2話 ショッピングモール攻防戦
「これからモールに入りやり標的を過ごす」
「正気かよ最上さん。あそこはもう崩壊一歩手前だぜ」
焦った烏間が食ってかかるが、ニッとイタズラっぽく笑って落ち着かせた。
「だからこそいいんじゃないか。運転手、モールに進路を変更」
「了解しました」
車が急カーブの後に廃モールへと進路を変更する。車載のエネルギー計がけたたましくアラームを発し、乗っている桜部隊メンバーの表情が更に険しくなる。
運転手が廃モールを捉えて入り口を探したが、ひび割れたガラスが待ち受けるのみでそれらしい場所はない。
「隊長!」
「構わん!突き破れ。総員、衝撃に備えよ」
低い段差の階段を自慢の四輪駆動で駆け上り、勢い良くジャンプする。
一瞬の浮遊感から衝撃が全身を強く撃ち、吹き抜けになっているモールの中心地点で急ブレーキ。派手なブレーキ痕を残して停車する。
「GO GO GO!」
全員がトラックから武装を身につけて素早く展開する。
手にはミミズ型妖魔を屠ったアサルトライフルに手榴弾を二つ腰へ引っ提げ、小型の仕掛け爆弾を担ぎながら三次元的に散る。
動かないエスカレーターを素早く登り、アビス・アイビスがやって来るのを待つと、
手首につけている時計と一緒に内蔵されているエネルギー計がグルグルと回り、まるで樹海にやってきた時のコンパスに似た動きをしていた。
奴が来る。
モールの吹き抜け部分から優雅に羽ばたきながらゆっくりと降下してくる深い青の翼は、危険な美しさを孕んでいた。
月光に反射するその姿は、神々しくも「死」そのものだった。
自分達が乗り捨てた車の上に降り立つと、触れた足元から急速に冷やされていき、瞬く間に車体は氷漬けになる。
人間に妖魔の発するエネルギーは視認できない。それは特殊なサーモグラフィーや電磁波を捉えることの出来るゴーグルを用いても同じ。
帰りの足は断ち切られた。
ここから徒歩で帰るのも出来なくはないが、
丸一日はかかるだろう。
携行食は機動力確保の為に各自一日分しかない。正直に言えばこの妖魔をやり過ごせても無事に帰還できるかは運による所が大きい。
また、空からの救出も難しい。
近くに離発着できるほど平坦な道もなし。
そして仮に場所の確保が出来たとしても、空を制している別の大型妖魔からの一撃で何度撃墜されたかも分からない。
救助の要請はするだけ無駄。
電力も限りがある。手持ちの無線を出来るだけ延命させる為にもやり取りの回数は必要最小限にしなければならない。
隊員達に緊張が走る。
余計な手出しをすれば、遠距離から氷の妖術が飛んでくる。
至近距離なら先程のトラックのように完全に身動きを封じられ、生きて脱出するのは困難だろう。
今はただ、じっと息を潜めて奴が興味を失って立ち去るのを待つのみ。
トラックの上で呑気に羽根の繕いをするアビス・アイビスは、周囲の気配を探っていることを気取られないように桜部隊が襲いかかってくるのを待っていた。
しかし、それだけの知能が備わっている事実を、この時の宗一郎達はまだ知らない。
三十分程の時間が経過し、烏間が無線越しに隊長の名を呼ぶ。
(最上さん)
(なんだ?)
(今なら奴を全員の一斉射撃で倒せるんじゃないですか?)
(無理だ。これ程高いエネルギーを持った妖魔には豆鉄砲くらいにしかならんと習ったはずだ)
別の隠れ場所から無線越しに貝塚も、少しの焦燥と共に進言した。
(最上さん。奴はまだここを動くつもりは無いようです。補給も少ない、何か行動を起こさないとジリ貧です)
(……わかった。これから支持するポイントに手持ちの爆弾を仕掛ける。瓦礫で奴を生き埋めにし、その間に離脱する)
(了解)
各自足音を殺しながら指示のあった場所に爆弾をセット。隊員が避難するためのロープを地面に垂らし、準備完了。
貝塚が最上に起爆スイッチを手渡すと、全員が退避を始めた。
しかし、この退避のタイミングで烏間がガラス片を踏み、静寂に包まれた空間にパキッと甲高い音が一度だけ響き渡る。
「やばっ」
烏間の姿はまだ妖魔からは影になって見えない。
であるはずなのにアビス・アイビスは背後に氷の槍を複数展開を始め、正確にモールの壁越しに烏間を捉えた。
発射される寸前に宗一郎が大声で叫び、持っているアサルトライフルをフルオートで発射した。
見えないエネルギーで守られているアビス・アイビスは、弾丸が命中しているのにも関わらずその体表から弾丸を全て弾き飛ばすが、宗一郎の狙いは傷を負わせるのではなく
「こっちだバケモン!こい!」
即座に隠れながらモール内を全力で走り、烏間から逃げる時間を稼ぐ。
氷の槍が宗一郎目掛けて飛来してくる。
槍は傷んでるとはいえコンクリート壁を易々と貫き、喉元に迫る勢いで追尾してくる。
元々用意していた降下用のロープはもう使えない。どうやって降りるか思考を走らせながら駆けるが、解放されている非常階段を目の端に捉える。
転がり込みながら非常階段を駆け降り、モールから脱出したと同時に起爆スイッチを力強く押し込んだ。
背後で派手な爆発が連鎖的に発生し、狙い通り支柱を破壊してモールが地響きと共に崩落する。
破片や砂埃がが周囲を包むように広がっていったが、池に近い噴水に飛び込むように逃げ込み込むことでやり過ごし、無事に作戦が成功した。
水面から顔を出すと、申し訳なさそうに烏間が宗一郎に謝るように頭を下げたが、
果たして本当に生き埋め作戦が成功しているのか確かめる。
エネルギー計からの反応は消失し、そのまま司令部へ帰還しよう踵を返した瞬間、先程とは比べ物にならない程のプレッシャーが宗一郎達桜部隊を襲った。




