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第三章 9話 最終決戦

『素晴らしい!皆さん本当に素晴らしい!誰も欠けることなく私の最高傑作を打ち倒すとは。特にユゥに入れた最後の一撃!私は感動しましたよご老人!流石は年の功ですね。ですので』


パチンと指を鳴らし、レルゲンが帯同させていた鉄剣が螺旋状となり一瞬で高速回転する。


『は?』


何も命令を出していないはずのレルゲンの鉄剣が螺旋を描き、ハクロウの左肩に命中。勢い収まることなくその後ろにある壁をも貫き、見えなくなる。


『くそ…しくったか…』


ハクロウの左腕が肩口から螺旋剣に抉り飛ばされ、酷く出血する。


『なんで…くそ、ハクロウ!』


『こっちを見てんじゃねぇレルゲン!俺なら大丈夫だからよ…そっちはあいつに集中しろい』


即座に帯同している残り四本の鉄剣を外へ飛ばす。残る武装は黒龍の剣と白銀の細剣のみ。肩で大きく息をするハクロウ。出血量はセレスティアが負わされた時以上、間違いなく致命傷だ。


慣れた魔力糸捌きでハクロウの応急処置をし、止血する。注意はナイトに向けたまま、感覚のみで手術を行う。出血量が少なくなったところですかさずハクロウが回復薬を飲み、完全に止血が完了する。


肩で息をしていたハクロウの呼吸が落ち着き、安堵する。

その様子を見たナイトが一言。


『手術の速度と精度も上がっていますね。実に素晴らしい成長だ』


それを聞いたレルゲンは魔力を全て解放し、もはや黒と形容してもいい程の赤い色の魔力が全身から迸る。我を忘れ、今にもナイトへ突っ込んでいきそうなレルゲンを止めたのは、マリーとセレスティアだった。


ただそっと二人が両手を握り、優しく魔力をレルゲンに流す。

全身から迸る赤い魔力がフッと消え、我に返る。


『ありがとう、二人共』


マリーとセレスが頷き、構えを取る。

セレスが高速詠唱でバフを二人にかけている最中、時間を潰すかのようにナイトが語り始める。


『シュットくんの魔力はどんどん濃さが増していますね。色を見れば明らかですが、魔力総量だけ見れば既に私を超えているでしょう』


『レルゲンだけしか見えてないって言いたいのかしら?』


マリーが挑発するようにナイトを煽る。


『いえいえ、そんなことはありませんよ?マリー・トレスティア。貴女方には正直期待していませんでしたが、シュット君を献身的に支える姿には涙が出るほどです』


煽ったつもりが煽られたマリーは顔をしかめるが、ナイトの余裕を崩すには実力で黙らせる他ない。

高速詠唱でバフをかけ終わったセレスティアがナイトに向けてあえて感謝の意を伝える。


『待って頂きありがとうございました』


ナイトが眉を少しあげて、『いえいえ』と返す。


『では始めましょう、楽しみましょう』


ナイトが魔力を高め、右手を掲げる。


『ウォーターシャーク・トルネイヴ』


水の上位魔術を無詠唱で発動し、レルゲン達の周りが水の渦に包まれる。中にいる水性生物が襲いかかってくるが、これを見たセレスが一言呟く。


『カウンター・ディスペル』


セレスティアが唱えた瞬間、水の上位魔術が跡形もなく霧散する。


『貴女も遂にディスペルの入門ですか!シュット君の周りにいる方々は彼に引っ張られるように強くなっていきますね。試練を与えた甲斐がありました』


『何が試練ですか、下らない』


セレスティアがナイトの持論を一蹴し、こちらも光の上位魔術を無詠唱で繰り出す。


『マルチ・シャイン・ジャベリン』


先程まで詠唱をしていた光の上位魔術を、今度は無詠唱で発動し、ナイトをさらに驚かせる。

半歩出遅れたナイトだが、余裕を持って光の上位魔術を繰り出し、空中で衝突してお互いの光の槍はバラバラと砕け散る。


『いいですね。魔術師の基本は出来ると思う事。今まで出来なくても、出来そうと思える思考が大事だと気づきましたか』


得意気に教鞭を垂れるナイト。その表情はどこか懐かしそうだ。


『流石魔術の先生です。素晴らしい講義ですね』


セレスティアがナイトの演説ともとれる独り言を敢えて茶化すと、これが気に食わなかったナイトの表情に力が入る。


『上から物言っているんじゃない、第一王女──よろしい、真の魔術と呼ばれるものをお見せしましょう』


再びナイトが魔力を集中し、そして目を見開いて唱える。


『合成魔術、ヒート・ミストラル』


ナイトの周囲から水蒸気のような白い靄のようなものが溢れ出し、瞬く間に視界が真っ白になる。


『痛っ!』


いや、これは痛覚ではない。似ているが少し違う。


(熱い)


白い霧に触れた肌を見ると、真っ赤に腫れるような色に変わっている。


『その白い靄は全て高熱の水蒸気です。薬缶の水が沸騰した時に出るものが全身を包んでいるとお考え頂ければ理解できますか?温室育ちの王女様方は薬缶なぞ見た事がないかもですが』


これだけの空間を蒸し風呂状態に、しかも熱さを一切殺さないところをみるに水蒸気一つ一つに細工をしていると考えるべき攻撃を受けて、マリーとセレスが苦しそうに咳き込む。


レルゲンは腕で口を瞬時に押さえたが、技の判断に遅れる。

この隙をナイトは見逃してくれなかった。視界が完全に塞がれ、魔力感知に頼る他ない状況に追い込まれたレルゲン達は、魔力を完全に隠された一撃を避ける事ができなかった。


『ぐっ…!』


不可視の矢が三人に直撃し、全員が膝をつく。何かが刺さっているのを理解して引き抜くが、抜いたそばから血が滴る。


(ハイディング・アロー、どうやらかなり効いていますね)


『マリー、セレス!…息を吸いすぎると喉から気管にまで……火傷が広がる!何とかするから十秒だけ息を止めろ!』


返事はないが、咳き込む声が止まる。二人共息を止めていると判断し、片手を空へ伸ばす。意識を集中し、目に見えない細かい水の粒を押し固めて圧縮するイメージ。


ギュッと固められた水蒸気が細かい水滴となり、室内であるにも関わらず温かい雨となって降ってくる。


(なるほど、空間ごと水分を圧縮しましたか)


ふむ、と顎に手を当てながらナイトが状況を観察する。呼吸を再開し、焼けるような熱を感じないことを確認、即座にセレスが回復魔術を唱えて不可視の矢と火傷を手当てするがナイトの姿が無い、レルゲンの魔力感知にもいつの間にか引っかからない。


(隠蔽魔術の連続発動か…!)


熱感知と構造さえ分かれば使えるディスペルを習得しているセレスティアを欺くなら絶好の機会。セレスを呼ぶよりも先にナイトの次の攻撃が始まる。


(合成魔術、ウォータープレス)


超高速で打ち出されたそれは、レルゲンの頬を掠めて後ろの壁を易々と貫いていく。薄く切れた頬から血が伝っていき、地面へと落ちる。


セレスティアは既に予め熱感知で既にディスペルを発動しているが、それは念動魔術で作り出した、人肌程に温められた水だった。


(こちらが熱感知で探している事を理解していますね)


ディスペルが不発に終わり、本物を探そうと周囲を見回すが水で擬態したナイトが複数存在し、セレスティアを惑わせる。


よく目を凝らし、温度が服や身体の部位で違う物を探し出してディスペルを発動すると、今度は術の手応えがあった。


『ちっ』


小さく舌打ちした声が聞こえ水の擬態を解除。本物は空中に念動魔術で浮き、レルゲン達を見下ろしている。


手には巨大なウォーターボールを蓄え、そこから一本の線が刃となって地面を抉りながら進んでくる。


『避けろ!水の斬撃だ!』


ナイトの近くにいたマリーとレルゲンが飛び込みながらギリギリで避ける。セレスティアはレルゲン達から離れていたが、水の斬撃は途中から軌道を変えて迫ってくる。


これを出来るだけ惹きつけて交わすが、抉れた地面を見たセレスティアがあまりの威力の高さに戦慄する。後ろに通過していった水の軌跡を辿っていくと、壁に線を描くように貫通しており、更に建物の外にある木々までもが切断されて、地面に落下したことを知らせる地鳴りが遅れて響いてくる。


高圧で押し出される水の斬撃攻撃は鞭のように何度も迫ってくるが、空を満足に飛べなければ遠距離から迎撃するしかない。


(これを長くは続かない!)


大袈裟に黒龍の剣を振り上げてナイトの注意を引き、魔力を込めて遠距離斬撃を放つ。


ナイトはこれを交わす事なく斬撃を左右に割き防御するが、レルゲンはこれを狙っていた。ナイトが斬撃を避けるのではなく、敢えて受けていることを逆手に取り、斬撃を放った瞬間に念動魔術で空中へ突進。


ナイトが初撃を受け切ったと同時に至近距離まで接近し、全魔力解放による赤い光線攻撃を仕掛けるが、今回は少し様子が違う。


今までは全魔力を解放した時に出る、迸るように全身から噴き上がる魔力を黒龍の剣に込めていたが、今回は魔力を噴き上げる工程を短縮し、初めから黒龍の剣に全魔力が込められる。


攻撃力こそ変わらないが、魔力消費量が半分以下に抑えられていた。

ナイトは放たれた光線を洞窟では受け止めていたが、今は左右に散らす事ができず、自身の魔力障壁で対応している。


『こんなもの…!』


悪態を突くが、少しずつ光線がナイトを押していく。しかし、あと少しのところで障壁の角度を変える事で上空に打ち上げて受け流し、天井が全て吹き飛ぶ。


『今のは効きましたよ…シュット君』


『よく言う。大した傷にもならない程度で』


『いえいえ、こんなに早く結界魔術で防御することになるとは思いませんでした』


ナイトは今の一瞬の攻防でレルゲンの反応を見て疑問に思う。


(今のが正真正銘、彼が持つ最強の攻撃では無いのか…?なぜこんなにも余裕がある?それに今回は魔力の解放はしていない。にも関わらず威力は以前と同じかそれ以上…これは一体……?)


困惑しながらも地面に降り立つと、レルゲンも同じように高度を下げてくる。


高度を下げて地面に降り立った時、ナイトの背後から迫り最大限の魔力を込めたマリーの一撃が繰り出される。


バリィン!と高い音と共にナイトの魔力障壁が破壊され、ナイトが後ろを確認するがそこにマリーの姿は無い。反射的に隠蔽魔術と判断してディスペルの準備をするが、術師であるセレスティアの反応がない。


セレスティアを探しているうちにもマリーは連続でナイトの魔力障壁を剥がしていく、その数既に五枚。術の元が駄目なら直接マリー本人にディスペルをかけようと辺りを見回すと同時にピタっと連続攻撃が止まる。


『小賢しい』


辺り一帯に魔力込めた衝撃派を放ち、マリーとセレスティアの位置を強引に割り出そうとするが、衝撃派が発生した瞬間に消滅する。まるでディスペルをかけられたような感覚。


『なっ…!』


ここで初めて焦りの表情を見せるナイト。衝撃派は元来魔術ですらない。こんなもの発動と共に止められるなど、あるはずがない。間違いなくこの仕掛けは……


『レルゲン…シュトーゲン……!』


『初めて“名前で呼んだ”な』


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