7話 仲間意識
魔剣を持った魔物が上段から斬りかかってくる。しかしレルゲンはベヒモスとアシュラ・ビーストから目を離さない。
魔剣がレルゲンに迫るが、浮遊剣にしている氷華で受け止めて弾き飛ばす。
瞬間、ベヒモスとアシュラ・ビーストが口元に魔力を集中し、各々の熱線攻撃を放った。
レルゲンには矢避けの念動魔術の他に、言葉による軌道変更もできる。
だが、レルゲンは気づいていた。
アンツヴェルトとは別の誰かが、自分の戦いを見ていると。
念動魔術は使わずに身体強化のみで躱しながら肉薄していく。駆け出した足には魔力が集中し、淡く白い光で輝いている。
(出来れば念動魔術や魔剣による属性攻撃も避けた方がいい。ウルカを呼ぶのもダメ。心念の盾も控えたい。となれば)
いつぞやのアシュラ・ハガマと戦った時の事を思い出す。
あの時は魔剣すらなかったが、今回は三体同時討伐に自身の魔術を縛り、そしてアンツヴェルトの保護をしつつ第三者の監視を気にしながら戦わねばならない。
(アシュラ・ビーストの知能は他の二体よりも高いはず。倒すならコイツからだ)
視界ではなく魔力感知を常に張りながら、目ではなく魔力で敵の位置を把握し、そして次の攻撃を予測しながら動く。
自身が追い詰められる環境こそ成長の機会。
レルゲンはこの逆境をある意味で楽しんでいた。
感覚は少しずつ研ぎ澄まされ、大まかな魔力の塊として感知していた普段の魔力感知ではなく、
もっと細部まで行き届いた輪郭を掴もうと、おそよ身体を動かす殆どの情報源として機能している視界まで自ら閉した。
やがてアンツヴェルトが持つ微細な魔力も正確に感知していき、斜め上にある建造物に腰掛けるように座る魔力を感じ取る。
今の所は彼女と同様に自分の戦いをただじっと見つめているのみ。何らかの手段で隠れているようだが、最初に感じた視線からも暗殺者では無い。
今は未知の魔力源の動向ではなく、三体の魔物を手の内を見せずに討伐することが最優先だと判断。
アシュラ・ビーストの弱点は外殻の魔力増幅鉱石で覆われている外側では無く、その柔らかい内側である腹部。
ここをどう狙うかで今後の戦闘が変わる。
チャンスはそう多くない。
自身の弱点は自ら把握していると考えた方がいい。一度のミスで二度と狙えなくなる可能性もある。
(危険な熱線を掻い潜りながら、直接狙うか?
いや、他の二体の動向もある。
前回と同様に念動魔術で足場を操作し、剣を突き立てるか?だがこれは最終手段。
敢えてもっと正攻法で行くには、やはりこの手だな)
全身甲冑の人型は氷華で抑えつつ、ベヒモスをブルーフレイム・アローズで牽制しながら駆ける。
防御の厚い後ろ足。
発達した後ろ足はその分アシュラ・ビーストの機動力で一番重要な部分であると言える。
その分守りも強力だが一本の後ろ足を集中的に狙えば、再生しない特性からバランスを崩して転倒させるのも不可能ではないはずだ。
黒龍の剣には普段から魔力を込める習慣がついている。
今回も光線攻撃を放つ時と同様に魔力を込めていくが、刀身が伸びるのを念動魔術で最初から圧縮し、一閃攻撃と同じだけの斬撃を常時発揮する魔剣へと変化させる。
その分魔力消費はかなりの量を消耗するが、レルゲンはアシュラ・ビーストとの戦いを長引かせるつもりはなかった。
アシュラ・ビーストが前脚の鋭利な増幅鉱石を使い、切り裂き攻撃をしようと肉薄したレルゲンに向けて二本の前脚を振り上げる。
体重を乗せた一撃を横に転がり込むように回避。素早く立ち上がり右足で力強く地面を蹴り、狙いの後ろ脚へ一直線に素早く移動した。
黒龍の剣を叩きつけるように振り抜くと、僅かな鮮血と共に紫色の増幅鉱石が派手に弾け飛ぶ。
(やはり硬いな)
二撃目を入れようと手首にスナップを効かせて斬りあげるが、アシュラ・ビーストがすぐに斬られた脚で剣ごと弾く。
バックステップで距離を取ったが、レルゲンの狙いは恐らく気付かれた。
避けた先にはベヒモスが再び光線攻撃を横から放ち、咄嗟に飛び上がって回避するが、光線もまた追いかけるように上へ向けられる。
三本のブルーフレイム・アローズを無意識的に出し、ベヒモスの顔面へと向かわせると正確に命中した。
全ての矢が当たり、目を運良く焼いたことで光線は中断され顔を覆いながら大きく怯んでいる。
(好気……!)
すかさずターゲットをベヒモスへ変更し、最後の一撃を入れようと距離を詰める。
だが、意外にもその間にアシュラ・ビーストが割って入った。
「お前達。違う種類の魔物なのに仲間意識でもあるのか?」
やはり、一番高い戦闘力を持っているベヒモスより、頭の回転が早いアシュラ・ビーストを先に倒す他無さそうだと再確認した。




