空けてくれている。
(マリーと踊れて良かった)
(私も、公の場で貴方と踊れたのは本当に嬉しいわ。セレス姉様の事もあるし…)
(今は周りの目は気にせずに一緒に楽しもう)
(そうね)
二人だけにしか聞こえない、踊りの中での魔力糸での思念会話は、心の距離の近さを象徴していた。
マリーとの踊りが終わってから、セレスティアの姿が見えない。
気になったレルゲンは少し辺りを見回して彼女を探すが、どこにも姿は見当たらない。
女王にも直接聞いてもみたが、分からないと返答された。
思い当たる所は後一つ。セレスティアと初めて会った中庭。初めて念動魔術の物質分離が成功し、セレスティアに声をかけられた場所だ。
初めて会った中庭に、やはり見知った後ろ姿があった。初めて会った時にも見た、月光を艶やかに反射する青く長い髪。
一人で椅子に腰掛ける姿は、一つの絵画を見ているような気分になる。
「やっぱりここにいた」
少し寂しそうな表情で振り向き、レルゲンに返答する。
「探しましたか?」
「セレスが見当たらなかったから、いるとしたらここかなって」
「貴方はマリーと踊りました。やはり私のこの想いは、空回りだったのでしょうね」
セレスが薬指に付けられた、魔石龍から貰った指輪を見つめる。
「セレス。この指輪、見てくれるか?」
ゆっくりとレルゲンの小指から外される指輪を、セレスティアはもう見ていられないと思い顔を逸らす。
「セレス、頼む。もう一度だけ見てくれ」
レルゲンがセレスティアに頼むと、嫌々ながらも目を開いてレルゲンの手を見る。
それを見たセレスティアは一筋の涙が流れ、二人の影が重なる。与闇の星々に照らされた二つの指輪は、共に同じ指で光輝いていた。
後日、セレスティアがナイトとの戦いで新しく覚えたディスペルで、隠蔽魔術であるハイド・スペリアによって隠れていた魔族達を炙り出し、これを討伐。
また、ナイトの魔術工房の調査から、王国の転移方法が記載されている設計図と、魔力揮発剤の簡易的な生産方法が発見されたことから
カノンが王国中を包む転移魔法陣を時間が少しかかったが再構築。
転移に必要な魔力はレルゲンが担当し、王国を元の位置に戻す事に成功。
この短期的な王国転移事件に便乗して、王国の転移前の位置へ国を動かす所も中にはあったようだが、いざ移転するタイミングで王国が戻り、
両国の関係が悪化したのはまた機会があれば語るとしよう。
国が元に戻り、商人や観光に来る人々が戻り、全てが元に戻ろうとしていたが、決定的に変わったのが一つ。
マリーが挙式を行ってからまだ間もない内にセレスティアも式を行い、相手は同じ人物であるという事から国民は一種のパニックにはなったが、
この一連の事件を解決した英雄であることが広まってからの事態は鎮静に向かった。
彼、彼女らの国は駆け出しもいいところ。まだまだ問題は山程出てくるだろう。
それでも彼女達が望んだ未来を叶える為に、彼はまた喜んで走り続ける。
ここまでお読み頂きありがとうございました!
次回からは第二部となり、レルゲン達の活躍はまだまだ続きます。
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