25話 鬼
(最初からこんな大仕事を任せてすまない。
でも、お前がいないと俺は奴とその世界を止められない。頼んだ)
天叢雲剣に心の中で語りかけながら、迫るマークスの影を追い越して前に出る。
一瞬雷撃が止まったが、今度はレルゲンにターゲットが移った気がするとマークスは安心するように振り返った。
だが、それはマークスを騙そうと世界がかけたブラフに過ぎなかった。
止まって振り返った瞬間、世界の雷撃はレルゲンではなく動きを停止したマークスに直撃した。
『ハハハ、ツカマエタ、ウケトメテ、ウケトメテ』
「ああああああああ!!!!!」
絶叫と共にマークスの姿が肥大化していく。
「止めろ、やめて下さい!ああああ!
増え、増える、増えるゥゥウウウウウウウ」
壊れた機械のようにプツンとマークスの意識は永遠に闇へ葬られ、代わりに異形と化したマークスだった魔物がドシンと空中から生まれ落ちる。
召子は見覚えがあるような無いような違和感を覚えていた。
先程の一旦木綿のような魔物を試練と称して倒した時も薄々感じ取っていたが、ここ日本には過去伝承として伝わって来た、妖と言われている物語に出てくるような魔物がいる存在しているという事実。
今回紫色の雷に撃たれて異形化したマークスの姿もまた、過去に日本の妖が跋扈していた頃に現れていた鬼に近い。
頭には特徴的な二本の角が生え、体の表面は青く変色している。
表情はどこか虚で、後ろには糸で繋がれている人形のように機械的な動きを見せてピクピクと動いている。
手には銃を握り、マークスが持つ銃の記憶だけは利用しているようだが、自我はもう完全に消えているだろう。
呼びかけてもマークスの意識は恐らく戻ってこない。
何にせよここで鬼と化したマークスを止めねばならない。
牽制の意味を込めてアビィに指示を出す。
「アビィちゃん!」
呼びかけに応じたアビィがダイヤモンドダストで瞬間的に氷漬けにする。
ガッチリと氷で固定された時、レルゲンは心念が込められた天叢雲剣を構えて走り出していた。
「お願いします!」
召子が願うように声をかける。
(相手がどんな姿になったとしても、この剣なら斬れる。出方を伺う前に勝負をつける!)
心念のみならず自然と魔力も上乗せされた天叢雲剣が、青い二本角を持つ鬼を氷ごと切り裂こうと刃先が向かった。
だが、氷の中で腕の骨を折りながら無理矢理銃を持った腕だけ脱出させ、自身の動きを拘束している氷を銃床で叩き割る。
レルゲンが天叢雲剣を振り終えると、そこには既に鬼の姿はない。
背後から頬を掠めるような灼ける感触が襲う。
「……っ!」
(撃たれたのか! だがそんな心念の起こりは無かった。俺が心念を察知しながら動いている事を逆手に取ったか)
殺意すら全く乗せられていない銃撃を背後から受けて、すぐに矢避けの念動魔術を展開しようと考えたが、寸前で踏み止まる。
もし仮に心念を全く感じさせないで呪いの弾丸を撃ち込まれたら終わりだ。
弾丸の発射場所を今度こそ見失わないように注意深く見て、天叢雲剣で弾く。
瞬間移動とは違う純粋な速度による移動。
動体視力に自信があったレルゲンの額に朝が伝う。
ここでレルゲンは黒龍の剣に持ち替え、天叢雲剣は魔力糸を繋いだ状態で浮遊剣とする。
「ウルカ!」
「よし来た!」
「「第二段階、全魔力解放!!」」
白く神々しい光がレルゲンの身体から立ち上る。鬼になったマークスの身体がピクッと少しだけ反応を示す。
体外に溢れ出る魔力を全て黒龍の剣に込めて刀身を伸ばし、そのまま光線攻撃を鬼になったマークスへと放った。
「オオオオオオ!!」
横に振り抜かれた光線は範囲攻撃となって突き進み、鬼の逃げ場を狭めていく。
だが、それでも超高速で動く鬼を初撃で捉えることは叶わない。
予想通り躱す選択をとった鬼の移動場所の頭上で、待ち構えていたレルゲンが再び刀身を伸ばした状態で迎え撃つ。
(入る……!)
叩き落とすように上空から地面へ振り下ろされた光線攻撃は、白い光りの奔流となって鬼に振るわれた。
両手で受け止められて、上空へ向け威力を逃がそうと鬼が気合いを込めるような声を発して魔力を高めていく。
「ガァァアア!!」
もはやそれは人の声ではなく、獣に近い。
高まった魔力が両手に集中して振り上げるようにレルゲンの光線攻撃を弾き飛ばした。
「まだだ」
両手で弾き飛ばした際にガラ空きになった胴回り。レルゲンの本命はここだった。
伸ばした刀身を念動魔術で圧縮し、素早く懐深くに潜り込む。
「オオオオオオ!!」
一閃攻撃が鬼を綺麗に両断していく。
身体の半分以上を吹き飛ばされて流す血の色は赤ではなく、黒に近いドロっとした赤。
だが、すぐにその出血も止まり体組織が再生されていくのだった。




