15話 その言葉が聞きたかった
「で? こんな狭い所に詰め込んで、ここは拷問部屋かしら?」
「いや、申し訳ない。君達の成りを見れば文化的な違いから他国の方だと分かるんだが、ここにはまだ君達を人型妖魔だと決めつけている者が多くてね。
だからこうして硬い壁に四方を囲まれた部屋に来てもらったというわけだ。許して欲しい。
私は鎌田。ここで部隊長をやっている者の一人だ。よろしく」
出された右手をマリーが優しく握る。
だが、ここでただ黙って手を握らないのはマリー流の外交術だった。
握った手を離し、用意されたパイプ椅子から立ち上がる。壁をコンコンと叩き「なるほど」と溢す。
「確かにこの壁を壊すのは簡単じゃ無いけど、後ろにいる赤い髪のレイノールって男と、メイド服を着ているクラリスが全力で叩いたら五秒と保たないかしら。
勿論私もそこまでじゃ無いけど力を持ってる。
だからもっと広いところでお話ししましょう?
これじゃ話しではなく尋問よ?」
「分かった。上に掛け合ってみよう。
もう暫くここで待っていてもらえるだろうか」
三人はここで待つが、恐らく別室で何か話している様子をモニターしているだろう。
それを分かった上でマリーは後ろの二人に話しかける。
「ねえレイノール。今は武器を預けているけど、もしあの剣があったらどれくらいでこの壁壊せる?」
「ん? 壊すのか? 流石にフラガラルクが無いと素手で壊すのは少し骨が折れるが、まぁ十分あればいけるだろうぜ」
魔力を拳に込めようとしたが、クラリスが額に指だけで弾いたデコピンを繰り出し、盛大に音が狭い部屋にこだました。
「痛てぇな! 何すんだアンタ!」
「本当に壊すわけでは無いでしょう。それにこの壁如きに十分は掛かりすぎです。
私なら三発あれば粉々にできます」
「それって魔力だけで?」
「勿論です」
「レイノール、貴方の負けー」
「好き勝手言いやがって。そういやアンタとレルゲン。どっちが強いんだ?」
「あ! それ私も気になってたわ。
実際クラリスさんってかなりの実力者よね。
小細工なしで戦った場合、どっちが強いの?」
「敵になり得る可能性がある拠点で序列の話しをするのは理解できません。
そして戦いとは試合とは違いますので一概には言えませんが、それを敢えて申し上げるのであれば、私の方が強いでしょう。今はまだ」
「そうなの……?」
「はい。ですが申し上げた通り、今はまだです。
彼は私と違い成長の機会を多分に残している。
ですので、いずれ私を超える使い手になる可能性はあるでしょう」
話し終わったタイミングで鎌田が部屋に戻ってくる。どうやら聞いていたのは間違いないだろう。
別室に案内されると、そこは誰もいない食事の香りが仄かに残っている食堂のような場所だった。
パイプ椅子と長椅子がいくつも並べられているが、マリーは満足したようで鎌田と話しを始める。
自分達がここに来た理由や仲間が散り散りになったこと。
妖魔と呼ばれているのはこちらの世界にも存在し、魔物と呼ばれているなど、自らの生い立ちを順を追って話していく。
「そうか。君達はわざわざ世界を渡ってまでこちらの世界を助けに来てくれたと。
そして最上召子を知っているという事は概ね真実なんだろう。
今東京の本部に君達の事を連絡している。
もしかしたら君達の仲間が滞在しているかもしれないからね。
だからこそ最後に聞かせてくれ。
この惨状は君達が原因で引き起こされたものなのか?」
全て引っくるめた言い方をすれば、あの時レルゲンが念動魔術で呪いの弾丸を跳ね返さずに別のやり方で倒せていれば、ここまで話しは大きくならなかったかもしれない。
だが、マリーはそうは考えていなかった。
首を横に振って否定する。
「この原因は人為的に起こされたものだと私達は考えています。
私達異世界の人間が関わろうと、そうでなかろうと、いずれかのタイミングで発生していた事態でしょう。
黒幕と結びついている人物は何度か接触していますが、今も敵対関係なのは変わりません。
私達異世界から来た九人は貴方達を助ける為にここまで来たのです」
「それを一番聞きたかった!
分かりました。外で待機している戦闘員は武装を解除。お客人として丁重に扱って差し上げろ」
しかし、外で待機していた戦闘員が無線越しに抗議の声を上げた。
「鎌田隊長!」
「馬鹿野郎。戦力になってくれるって言ってんだ。俺達なんざ殺そうと思えばすぐだぞ。
わざわざ話しなんてせずに全滅させられて終わりだ。
それを選ばなかった事実こそ、この方達が協力してくれる証拠だろ! 違うか!」
「で、では上層部にはなんと説明を……」
「そんなもん、全部俺に任せとけばいいんだよ。
お前達が気にする事じゃねぇ」
レイノールは口笛を吹いて揶揄うように笑う。
「分かってるじゃねぇか、えーと、カマタさんだっけ? 俺はレイノール。サカタ・レイノールだ。
よろしく頼むぜ」
レイノールが出した右手を鎌田は全力で握り締めたが、レイノールは同じ力だけ込め返してニヤっと笑って受け止めた。




