4話 一年振りの
レルゲン達が次元の切れ目に吸い込まれてから日本の空へ放り出され、空中で体勢を立て直して他の仲間を見渡す。
傍には召子とフェンとアビィ、そしてアンツヴェルトがいるのみ。
それ以外は別の入り口から日本入りしておそらくここにはいない。
念動魔術で空を飛べないであろうアンツヴェルトへ意識を飛ばそうとした時、召子が抱えるように抱きしめた。
「おっと」
「済まない。勇者よ」
「召子でいいよ。アンツちゃん」
「子供扱いされたのは中々に久しぶりだね。よろしく、召子」
魔力感知を限界まで広げるとおよそ地上は深域のように高い魔力を持った魔物で溢れていた。
他にも魔力ではないプレッシャーを一際高い建物から感じる。
恐らくテクトが作った人工魔物、モンストルム・ファブリカと魔力のみの比較なら凌駕していると分かる程のプレッシャー。
一番近くで感じる魔力は飛んでいる魔物。
向こうも突然現れたレルゲンの膨大な魔力に吸い寄せられるように進路をこちらへ向けてくる。
漆黒の剣を鞘から勢い良く引き抜き、魔力を込めて振り抜くと、透明な斬撃が発生して魔物の翼を断ち落とす。
高度を保てなくなり、地面へ激突すると同時に魔石へと還った。
召子に抱えられているアンツヴェルトも思わず唸る。
「流石だ。月明かりだけでこれ程離れている敵を正確に撃ち落とすとは」
「召子は〈魔力眼〉を持っているんだが、それをヒントにして魔力を見ているだけだ。
感知外は使えないけどな」
「ふむ、まだまだ魔術は奥が深い」
気温は低く、季節感は元いた世界に近い。
若干の肌寒さを感じながら、レルゲン達は降りる場所を探す。
「召子、ここは元々魔物がいなかった世界だ。
余計な衝突を生まないためにフェンとアビィは小さくしておいたほうが良いかもしれない」
「そうですね。二人共、小さくなって私の肩に」
掌サイズまで小さくなった一匹一羽は隠れるように召子の肩へ乗る。
サイズを抑えたその時、静寂に包まれた闇にマズルフラッシュと銃の発射音をほぼ同時に確認する。
「レルゲンさん。あそこで戦っている人が」
「ああ。間違いなく魔力量からアビィと同種の魔物だ。六段階目だと思う。
ここの世界ではまず太刀打ちが出来ない相手だ。助けに行こう」
群がってくる魔物を蹴散らしながら、目的の戦闘を繰り広げている地点へ降下を始める。
アンツヴェルトを地面に下ろし、召子は一人だけで戦っている特殊装備を身につけている男性の元へ駆け出していた。
彼は勝ち目を諦めて手榴弾で自死を選ぼうとしている。ピンを抜きかけたその時、召子の手が一歩早くその手を抑える。
「もう大丈夫です。私達があの魔物を倒しますから、貴方は少し後ろに」
〈魔力眼〉で周囲に他の魔物がいないことを感知し、男性の手を取って後ろへ歩こうとするが、それを止めたのはどこか懐かしい。何度も聞き慣れた声だった。
「お前、召子か……?」
「えっ……?」
二人が初めて顔を突き合わせる。
お互いに信じられないと顔を見合っても、最初は誰か分からなかった。
だが、声はあの時優しく自分を育ててくれた、肉親の声その物。顔をもう一度確認する。
今まで散々苦労して、悩んでいた事が伺える程に精神が疲弊し切っていた父親の顔。
幸せだったあの頃と比べ、目は奥まって見える。それに髭も少しばかり生えており、手入れが行き届いていない。
片やもう一人の女性は、見た事のない大剣が納まっている鞘を軽々と担ぎ、異国の服装に身を包んでいる。戦闘に特化した防護服と言っていい。
背は少しばかり伸び、声には今まで何度も修羅場を潜り抜けてきたと思わせるような余裕すら感じられる。
そして何より宗一郎が自死を選ぶ手を握った両手からは、何百、何千。否、それ以上振り続けて出来たであろう手の豆が感触として伝わってくる。
行方不明の期間でお互いは別人のように変わってしまっていた。それでも、それでも……
その声だけは、何よりもお互いが家族であることの証明に他ならなかった。
「お父さん……なの?」
「召子……!召子!!」
宗一郎が一年間行方知れずだった愛娘を抱きしめる。痛い程強く抱きしめられた腕は、もう二度と何処にも行かないように、
きつく、そして強く抱きしめられていた。
「一体、今まで何処に行ってたんだ……心配……したんだ、本当に……ああぁぁぁぁ!!!!」
目からは大粒の涙が溢れて止まらない。
召子は嬉しさの余り笑顔で抱きしめ返していたが、号泣する宗一郎に釣られるように、今まで溜め込んでいた感情がなだれ込んで来る。
「お父さん!お父さん……!
帰って来れた!良かっだぁぁあああ!!」
二人がわんわん泣きながらお互いを抱きしめ合うのを見て、レルゲンは少しだけ微笑みながら標的の魔物に向き合う。
「前にお前と会った時は身体が動かなかったからな。だが今回は存分にやらせてもらう。
後ろの二人を邪魔をするようなら俺はお前を斬る」
レルゲンの言葉は恐らく通じている。
六段階目となれば人間の言葉はほぼ通じるだけの知能を持っている。
だが、魔物に対話の意思がなければその限りではない。
アビス・アイビスはマルチ・フロストジャベリンを十本以上背後に展開し、レルゲンではなく後ろで感動の再開を果たしている二人に向けて発射された。
しかし、着弾の前に軌道をあらぬ方向に強制的に曲げられ、狼狽するような鳴き声を上げて羽根をバタバタする。
意識が離れたその時、瞬間的に念動魔術で背後に移動したレルゲンが黒龍の剣に魔力を込め、
光を最初から圧縮した状態で一閃攻撃を放つ。
縦に真っ二つにされたアビス・アイビスは魔石へと還り、その後も一閃攻撃は収まる事なく、瓦礫を数十メートル以上も突き進んで消えたのを見た宗一郎は、
信じられない物を見た恐怖よりも、感謝の念を黒髪の蒼い瞳を持つ剣士に送っていた。




