12話 龍安寺攻防戦①
龍安寺の縁側から見下ろすように三人を睨むマークス。言葉では弱気に見せてくれてるが、全くと言っていいほど心念の揺らぎがない。
やはり念動魔術や瞬間移動などの戦法を持たない組は、狙い撃ちしやすいと思っているのは事実と言える。
それ故にメアリーは自身が大したことない障害だと、かつての部下に思われているのが我慢ならなかった。
「随分と偉くなったようだね。マークス」
「いいえ。かつての貴女様の恩義はこのマークス、忘れてはおりません」
「ならば今ここでその恩義、返してもらおうか」
突き立てるようにマークスに伸ばされたベヒモスの魔剣は、これから斬るという覚悟の証。
メアリーはすぐにでも斬りかかりそうな勢いだが、それよりも早くマークスの小型マシンガンが火を吹いた。
連続した発射音が静寂に包まれていた龍安寺の境内に響き渡る。
極太の剣で受けようと横に構えて防御の姿勢を取るが、着弾するよりも早くミカエラの言葉が弾丸を停止させる。
「止まりなさい」
空中で停止した弾丸は畳に何発も転がっていき、マークスは渋い顔をした。
「本当に心念を遠慮なしに使うね。
まあ、この世界で使うなら関係ないが」
メアリーが弾丸が来ないと見るや即座に反撃の刃を振り抜くが、寺の内壁を切り裂くのみでマークスには当たらず。
庭へ移動して回避した先にセレスティアが巨大なハンマーに似た氷の塊で押し潰そうとする。
銃口を一瞬だけ向けたが、破壊の心念を練り上げるよりも早く到達すると判断し、横に転がり込むように躱す。
白砂が規則正しく模様を描いていた中庭は、氷の重量に耐えかねて派手に周囲へ散らしたが、攻撃は不発に。
追撃をする為にミカエラはロンギヌスの槍を壁から引き抜き、空中へ移動したマークスを睨むと、少しおどけた様子で方をすくめた。
「そんなに熱い視線を向けられると困るね。
美女達に囲まれるのは歓迎だが、殺気が強すぎるのも考えものだ」
マークスは小型のマシンガンを捨て、虚空を掴むようにライフルを構える動作を取った。
銃床から徐々に何もなかった所にライフルが形成される。まるで魔法陣を使わずに召喚する術を持っているかのように、完全に銃としてこの世に存在を引っ張った。
初めて見た術に三人は一歩出遅れる。
先程よりも殺傷力の高い弾丸は、マークス自身の魔力で威力が強化されながらメアリーに向かい、雨を降らせるように何発も発射された。
メアリーはもう一度剣の腹で受けようと身構えたが、マシンガンよりも意図的に照準をブレた撃ち方に変更された射撃は全て防御が出来ない。
放たれた弾丸の射線からメアリーもそれを分かっている。
マークスの狙いは一人一人確実に仕留めるのではなく、ジワジワと相手の体力や気力を削ぐのが目的。
薄く笑みを溢した狙撃手は、かつて付き従った主を討つことに何の躊躇いも無かった。
だが、射手とメアリーの間に割って入る影、元より赤い線が一つ。
その線はメアリの目の前で円を描く様に高速で回転し、弾丸を全て弾き飛ばした。
弾かれた弾丸は龍安寺の壁に、風切音と共に中庭に突き刺さる。
「助かりました。ミカエラ様」
「油断無きように」
一気にマークスの下に上昇加速して行くメアリーに、再び腰撃ちで弾丸をばら撒いて牽制しようとするが、セレスティアが神杖を掲げてそれを封じた。
マークスの持つアサルトライフルを腕ごと極小粒の氷で氷結させ、引き金や薬莢の排出口ごと動きを固められて使い物にならなくなっている。
「やるねぇ」
すぐに凍った右腕を左腕の手刀で叩き折り、新しい腕を生やして再生する。
「やはりもう人間を捨てているか」
「失礼だね。君らの大将も同じことをやっていただろう?」
「それは違う!
彼は人間で出来うる可能性の中で成し得たものだ。自ら得体の知れない世界なんて物と契約した、外付けの力とは全く異なっている」
「過程なんてどうでもいい。やってる事はどちらも体の機能を回復させるのと同じ。
非難される覚えはないね」
「その考えは危険だ、マークス。
過程を飛ばしたからこそ今の日本になっていると気づいているのか」
「勿論だとも。だからこそ君達にはここで退場してもらう。最愛のレルゲンにも後で会わせてやるから安心するといい」
マークスがパチンと両手を合わせて鳴らすと、背後に大小様々な銃が出現し、間髪入れずに一斉射撃を始めた。
けたたましい轟音が響き、先程とは比べ物にならない程に密度の濃い銃弾の雨が降り注ぐ。
「グラビティ・カタストロフ!」
放たれた重力魔術はとてつもない重力の塊となり、銃弾を引き寄せるように吸い込んでいく。
ボロボロになって瓦礫となり始めた龍安寺の一部もまた吸い込まれて行った。
(厄介な技だ……!)
光すら屈折させて曲げる性質を持つ小型のブラックホールにも似た黒い塊は、銃弾を全て飲み込んでから消滅すると、上空には既にマークスの姿は消えていた。




