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第三章 8話 神仙──雪中花

(やはり魔力糸なしの念動魔術で操作していたか)


「どういうこと?」


マリーがレルゲンに説明を求める。


「簡単にいうと、こいつらを動かしているのはナイトの念動魔術だ。だから最初から見やすい位置に陣取って“操作していた”んだ。ナイトが操っているから念動魔術も使える」


レルゲン以外の三人が驚きの声を上げる。

今までのこの攻防を全て一人で演出していた。


それこそまさに旅の行商人が連れ歩く人形使いのようではないか。ここまで並列に思考を分けて、狙いを絞り、作戦を共有させる。


念動魔術の極地とも言える技の結集にレルゲンは素直に驚きと共に、上の世界を見た。


「仕組みを理解したところで、今のレルゲン君には操作権は奪えませんよ」


「そうかもな」


最初はマリーとアイとの相性が悪いことから前衛を変える選択をしたが、アイの影移動とユゥの回復、どちらを先に叩くか──間違いなくアイの影移動の方が厄介だ。


となればレルゲンが自らアイと一対一の戦いをしても良いが、それだと次のナイトと戦う事を考えると魔力が枯渇しかねない。


寧ろ次を考えるなら、レルゲンが回復魔術を使うユゥを発動させないように釘付けにし、マリーとハクロウ、セレスティアにアイを討ち取ってもらった方がいい。


アイとユゥ、どちらかが欠ければ後は消化試合のはずだ。


「俺がヒーラーを抑える。みんなは影移動の方を叩いてくれ」


「任せて」「あいよ」


短いやり取りだが、即座にマリーとハクロウがアイに切りかかっていく。

マリーが連続剣の加護を発動させて、ハクロウがそれのサポート。


三人で戦っていた時はこんな戦法を取ることが多いのかなと考えたが、目の前のユゥに集中して回復の隙を与えないように立ち回る。


マリーが連続剣の加護が発動してから速度が上昇し切るまではハクロウと一緒に前衛をこなすが、加護の速度が乗り切った後はマリーのみで前衛を任されるのが一つの勝ちパターンだ。


次第に速度が上がっていくが、ここでアイが速度鈍化のデバフスキル「ダウン・ザ・ピッチ」をかける。


またガクンと一瞬速度が落ちるが、セレスティアがそれを即座にカバーする。


「ライト・スピード」


下がった分即座に速度バフがかかり、マリーの口角も上がる。更に上がある、もっと先へ行ける。


そう感じてからの攻撃速度はマリーを能力以上の速さへと進化させる。


堪らずアイが影移動で離脱しようとするが、これをセレスティアが阻止する。


「サンライト」


沈みかけた影がなくなり、身を潜めることが出来なくなる。そして更にマリーの剣が襲いかかり、徐々にアイの身体に傷をつけていく。


ハクロウはマリーが加速し切った後はレルゲンと共にユゥの足止めにかかり、こちらも盤石の状態と言えるだろう。


しかし、この順調過ぎる戦況にレルゲンが違和感を覚える。


(おかしい、これが奴の最高傑作なのか?そうだとしたら、“弱すぎる”)


レルゲンが異変に気づいた瞬間、マリーと相対していたアイの動きが変わる。


マリーと打ち合う度に腕や腰の関節が不自然に動き、曲がり始め、マリーの速度に対応し始める。


「この…!」


マリーが不自然に切り返し攻撃をしてくるアイの動きに辛うじて対応を続ける。


今アイから離れたら、またも連続剣の加護の継続が難しいと判断して、細かい切り傷を負いながらも前へ押してゆく。


アイの方もマリーから少しずつではあるが切り傷を負い、両者痛み分けの状態だ。


アイが不自然な動きを始めてから、レルゲンはユゥに対する警戒を一段階引き上げる。


するとやはりというべきか、ユゥの両腕と両足が伸び、踏み込みによる距離感が変わり、レルゲンが対応に追われる。


一度ユゥの剣を上に打ち上げ、様子を見るために距離を取る。


それを見たハクロウが


「どうなってんだこりゃあ…」


混乱した声を上げる。


「見た目は人間そっくりだが奴らは人形だ」


「そんなのありかよ」


泣き言を溢すが、そこは歴戦の戦士だけあり、レルゲンよりも先にユゥの間合いを正確に捉えつつ足止めをする。


(ここはハクロウに任せて大丈夫だな)


咄嗟にマリーの補佐に入るべく念動魔術で駆け出す。


「マリー、防御はこっちでやる!どんどん攻めてけ」


「ええ!」


マリーの速度がまた一段上がる。攻撃のみに特化すれば最高速度はまだ上があるようだ。


前後左右のステップを入れて緩急をつけつつ攻撃を続け、魔力を込められた剣が一層輝きを増し、アイを追い詰めていく。


レルゲンはマリーの攻撃の邪魔にならなければいい。予測不能な一撃をアイがした時には帯同させた鉄剣で防ぎ、


マリーの攻撃がしやすいように足止め、体制崩しを目的に剣を振るう。


その間にマリーについた傷をセレスティアが治癒魔術で癒し、全快状態にする。


ある程度打ち合ったところで、アイの奇想天外な動きにレルゲンがまた対応力を見せる。


マリーに向けたられた一撃を防ぎ、剣を持つ腕ごと動きを止める。


腕が抜けなくなった瞬間的な隙を突き、マリーが一撃を入れる。これを何度か繰り返すと、アイが始めて焦りの表情を見せる。


(人形とはいえ、そんな表情をするのか)


アイの劣勢を受けて、ハクロウと打ち合っていたユゥが横目でレルゲンとマリーに向けて光の槍を放つ。


「マルチ・シャイン・ジャベリン」


それを瞬時に察知したセレスティアが同じ魔術で相殺。


「させません!マルチ・シャイン・ジャベリン」


空中で同じ魔術同士でぶつかり合い、光の槍が粉々になって消滅していく。


レルゲンが迎撃しようと一瞬意識を光の槍に割いたが、すぐにまたアイからの攻撃に集中する。


光の槍が防がれたユゥは直接アイの加勢に行こうと方向を変えて突っ込むが、その先にはハクロウが待ち構えていた。


「寂しいねぇ、おじさんとの打ち合いは嫌いかい?」


「願い下げです」


「そうかい、でも嬢ちゃんがその気になってくれなくても、こっちは相手してもらわないと困るね」


ハクロウが斬りかかり、ユゥがそれを受ける。二本の刀から繰り出される連続攻撃に、ユゥは防御するので手一杯になる。


このままでは不利と感じたのか、ここでユゥに魔力が集中していき、打ち合いを続けていたハクロウが一歩下がり、間合いを取る。


「サンライト・ハート」


当たり前のように無詠唱で魔術を発動する。しかし、現れたのはサンライトのような光の球のみで、特段何か変化は見えない。


そう、“見えない”のだ。まるで至近距離でファイアボールを発生させているかのような熱さが全員を襲うが、光の球自体は天井近くにあり、距離がある。


レルゲンがナイトを見ても暑そうな素振りはなく、汗一つとしてかいていない。


(これは、念動魔術との合わせ技か!)


光源自体に発生する熱の方向を念動魔術で操作して、見えない熱線を攻撃手段としている。


不可視の攻撃に対応が出来ないレルゲンを見て、ナイトが得意げに笑いながら。


(そうです。貴方が幼い頃にした“魔力を使わない魔術”ですよ、シュット君)


念動魔術で熱を集めているのなら、念動魔術で熱を散らすことだって出来るはず。そう考えたレルゲンはどうやって熱を散らすのか考える。


熱を集めるには拡大鏡を使えば可能だが、散らすにはどうしたら良いのか、根本的な解決策が思い浮かばない。


全員に氷の盾を頭の上に出現させて急場を凌ぐ。しかし、その氷も高熱によってみるみる溶かされていき、盾としての役割をすぐに終えてしまうだろう。

どうするか悩んでいる時間はない。


周りを見回してどこかに打開策が眠っていないか探し、目の端にチラリと新しく帯同させたアシュラ・ハガマの素材から出来た剣が目に入る。


(アシュラ・ハガマ、増幅器、“光の集光”…俺はこの熱を発散させる事に固執しすぎてはいないか?)


地面を見るとサンライトの光が集まり、やけに眩しい地点が四箇所ある。


その四箇所こそがレルゲン達のいる場所と同じで、移動したところにその光も一緒についてくる。


つまり、意図的に熱と光を集約させる事も可能なのではないか?


思考回路が全開で回り、溶けかかっていた氷の上に、人数分の氷の板を更に念動魔術で出現させ、レルゲンが叫ぶ。


「皆、俺に考えがある。セレスの元まで走れ!」


瞬間、マリーとハクロウがアイとユゥの相手を切り上げ、セレスの元へと駆け出す。


アイとユゥは追撃せずに集まっていくレルゲン達を見て笑った、気がした。


光の塊が一つに集まると瞬間的に氷の盾が先程よりも凄まじく速い速度で溶け始める。


「おいおい…」


ハクロウが狼狽した声をあげ、マリーの悲鳴に似た声が響く。


あまりの温度差で氷にヒビが入り、粉々に砕け散った瞬間、白銀の細剣をレルゲンが天に掲げ、


掲げられた剣は光を集めるように剣の内部へどんどん集まっていき、すぐに満タンになる。


「よし!いいぞ、皆走って散れ」


散ったことにより光のエネルギーが分散され、溶け切った氷の盾をレルゲン以外の全員に出現させ直し、再度熱攻撃から身を護る。


光の熱エネルギーで満タンにになった白銀の剣が輝きを放ち、サンライトよりも強い光を発するのを見たナイトが興奮のあまり立ち上がる。


(素晴らしい!こちらの狙いを逆手に取って自身の糧にしている!)


「自らの熱をその身に喰らえ」


輝く白銀の剣をユゥに向け、レルゲン自身の魔力と融合させた光弾として放つ。


光の速度とまではいかないが、それでも音速を超えた速度で発射された光弾は衝撃波と共にユゥの左肩に着弾して焼き焦がし、貫通する。


「なっ…」


ユゥが驚きの声をあげて貫通した肩口を抑える。出血はないが、間違いなく致命的な一撃になり得る威力を持つことが示された。


「嬲る趣味はない、一気に行かせてもらう」


光弾を連続で射出し、ユゥの身体が穴だらけになり、動力の心臓部分とも言える魔石のような核が露出する。


最後の一撃とばかりに白銀の剣をユゥの核部分に狙いを定め、光弾を射出するが、着弾する寸前で姿が消える。


辺りを見回すが、アイとユゥの姿はない。


瞬時に敵が隠蔽魔術を使用したと判断し、適任者に任せる。


「セレス、頼んだ」


「お任せを、ウォーターシャーク・トルネイヴ!」


人形には熱がない。しかし、度重なる光弾の被弾により焦げた部分の熱は残る。


セレスはその残った熱源を追って上位魔術を発動させ、不可視の敵を捉えた。


「ぐっ…」

「がはっ……」


隠蔽魔術の持続が出来なくなったアイとユゥを渦巻く中にいる水性生物が噛み砕かんと暴れ回る。


術が解除され、打ち上げられたアイの落下地点にハクロウが待ち構える。


「動けないところすまねぇが、ここで決めさせてもらう」


二本共一度鞘に納め腰を落とし、脱力状態を作る。

秘剣…とハクロウが呟いた瞬間、姿を消す。


「神仙──雪中花」


神速の六連撃が一瞬にして繰り出され、ユゥの魔石が粉々に切り裂かれる。


技が終了した後は再び二振りの剣が鞘に納まり、素人目にはいつ鞘から抜いたのかわからないだろう。


シン……と静まり返り、二人で一つの内の半身が欠け、二度と立ち上がることはない。


一人取り残されたアイがセレスティアの魔術から解放された後、まだ立てないでいたが、横たわりながら半身が欠ける様をまじまじと見ている。


「ユゥ…」


欠けた半身の名を呼ぶ。突如、アイの魔力が爆発的に膨れ上がり、赤い魔力が噴き上がる。


「ああああああああアァァァァ!!!」


絶叫。喉が張り裂けんばかりの絶叫が響き渡る。


「お前…お前だけは絶対に許さない」


ハクロウに向けられた言葉は、行動となって現れる。アイがハクロウに向けて右手を掲げる。


(さぁ、半身が欠け、遂に“核撃”のお披露目です。どう防ぎますか?)


ナイトがこの後の結末がどうなるのか見たいという好奇心が頂点に達した時、レルゲンが瞬間的に念動魔術でハクロウの前に移動する。


「邪魔をするならお前も死んでしまえ」


アイが全身から噴き出た赤い魔力を右手に集約させ、レルゲン達に向けられて放たれる。


アシュラ・ハガマ最後の一撃と似た赤い光線攻撃、文字通りの全身全霊をかけた一撃。


これを受ければレルゲン達の勝ち、受けに失敗すればアイの勝ち。実に明解な勝負。


威力にすれば、アシュラ・ハガマよりも確実に上だろう。しかしレルゲンは全魔力を解放しない。


黒龍の剣に魔力を通常通り込め、紫色に発光する。刀身は伸びず、赤くも光らない。


全魔力同士のぶつかり合いが見られると思っていたナイトは疑問を持った。


(あの時以上の核撃をどうやって対処するつもりですか?)


赤い光線がレルゲンに迫る。ハクロウはその後ろで止まり仁王立ちのまま動かない。


両手で握られた黒龍の剣が赤い光線に接触し、光線が二つに分たれる。


尚も押し込み、飲み込まんとする赤い光線がレルゲンの剣に重くのしかかり、足場の地面が先に耐えきれずに割れて沈んでいく。


レルゲンの魔力が薄く、アイの放った光線を包んでいく。


包み終えた時、レルゲンが剣で光線を持ち上げるように振り上げ、それに釣られるように赤い光線は建物の天井を貫き、遥か彼方に消えていく。


パチパチパチと手を叩く音が建物内で反響する。核撃を打ち終わったアイは塵となり、風に吹かれて消えたが、生みの親であるナイトはレルゲン達に賞賛の拍手を送っていた。


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