9話 世界を見渡す目
レルゲン達とは別の次元の狭間に飛ばされた二組の内、京都上空に飛ばされたセレスティア、メアリー、ミカエラは巨大な木造建築の縁側のような場所へ降り立った。
「ここは日本のようですが、特別な魔力では無い何かを感じるといいますか……気のせいでしょうか?」
セレスティアがサンライトで灯りを複数個出すと、ミカエラが直ぐに消すように静かに手をかざした。
(ミカエラ様?)
(直ぐにサンライトを消して下さい)
言われた通り全てのサンライトを消し建物の影に三人が移動すると、十人程度の足音がセレスティア達がいた場所に駆け寄って辺りを見回している。
隠蔽魔術まで使って完全に隠れる必要があるのか分からなかったが、ミカエラの言葉から緊急度が高い感じ取り、念を入れた。
「巨大な魔力反応が三つありましたが、直ぐに痕跡ごと消えています」
「光の照明魔法を使っていたのは間違いない。
どこかに隠れているかもしれん。探すのだ!」
「「はっ!」」
掛け声と共に周囲に散会していく人間達を見ながら、セレスティア達は静かにその場を後にするために上空へ飛びながら周囲を見回すと、灯り提灯を持って人が集まって来ていた。
「どういうことですか?」
「魔力感知のような手段で私達がここに来たと知ったようです。心念に近い疑念と焦りの感情。やはり隠れたのは正解でしたね」
心念を極めているミカエラだからこそ気づいた違和感に、セレスティアは再び下で曲者を探している人間達を見ていた。
「ミカエラ様、これからどこで一夜を過ごすのですか?」
「幸いここは魔物がいない。
魔力揮発剤のような魔物発生を阻害してるわけでも無いのに。何か秘密があるのでしょうが、
私が隠蔽魔術を掛けますので、それで今夜は凌ぎましょう。探索は日が登ってから」
二人とも頷き、建物とは違う場所にある木々が生い茂る中に降下して一夜を過ごそうとすると、警報のような音がけたたましく鳴り三人を驚かせた。
すぐに隠蔽魔術で隠れようするが、それよりも早く人が集まってくる。
「曲者! ここに足を踏み入れるとは何事か!」
ミカエラは少しため息を漏らしながら、被っていた茶色いフード付きの上着を脱ぎ捨てその姿を顕にした。
「お騒がせして申し訳ありません。私は大天使のミカエラ。どうか矛を収めてくだい」
「大天使? こんなところにそんな高貴なお方が来るはずがない! そもそも……」
一人の衛兵のような男が何か言おうとした時、奥から中性的な声が制した。
「良い。其の方、ミカエラ殿とお付きの方々。
今は戦時中故、皆気が立っている。許してくれ。
此度の旅は、世界を渡ってまで何用か?」
「私達はこの勇者の母国である日本が危機に晒されていると知り、救済のために参った次第です」
「ふむ、救済か。では聞き方を変えよう。
そちらの世界のいざこざを、こちらの世界にまで影響を及ぼした落とし前をつけに来たということだろうか?」
「……!!
ええ、私らの世界から生まれた悪意がこちらの世界を荒らしまわっているのは申し訳なく思います。
ですが、それだけではありません。
その心の隙につけ込んだ真の黒幕がいるはずです」
「そうですか、やはり…… 貴女は本物の大天使のようだ。
お付きの方々も魔力を持っていることから同じ異世界の住人なのだろう。すぐにもてなしの準備を」
「しょ、承知致しました」
緊張した面持ちで男が下がり、集まって来た衛兵達も武器を降ろした。
それから三人は一日だけ滞在するつもりで眠りにつく。だが、ミカエラだけは眠っている二人を護るために一晩中眠ることはなかった。
次の朝、早速話し合いの機会が設けられ、お互いの世界について情報交換が始まる。
「昨日はよく休めただろうか?」
その声の主はまだ若く、背丈も年端もいかぬ子供そのもの。だが、セレスティアはその主が着ている服装に何処か見覚えがあった。
フィルメルクのダンジョン街の旅館で来ていた服に近い印象を受ける。
声だけは年齢離れした落ち着きを感じさせる、ある種の不気味さを孕んでいた少年の声に言葉を返す。
「お陰様で」
「それは良かった。では早速で悪いがそちらの世界について聞かせてもらえるだろうか」
セレスティアが説明をしていても、その表情は崩れることなくただ真剣に話を聞いていた。
一時間程話した頃、今度はセレスティアの話しに頷いてから、今の世界の実情について少年が話し始める。
「私はね、本来であればこうして表舞台には一切立つ予定は無かった。
だが、貴女達もご存知の通り、世界は混沌で包まれている。
私には異なる世界を覗き見る目を待っていて、
その目は勿論そちらの世界についても見ていた。
世界を何度か救っている彼はここには居ないようだが、まぁ問題ないだろう。
それよりも君達だ。
昨日も一度聞いているが、本当にこの荒んだ世界を元に戻せるというのかい?
今まで長い時を経て眠っていた魔物達を君達の世界の住人が起こしてしまった。
今はまだ日本のみの被害状況だが、既に他国からの干渉も進んできている。
魔物の核になる魔石は未知のエネルギー源でね。レアアースと呼ばれる希少鉱石よりよっぽどの高値で取引されているくらいさ。
もはや日本だけの問題だけでは無くなっているのが現実だ。
魔力の流れる地脈の流れを止め、全ての魔物を駆逐し、そして他国からの介入も全て止める。
本当に少人数である君達にできると?」
これにセレスティアは自信を持って返答する。
「必ず」
「そうか! なら任せたよ。
必要なものがあったら言ってくれ。微々たる力だが最大限協力させてもらうから遠慮なく」
襖を開けて、一人の男が部屋に入って報告する。
「離帝様。清水寺近辺にまた魔物が現れました」
「ふむ」
離帝と呼ばれた少年は、満面の笑みでセレスティア達に提案する。
「世界を救うと豪語したんだ。是非君達の力を見せて欲しい! 頼めるかな?」
「お任せください。その目でしかと見届けて頂ければ」
既に見ていたのだろうが、離帝以外の人物はまだどれくらいセレスティア達が戦えるのか知らない。
離帝はこう言っているのだ。
信頼は自分達で勝ち取って見せろと。




