3話 滅びの歌
「まさか……!」
桜部隊の全員が振り返ると、そこにはエネルギーが淡い白に可視化される程濃い密度で上空へ放たれていた。
瓦礫が空中へ弾けるように上昇し、エネルギーの放出と共に再び砂埃が当たり一面に充満する。
ドスン。
音もなく砂埃を切り裂きながら貝塚の胸を一本の青い槍が貫く。
胸に刺さった氷の槍は貫通するのではなく、まるで貝塚を苦しめるのが目的とさえ思える程絶妙な速度で放たれていた。
槍が盛り上がった瓦礫に突き刺さり、貝塚も瓦礫に固定されるように磔にされる。
「あっ……ガッ、ゴフ……」
胸の正中線を捉え、貝塚は口から止めどなく出血しながらも駆け寄ってくる仲間達をぼんやり見つめていた。
意識が遠のく。
熱い……冷たい、熱い、冷たいあついつめたいあつい!!
もはや痛覚はいつしか無くなり、必死に叫ぼうとするが肺に血が溜まっていることで、空気を吐き出そうとする代わりに血がゴポゴポと流れるのみ。
だがそれでも。傷口が広がり強制的に痛覚が戻ろうとも無理に叫ばずにはいられなかった。
「後ろだァァ!!!」
桜部隊のメンバーが後ろを振り返る中、烏間だけは自分の命よりも瀕死の貝塚に駆け寄るのを止めなかった。
「貝塚さん!」
「ば……!お……いい!」
声にならない悲鳴にも似た音がしたが、ブクブクと血の泡にかき消される。
(俺はもう……!)
まるで餌に群がる蟻を狩る蜘蛛のように振り返った他の桜部隊には目もくれず、網に掛かるのをじっと待つハンターのように。
まるで狩りを楽しむ狙撃手のように、烏丸の足元を凍結させて動きを封じる。
腰まで氷結領域が広がり、必死に藻がいて逃れようとするが全く氷が動く気配がない。
動かない片足目掛けて、鋭利な氷槍が一本正確に命中する。
貝塚とは対照的に完全に凍らせられた左足がバラバラに吹き飛ばされ、血は一滴も溢れていない。
(馬鹿野郎……)
痛みに耐えかねて流しているのではなく、貝塚は己の無力感に涙さえ浮かべていた。
精神的に強靭な仲間が集められた桜部隊とはいえ、ここで堰き止めていた感情のダムが決壊する。
「うわぁぁあああああ!!!!」
仲間の一人がまだ砂埃が舞って標的が不明瞭であるにも関わらず、手持ちのアサルトライフルを大体の狙いをつけて乱射した。
「よせバカやめろ!銃は意味を成さない!
落ち着け!」
最上の制止を意に返さず、尚も乱射を止めない仲間は完全に正気を失っていた。
すぐに最上は辛うじて気を保って待機している人員の硬直状態を解く。
「奴より手前の瓦礫目掛けて手榴弾を投げ込め!」
手榴弾のピンを抜く音が何度か聞こえたのを確認してから、最上は重症の貝塚へ駆け寄る。
狙い通り手榴弾がアビス・アイビスの足場を崩し、体制を立て直そうと飛び上がるのを尻目に貝塚へ駆け寄る。
「貝塚……!待ってろ、今!」
「隊長……俺、よりも、烏間……を」
ひどく出血している貝塚を救出するには胸に刺さったままの氷槍を抜かないとならない。
だが、一度抜いたが最後、ただでさえ血を吐き過ぎている貝塚は出血多量で間違いなく死ぬだろう。救出する手立ては、もう無い。
「貴君の勇戦。私は敬意を表する!
貝塚二等兵……! 私もすぐに行く」
「へへ…召子さんが、悲しみますよ」
その言葉を最後に、貝塚の意識は永遠に閉ざされた。
「烏間!生きてるか!」
「はい!」
出血や痛覚が完全凍結で麻痺している烏間は、見た目よりは元気そうに見える。
「全員烏間を庇いながら交代!
殿は俺がやる」
「しかし最上隊長……!」
仲間の一人が宗一郎を引き止めようとするが覚悟が据わっていると感じ取り、すぐに引いた。
砂埃が風に流されて掃けていく。
アビス・アイビスの前には宗一郎が一人だけ。
温存していた弾薬が薬莢を吐き出しながら何度もアビス・アイビスへと向かうが、結果はやはり同じ。
無意味な攻撃はまだ暫く続くはずだったが、アサルトライフルは火を吹くのを思いの外早く中断する。
弾薬が吸い込まれる口へ曲がりながら無理に吸い込まれたために詰まりを起こしていた。
「この野郎!」
思い切り銃身を殴って詰まりを解消しようとするが、直らずに使い物にならなくなる。
(妖魔に殺されるくらいなら……!)
腰に引っ提げた最後の手榴弾に手が伸びる。
ピンを抜こうとした時、一年前に忽然と姿を消した愛娘を思い出す。
「お父さん!」
(途中で投げ出してすまない、召子。
今、そっちにいくよ)
ピンを引き抜こうとした手は、優しく手を握る者によって止められる。
女性の手だ。
細いながらも、掌にはいくつもの硬い豆が感じられる戦士の腕。
その手は今まで見たことのないはずだ。
だけどどこか懐かしい手。
振り返って見たその顔は、最も会いたい者のように見えた。




