13話 龍安寺攻防戦②
「セレスティア!」
「お任せください」
魔王の呼びかけに素早く熱感知で隠蔽魔術の看破をしようと片目を切り替えたが、マークスはその場から動いていなかった。
「カウンター・ディスペル」
マークスの隠蔽魔術が強制的に解除されるが、ディスペルを放ったセレスティアは何か引っ掛かる。
(どうして動かずに隠蔽魔術だけ発動したのか……? まさか!)
「一手、遅れたな。心念はこんな使い方も出来る。呪いの弾丸」
思考が跳ねる。
即座にこの窮地を救える可能性のある人物の名を呼んだ。
「ミカエラ!」
「戻りなさい!」
以前レルゲンが呪いの弾丸を跳ね除けた方法を、今度は心念による操作術で再現する。
だが、言葉通り一手出遅れたミカエラは、呪いの弾丸をマークスに戻すことに成功しても、肩口を押さえて片膝を突くメアリーを見て胸が締め付けられるように冷たい汗を流した。
メアリーの後ろには一人でに古式銃が空中に浮き、心念の操作術によって引き金を引かれていたが、役目を終えると空気に溶ける様に消えていった。
「メアリー!」
ミカエラはその名を呼ぶが、すぐに肩口から手を離して制止する。
「私なら大丈夫です、ミカエラ様。
掠っただけですから」
軌道を戻した弾丸はマークスの手前で止まり、煙草の煙を吐く仕草をして弾丸を粉々にして空へと消す。
メアリーの方からは蜘蛛の巣のように黒い呪いが這い回り、首筋にまで到達しようとしていた。
歪んだ笑みを浮かべながら、勝ちを確信した言葉が掛けられる。
「呪いの弾丸は掠っただけでも効力を発揮する。それを知らない貴女じゃ無いはずだ」
「ああ、知っているとも。その呪いは心念によってある程度中和出来るということもね!」
掠った肩口に意識を集中すると、黒く這い回ろうとしていた線が徐々に引いていく。
「何をした? その弾丸は残りの寿命を定める死の宣告に等しい。何かを犠牲にしなければ痣が引くことなどありえん」
「術を一つばかり二度と使えない誓約をしただけさ。とっておきのね」
「ならば、もう一度撃ち込んで今度こそ寿命を削り取ってやろう」
「そんなことはさせません」
「どうかな? この呪いの弾丸達をどう捌くつもりだい?」
セレスティアが力強く吼えたが、マークスはただ一瞥しただけで空中に浮かんでいたアサルトライフルの山を消し、
今度は呪いの弾丸が込められた古式銃を大量に浮かばせると同時に、乾いた発砲音が連続して鳴り響く。
セレスティアの凍らせる魔術は対象の座標をしっかりと捕捉してから発動するもので、古式銃が顕現してから同時に発射されては間に合わない。
ミカエラもまた弾数が純粋に増幅されたことで、心念の操作術のみでは全弾の弾道変更が不可能となる。
単純だが、増幅手段はそれだけで効果を発揮しやすい一手と言える。
「ダブル……いえ、トリプルキャスト。
スライム・プロテクション」
セレスティアが即興で魔術を練り上げ、そして呪いの弾丸を真正面から受け止める。
三人の頭上に巨大な水溜りが出現し、呪いの弾丸が全て着水していく。
マークスは気づいた。幾ら呪いが込められていてもそれは弾丸であることに変わりない。
(弾丸が水に弱い性質を持っているとなぜ知っている……? 魔王の入れ知恵か?
それともこの女の知識が導いた結論か……
何にせよ不味いね)
セレスティアは日頃から魔術の研鑽を欠かさない。魔界から戻ったある日気づいたのだ。
光属性と闇属性を掛け合わせると、無色透明の性質に近くなるという事実に。
この実験は念動魔術が含まれる無属性魔術が使えないセレスティアに大きな可能性を示した。
無属性はどれも術者の強力なイメージを必要とするケースが多い。
であれば、まだ心念の何たるかが理解しきれていないセレスティアでも、無属性魔術の再現が出来ても不思議では無い。
天界では心念の盾というものを実際にこの目で見た。そこからは独自の解釈の元に自分で理論を当てはめていけば良い。
故に即興で発動したトリプルキャスト・マジックはまだ未完成と言える。まだ水に粘性を持たせた形を保つバランスが安定していない。
それでもこの手に馴染んだ。
感覚に馴染んだ神杖はセレスティアのイメージに応えてみせた。
呪いの弾丸は着水と共に、弾丸の軸がブレて急速に勢いを殺していく。
数十センチだけスライム内を突き進むが、完全に弾丸としての役割を終えていた。
全ての弾丸を受け止めて術を解除すると、呪いの弾丸だった物が中庭に散乱する。
その弾丸には呪いの刻印が刻まれており、触れた者に作用する効果であるとミカエラは気づいた。
「その弾丸、心念によって弾倉内で刻印していますね」
「ほう、そこまで気づくとは。流石は自身に呪いの契約をかけた危篤な方だけはある」
(呪いの弾丸が彼の持っている最強の手段では無いのですか……? この余裕は一体……)
「今の君達が狙うのには一番確実だと思ったんだが。これならカリストルの大将を狙った方が良かったかね」
踵を返して後ろを向くマークス。
逃すまいとメアリーが手を伸ばしたが、紫色の光を発して狙撃手は姿を暗ませ、声だけが残った。
「東京で会おう」




