26話 集結
「やはり、もう人間ではなくなっているか。
その力、感覚的にはナイト先生と同じだな」
魔石を体内に取り込んだナイト・ブルームスタットと同じ、大量の魔力を外部から注入されて身体が耐えきれなくなり力に支配される。
ただ今回は自分で異形となったナイトとは別、望まぬ力を無理矢理に注がれて身体が耐えきれなくなっている。
人型とはいえベヒモスのように頭に角が生えて肌の色は青くなり、身体は肥大化している。
それなのに、自分より一回り程大きい身体だというのにこの速度。
(やりづらい…!)
マークスだった鬼が瞬間的に加速して突っ込んでくる。突進した速度から更に銃を発射し、更に弾速を早めるための工夫。
チグハグな知恵を見せる鬼は十発以上の弾を発射しているが、音よりも速い弾丸は発射した時の空気圧で弾が潰れることはなく、これもまた心念による強度補強が成されていた。
レルゲンは並外れた動体視力で銃を構えた所までは視認していたが、それ以降は目で捉えられていない。心念の起こりから判断するのも不可能。
であれば、真っ直ぐ弾丸が発射されると想定して動く他ない。
黒龍の剣を浮遊剣にし、一瞬で超高速で回転させて弾丸を弾く。
様々な方向に弾丸が飛んでいくが、依然として鬼は突っ込んでくる。
同じく浮遊剣で帯同させている氷華で氷の壁を目の前に作り、勢いを減衰させようと張ったものの、勢いを少しだけ犠牲にするだけで方向転換して回り込む。
「本当に速い奴だ……!」
まずは動きを止める。
それから始めなければ勝ち目が無い。
そう思わせる程の初速の差が両者にはあった。
氷の影から顔を覗かせた鬼は、そこには既にレルゲンがいないことに気づき、腹を立てるように氷の盾を粉々に破壊する。
「ルミナス・ブロウ」
癇癪を起こしている鬼の腹に大きな穴が空き、再び大量の黒い鮮血が焼き焦がされた傷口から滴る。
すぐに再生が始まったがレルゲンは気づいていた。再生中に限り、意識が再生箇所の集中に取られて無防備な状態となると。
「終わりだ……!!」
天叢雲剣にありったけの心念と魔力を込め、オレンジ色に強く発光した魔剣で首を落とす。
あまりにも一瞬の出来事で、鬼は斬られた後も目をギョロっと動かしたが、残された大きい胴体はドシンと大きな音を立てて地面に倒れた。
「やった!」
召子がすぐに駆け寄ってくるが、レルゲンは違和感に襲われていた。
呆気なさすぎる。
本当に終わりなのか?
世界がわざわざ力を与えた異形がこんなあっさり絶命するのか?
疑問が尽きない間にも召子は駆け寄ってくる足を止めない。
だが、レルゲンは声ではなく手で静止する。
召子は何事かと思いその場で止まり、分たれた頭と胴体を同時に見る。
するとここでレルゲンが気づく。
まだ二つとも随分と魔力が残っている。
魔石には還らないとしても、バラバラに崩れてもいい時間が既に経過している。
(こいつ。さては斬ったら斬っただけ増えるのか……!)
すぐに召子へ避難するように指示を出そうとする。
しかし頭だけになった鬼の表面が膨らみ、魔力を加速度的に高めていき、レルゲンの予想を大きく裏切った。
レルゲンの足元で大爆発を起こす寸前、第二段階の全魔力解放を反射的に発動し、全て身体強化に充てて防御の体制を作る。
轟音と衝撃波が熱田神宮を全て吹き飛ばし、瓦礫だけの山となる。
最大魔力出力で防御したレルゲンだが、心念の盾で召子とアンツヴェルトを護ることは出来ず、膝から崩れ落ちた。
爆発の煙が晴れていく。
仲間を二人も失った。
一瞬の気の迷いにもならない隙が、仲間を失うことへと繋がってしまった。
レルゲンは深い絶望の海へと落ちていったが、ここにいないはずの声が聞こえる。
「随分と危ない所でしたね。レルゲン」
幻聴か……仲間を失った事によるショックで、いるはずのないクラリスの声が聞こえるのだから。
「ちゃんとして下さい。敵はまだ健在ですよ」
ミカエラの声まで聞こえる。
だが、レルゲンの両肩に手を置いたのは、他でも無い最愛の妻であるマリーとセレスティアだった。
顔を上げ、二人の顔を見る。
思わず久しぶりに会った二人の顔を見て安心するように強く抱きしめる。
マリーは少し恥ずかしがって暴れたが、すぐに強く抱きしめ返した。
セレスティアもまたレルゲンを厚く抱きしめ返し、ここに散り散りになった九人の仲間が再び集結する。
ハッとなり残りの胴体を見ると滑らかに斬られた首がボコボコとうねり始め、再び再生を始めようとしていた。




