27話 ロンギヌスの槍
「まだ治るのか……!」
すぐに立ち上がろうとするが、レルゲンの両肩に手を置いた二人の妻は力を込めて座らせる。
「大丈夫。レルゲンはここで見てて」
「離れている間、私も強くなったんですよ?」
二人の頼もしい背中を見て、安心した時の笑いが込み上げてくる。
任せておけば大丈夫。
手を出す必要は無さそうだ。
「行くわよレイノール! コイツなら転生武器使ってもいいんじゃない?」
マリーがレイノールを呼んだが、それを制したのはクラリス。
「駄目ですよ。この程度の相手を複数で相手にするなら武器の性能は使う物ではありません」
「だって。残念だったわねレイノール」
「うるせぇ。そっちこそ、俺の速度について来れんのかマリー?」
「言われるまでもないわ!」
いつの間にか仲良くなっているマリーとレイノールの会話を聞き、少し寂しい気持ちになりながらも肩を軽く回すマリーの後ろ姿を見つめる。
ミカエラが駆け寄って来て、レルゲンを強く抱きしめる。手には既に聖槍ロンギヌスが握られているが、マリーはそれを見て少しだけ嫉妬してミカエラを引き剥がそうと振り向いた。
しかし、その間にセレスティアが割って入りマリーを止める。
「セレス姉様! なんで止めるの?」
「これは私達のためでもあるんですよ。今は好きにさせましょう」
マリーは理解が出来ないという表情をするが、セレスティアに連れられて再生が終わりそうな鬼の下へ歩いていく。
ミカエラはレルゲンへキスをしようとしたが、それを止めるように魔王メアリーが肩を掴んでミカエラを引き剥がす。
「何するんですかメアリー」
「今は戦闘中ですので、それはやめて下さいミカエラ様」
少し不満そうな顔をするミカエラ。
二人もまた鬼の下へ歩いていく。
するとクラリスが胸をポンポンと叩き、フルポーションを飲んでおけとジェスチャーをしてくる。
言われるがままフルポーションを一気に飲み干して体力と魔力を回復して一息付くと、クラリスが少し笑ってレルゲンを賞賛した。
「遂に心念の盾のみならず、心念の剣まで足掛かりを掴みましたね。
私は長年、盾のみしか使えませんでした。
やはり貴方はまだ強くなれる。
それこそ心念という領域においても、私を超えるかもしれませんね」
「レイノールにも心念を教えているのか?」
「ええ。どうしても貴方と本気の戦いがもう一度したいようですよ」
「そうか」
「では手早く片付けてきます。貴方はここで私達に任せるように」
「ああ。任せた」
また一人、レルゲンに背を向けて鬼に向かう。
すると待っていたミカエラが何やらクラリスと話している。
会話の内容は遠くてよく分からないが、既に戦いを再開している妻二人とレイノールにどう加勢するか話しているのだろう。
それからレルゲン、召子、そしてアンツヴェルトを除いた6人で鬼へと変わったマークスを追い詰めていく。
厚い前衛の後ろから氷による足止めをする後衛のセレスティア。
誰の目にも明らかな程、鬼がなす術もなく追い詰められていく。
「ガァァァアアア!!」
苦し紛れに咆哮を発するが、その一瞬の硬直時にミカエラが聖槍ロンギヌスを思い切り投擲し、貫通した後に鬼の胸に突き刺さった状態で止まる。
だが、それでも痛がるそぶり一つ見せずに突き刺さった槍を抜こうと鬼が力を込める。
抜け始めた頃、ミカエラは高らかに唱えた。
「貫け、ロンギヌスよ!」
すると赤い槍が再び引き戻そうとする鬼の手ごと押し込むように体内へ入っていく。
ミチミチと肉が切れる音を響かせながら、完全に鬼の体を貫いて背後にある瓦礫へと突き刺さった。
「また再生するぞ!」
思わずレルゲンが声をかけるがミカエラは振り返って微笑み、そして再びロンギヌスの効力を発揮しようと意識を鬼の傷口に集中する。
「流れろ」
ボコボコと傷口が泡立つように治ろうとしていた部位の動きが止まる。
呪いにも似た効力が傷口から流れ込み、再生が完全に止まった。
初めて見たロンギヌスの効力を前にレルゲンは一瞬で理解する。
(あの槍は一度傷つけた相手に再生を許さない力か……!
だからセルフィラが槍を手にした時に早く倒す必要があったのか)
心念の操作術で手元に戻し、再び投げつけるタイミングを図る。
周りも即座にロンギヌスの槍の力を利用した立ち回りに変わり、鬼は五度、聖槍をその身に受け、鬼としての力を発揮することなく身体機能を停止した。
世界から与えられた力は魔物化とは違うが、この穴だらけになった死体が再び爆発しないよう、
全魔力を以て黒龍の剣から発する光線攻撃で念入りに消滅させて、マークスという契約者は完全にこの世から痕跡を残すことなく退場した。
仲間も集まり、マークスという厄介な契約者も倒した。
残るは東京スカイツリー地下深くの地中で今も力を溜めているヤマタノオロチと、日本に溢れる魔物達だけとなった。
すぐに東京へ戻ろうとしたが、ある少年が待ったをかける。
「お主が話に聞いていたレルゲンか。
私は離帝。京都、引いては日本の魔物の事情を知る者である。
少し話でもせんか?」
どうやら、初めて見た年端もいかない子供が、また一悶着始まりそうな雰囲気を醸し出していた。




