33話 質量を持った分身
残すところ四本になった所で、スカイツリーに巻き付くようにしてこちらを睨んでいたヤマタノオロチの行動がまた変わる。
今度は魔物を呼ぶのではなく、幻惑系の魔術を使った自らの分身を出現させた。
「三つのうち本体は一つだけだ!
順番に片付ける!」
だが、レルゲンの予想とは裏腹に、出現した分身と思われる他の二体が、下にいるセレスティア達に襲いかかっている。
瓦礫の山を崩しながら質量を持った分身。
二体のヤマタノオロチを相手取るのは不可能だ。焦る気持ちを囃し立てるように、レイノールとメアリーを押しつぶさんと突進を始める。
二人の後ろにはセレスティアと召子がいる。
そしてこのまま暴走範囲が広がれば、東京の拠点である自衛隊駐屯地にまで戦いの火が影響しかねない。
本体を睨むと、うすら笑いを浮かべるようにそれから手を出してこない。
今ここで本体へダメージを与えれば、更に戦いの火が広がる。
あえて大人しくしているのは、レルゲンを誘っているのだ。下の仲間達を助けに行くまで、こちらからは手出ししないぞと。
巻きついているスカイツリーをへし折ってやろうかとも思ったが、下の分身と外見から見分けがつかない以上得策とはいえない。
上のヤマタノオロチから注意を逸らすことなく、分身をすぐに片付けなければ。
本体を一瞥してから全員で下へ向かう。
押し潰されそうなレイノールの横へレルゲンが降り立ち、全開の魔力解放で突進を弾き飛ばす。
「レルゲン。お前、上の奴はどうした?」
「本体は一旦動きを止めた。
コイツは誘ってる。俺達が隙を見せるのを。
上への注意も忘れないでくれ」
「なるほどね。はー、めんどくせぇが了解だ。
それに今のやり取りで気づいたろ。
分身で質量を持ってるとはいえ、攻撃が軽い。
もし本体なら俺はお前が助けに来る前に潰されていただろうぜ」
少し離れたところにいるもう一体の分身は、クラリスが心念の盾を出現させてやり過ごす。
「これ以上、ここを荒らされるわけには行かない。すぐに片付けよう」
「足引っ張んなよ、大将。
俺は心念の一端をお前と離れている時に掴んだぞ」
「そっちこそ、鈍かったら置いていくぞ」
「抜かせ」
それからは空中に念動魔術で飛び出したレルゲンとは対極に、瞬間移動で同じだけの速力を発揮するレイノールが二人で競い合うように分身の頭を切断する。
「こいつ、分身だと頭が元に戻らねぇな!
こりゃいい! どっちか多く頭を刈り取るか勝負と行こうぜ大将!」
「遊びじゃないんだぞ」
「楽しまなくちゃテンション上がらねぇんだよこっちはよ! 理性的にギアが上がらないもんでね!」
「不便な奴だな」
始めはレルゲンが一本落としてからレイノールが追随するような形となったが、テンションの上昇で剣に乗る心念の出力も上がった赤髪の剣士の目の色が黄金に代わる。
最終的には二本ずつ落とし、分身の頭を全て落としたタイミングで、分身は魔力を霧散させながら消えていく。
「ちっ、同じか」
「馬鹿かお前は。分身でこんなに出力上げなくても十分倒せるだろ」
「あ? うるせぇな。
早く倒せて残る一体の分身をすぐに倒しに行けるんだから問題ねぇだろ。時短だ時短」
二人が言い合っている最中に、分身を倒したことによる緊張の緩みを狙った騙し討ち。
スカイツリーの上から発射された四属性を合わせた光線が迫ってくる。
二人は直前まで言い合っていたが、光線が当たる直前に本体に向き直り、レルゲンは天叢雲剣。レイノールはフラガラルクで真っ二つに斬り裂いた。
「失せろ!」
「邪魔だ」
レルゲンは斬るのみだが、レイノールは言動とは裏腹に器用さを見せる。
光線の軌道を弾きながら残る一体の分身へと向かわせて一度に二本落として見せた。
「あっ、お前」
「なんだ? やっぱりムキになってるじゃねぇか? 今ので二本リードだ」
レルゲンは一度大きく息を吐き、両手を上げて降参する。
「はぁ……いいさ、お前の勝ちで。
俺は本体に行く。後は頼んだ」
「美味しいところは抜かりねぇな。
いいぜ、後は任せな」
それから黄金の瞳を輝かせながら、メアリーとクラリス以上の魔力出力でレイノールは笑いながら残る二本を斬り倒した。
「さて、待たせたな。
どうやらだいぶ知能が高いようだが、やっていることは小物に変わりない。
先に隙を見せたのはお前の方だ」




