52話 日本へ
五部最終話です
召子の世界へ逃げ込んだマークスから声だけが聞こえて来る。
「ようやく世界の狭間に来てくれたかい。
嬉しいよ、もう後戻りはできない。
存分に絶望を味わってくれ」
透けて見えていた摩天楼の群れが近づいて来る。だが、後少しというタイミングで景色が近づいてこない。
違和感の正体はすぐに気がついた。
見えていた摩天楼の群れが近づくどころか遠ざかっていく。
間違いない。これはディオス神を騙すに足るレベルにまで練り上げられた魔術による幻影。
マークスの狙いはこの世界の狭間への入り口を開くのみ。出口であるはずの召子の世界は始めから開けられていなかったのだ。
「マークスの狙いは俺達を誘い出して、この狭間で永遠に閉じ込めるつもりか!」
咄嗟に来た方向を見るが、その入り口も全員を連れてはもう戻れない。
全員が辺りを見回すが暗闇の中には何も存在しない。どこにも出口らしきものは無い。
こうなったら、強制的に次元の穴を開けてどこか別の世界に脱出するしかなかった。
「ウルカ、全魔力解放だ」
「でもレル君……!」
「全魔力で次元に切れ目を入れる!まだ世界と距離が近い内に手を打たないと手遅れになる!」
セレスティアをミカエラに預けてから、ウルカは汗を滲ませながらも全魔力をレルゲンに渡し、聖属性と似たような純粋な魔力の光がレルゲンの身体から迸った。
それを全て黒龍の剣に込めると、一本の天を衝かんばかりの光の線がどこまでも伸びていく。
ここからが念動魔術で伸びた光を圧縮していく工程。全身の筋肉が張り裂けんばかりに悲鳴を上げ、抵抗するように強張る身体を解放しようとする。
くぐもった声を上げながらも何とか堪えながら、一本の剣と同じ刀身になるまで光を超速で圧縮した黒龍の剣は、白竜を思わせるほどに純白の優しい純粋な光で包まれていた。
レルゲンが身体を引き絞るように捻りながら構えを作ると、メンバーが自然と距離を取って離れる。
「オオオオオオ!!」
一閃の光りと共に高圧縮された一撃が召子の世界を映し出した幻影に飲み込まれる。
幻影とは文字通りそこに無いものをあたかもあるように見せる魔術だ。
ではその幻影を作るための世界はどこから持って来るのか。それは術者本人の頭の中にあるイメージだ。
奇しくもそのイメージは間接的に幻影先の世界とリンクしている。
パシ……ピキ……
ピキキ……!ピシッ!
幻影を映している一枚の絵画にヒビが入る。
その芸術品を傷つけた先に、真っ黒な摩天楼が月灯に照らされて、反射しているのが分かる。
今度こそ間違いなく召子の世界の狭間に亀裂が入った。世界の自然修復で穴としては小さい切れ目が既に塞がり始めている。
「急ごう!」
レルゲン達が速度を上げて空いた切れ目に進んでいくが、空いた切れ目は大小あるが全部で三つ。
海流にも似た空気の流れがレルゲン達を吹き飛ばす。
あまりの暴風に全員が空中制御を失い、アンツヴェルトを抱えていたレイノールの手が滑り、片手同士で繋がれる状態になる。
まるで二人を引き裂こうとしているかのように、再び風の奔流が襲いかかる。
「何をしているレイノール!さっさと瞬間移動したまえ!」
「何でか知らんが出来ねぇんだよ!
アンツヴェルト!絶対手離すんじゃねぇぞ!」
「そんなこと……!言われなくても!
くっ……!!」
二人の手が解かれる。
他にもメアリーの側を離れないようにピッタリくっ付いていたクラリスも離れてしまう。
まるで離れない意識をしたところから離れていくような、風が独自に意識を持っているかのように、元々組んでいた配置がバラバラになっていく。
「「レルゲン!」」
マリー、セレスティア、そしてミカエラがその名を同時に呼んだが、返事を返す頃にはもう声が届かない程に離れてしまっていた。
異世界。日本への次元の壁をこじ開けてから、三つの出口にそれぞれ吸い込まれたレルゲン達は、日本のどこかに開かれた地点に落ちていった。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
第六部でお会いしましょう!!




