17話 見えない手紙のやり取り
生駒山の頂上を見下ろす位置まで飛んでいくと、そこには新しく建てられた送電線にクラリスの言っていた通り、四本足で絡みつくように這い回る赤い魔物が何体も視認できた。
「じゃあ行ってくる。そこで見てな」
「レイノール」
「分かってるよ。あの建物を守るように戦えばいいんだろ」
やれやれと言わんばりに下降して行く姿は、半ば気の強い女性陣たちに抗議するのを諦めていた。
電波塔に登っている竜種にも似た魔物に近づく。
黄金の剣、フラガラルクではなく魔力を込めた足蹴りで塔から叩き落とした。
無理矢理引き剥がされた衝撃で、塔が軋んだ悲鳴にも似た音を立てたが、気にすることなくテンポ良く電波塔に群がる魔物達を蹴り落として行く。
そんな様子を上空から見ていたマリーは疑問に感じ、独り言のように呟く。
「あの魔物達は、どうしてあの塔にこだわっているのかしら。地脈の流れはここにはそこまで無いようだし」
クラリスも顎に手を置いて考え、仮説を話し始める。
「予想の域を出ませんが、魔物は鎌田様が電線と言っていたあのロープのようなものから発せられる、何かしらの力に吸い寄せられているのではないでしょうか。
魔物は本来魔力に集まる傾向にある。
その通説をひっくり返すなら、私達の知らない要因がきっとあります」
「不思議な力が働いているってことね」
「恐らくは」
「触ってはいけないと言われていますが、近くで観察するくらいなら問題ないはず。私達も行きましょ」
電波塔によじ登っていた魔物達はレイノールに全て叩き落とされ、地上戦を始めようとしている。
「この世界に来て初めての運動にしちゃ少し物足りないが仕方ない。まとめてかかってきな」
レイノールの挑発は魔物には伝わらない。四段階目とあれば人の言語を理解するものとそうで無いものが入り混じるが、今回の魔物は間違いなく後者だ。
動きから知性を感じないところから、獲物がテリトリーに入ってきたために起こる排除本能が、魔物の群れを一斉にレイノールに向かわせた。
「いいね!そう来なくっちゃなぁ!!」
溜まった鬱憤を晴らすように応戦しようと魔力を昂らせたが、こんな時レルゲンならどうするかを反射的に考える。
「いい機会だ。お前のやり方、少し借りるぜ」
ふぅ、と息を吐き、全身の力と魔力を完全にシャットアウトする。魔力とは別の剣気。
心念を込めた覚悟のみを研ぎ澄ませる。
ただ目の前の敵を斬る。
シンプルだが戦闘に慣れるほど色々な戦術の組み立てをしながら戦う癖がつく。
レルゲンは戦術を組み立てながら心念を日頃から行使して、いざ剣が一本になったからこそ爆発的にレイノールで言うところの剣気を高めていた。
レイノールにそこまでの器用さは無いと本人も自覚している。
だからこそ、四段階目という丁度いい強さの魔物を十体同時に相手取るのは、心念を込めた剣の鍛錬にうってつけだった。
余計な力が抜けていき、一歩目の動きが普段よりも早くなる。
速度が上がったにも関わらず、レイノールには相手の魔物の動きが少しばかりスローに見えていた。
(いい感じだ……!)
トカゲにも似た赤い魔物が簡単に切り刻まれていく。
剣を振るというのではなく、自然と身体の一部になっているような、手で斬っているかのようなトランス状態まで集中力が高まる。
レイノールの目が黄金に輝き、更に踏み込んだ地面が深く抉れた。
後二体のところまで魔石に還してから、一息で遅い魔物を斬ろうと剣を向かわせた瞬間、クラリスがフラガラルクを片手で受け止めていた。
「何すんだ」
「集中するのは結構ですが、周りを見て下さい。貴方の余波で塔が倒れますよ」
ハッとして辺りを見回すと、まるで何かで畑を耕したのではないかというレベルで地面が盛り上がっている部分が幾つもある。
黄金の眼光が真紅の色に戻る。
残りはマリーが神剣で手早く片付け、依頼の任務を達成したが、
レイノールはまだ暴れ足りなかったようで、度々鎌田に魔物は出ていないか話しに行くようになっていた。
日を改めて、数日後に三人が集められる。
「三人ともお疲れ様。少し土地が荒れたようだけど、魔物が十体もいた中でこの被害なら十分な戦果だ。
電波塔の不調はやはり魔物が原因だったようで、排除後は通常通り復旧している。
東京からも連絡が返って来たよ。
レルゲン、アンツヴェルト、そして行方不明だった最上召子さんの三人がどうやら東京の本部に滞在しているようだ」
マリーの表情が明るくなる。
無事を知るまで張り詰めていた緊張感が少しだけ和らいだ。
「東京はここ大阪よりも魔物が強いとされている。だが君達なら問題なく対応出来るはずだ。
行くんだろう? 東京へ」
三人共頷き、すぐに支度を整える。
荷物は武器くらいなもの。
すぐに出発しようとするが、鎌田が物資を詰めた鞄をレイノールに手渡した。
「少ないが持っていってくれ。
あまりここに馴染む前に出発するのは私としても寂しいが、無事を祈っている」
「そっちだってやり繰りが大変だったろうに。
悪いがこれは遠慮なく貰って行くぜ」
鎌田がレイノール、そしてマリーと握手を交わし、クラリスはお辞儀をして空へと旅立って行く。
朝日と共に照らされた三人の横顔は、この崩壊した世界に似つかわしくない優しい光りに反射して、東京の方角へと向いていた。




