10話 押しが足りない
清水寺付近の旧商店街。
三人はコンクリートにヒビが無数に入った劣化が進んでいる道を歩いて魔物退治に向かっていた。
メアリーは陣形を確認するために、二人に振り返る。
「ミカエラ様とセレスティアはどちらかといえばサポートや後衛。私が前衛をやりますので、援護をお願いします」
「いえ、私は聖槍ロンギヌスを使います」
「え? しかしその槍は……」
「ええ。ですが先の戦争でレルゲンがレイノールという敵将と戦った時に痛感しました。
敵が強大であった時、この槍を使いこなせなければいずれ後悔する時が来るかもしれない。
この武器の性能は破格です。
それ故に人には余る代物。槍として扱うだけでも十分に強力ですから、せめて自分の物として扱えるだけ慣れておきたいのですよ」
「分かりました。では、私が前衛を始めに、ミカエラ様は後から一緒にお願いします」
頷いて、セレスティアに目線を送る。
「セレスティアはあれからどれほど強くなったのかな?」
「そうですね、成長としては天界からはさほど変わっていません。
ですが、久しぶりに私も伸び伸び戦えますので、期待には応えて見せますよ」
メアリーはニッと笑って見せ、上機嫌で魔物の下へと向かっていく。
セレスティアとミカエラは少し笑いながら、前を歩くメアリーを追いかける。
「そういえばミカエラ様。
この際だから聞いてしまいますが、レルゲンの事をどう思っているのですか?」
「えっ? 愛していますよ?」
「それは天使から見た人間への親愛という意味ですよね?」
「いえ、一人の男性として」
大きなため息を一つ。
この大天使は一体彼のどこに惹かれる所があったのだろうか? 聞かずにはいられなかった。
「彼は私とマリーの伴侶です。
なぜそこまで彼を、レルゲンに拘るのですか?
それにこれ以上は増やしたくありません。お引き取り下さい」
「嫌です。貴女は彼の妻ですが、それで諦められる程簡単な気持ちではありません。
彼を愛している理由は簡単ですよ。
外見はどうでもいいのです。
彼の持っている心の純粋さと危うさは、私が彼の生涯の内は支えたいと強く思っています。
彼には私が必要ですから」
「確かに彼はとても魅力がありますが!
でも! それで私を愛してもらう時間が減るのは我慢出来ません」
「それは彼の寵愛を受ける時間が減るのが嫌ということですね?
であれば問題ありません。一緒に愛して貰えば良いのです」
「そうではなく! 彼と一人一人の時間が減ってしまうのです!」
「あぁ、そういうことですか。
貴女、まだ彼との営みに満足していないのですね」
「っ……! えぇ、そうですとも!
だからこれ以上増えてしまうのは困ります」
「そうでしたか。であれば簡単です。
彼を三人で籠絡してしまえばいいのです。
彼の生い立ちは私も知っています。
大事にしすぎるあまり、貴女達にあまり触れていないのでしょう。
ですが、その心の内にはもっと触れ合いたいという気持ちが強くあるはず。
強くあるからこそ中々踏ん切りがつかない。
一度完全に彼の心のブレーキを壊してしまえば問題はありません」
「つまり私達の押しがまだ弱かったと?」
「はい。
本当は向こうからもっと来て欲しいのは理解できますが、最初の手を引くところまでは徹底的にやってしまいましょう」
「なるほど。どうやら私達は親友になれそうですね」
「ええ。今度ともよろしくお願いします。
セレスとお呼びしても?」
「構いません。私も様は抜きにして呼ばせて頂きますね」
固い握手を交わした二人を見ながら、会話に割って入ろうともしなかったメアリーは思った。
(恩師のこんな姿。あまり見たく無かったな)
それから五段階目相当の魔物が二体出現したのを全て魔石へと還し、ミカエラの槍捌きの練度が少しだけ上がったのだった。




