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第三章 7話 自動人形との戦い

建物の入り口を潜ると自動で閉まっていく。

一度入れば最後、どちらかが全滅するまでこの扉は決して開かないだろう。


もう緊張も迷いもない。皆がただ勝利を信じてここへ立つ。中へ入ると軍服を着た少女が二人。


奥にはナイトも見える。


軍服の少女達とナイトを一度に相手取るように見えたがナイトが下がり、玉座とも取れる椅子に腰掛ける。


「アンタは高みの見物か」


レルゲンがナイトを煽ると、ナイトがにやっと口角を上げて答える。


「その娘達は私の“最高傑作”です。私をここまで待たせたのですから、じっくり味わいたいではありませんか。


それと油断していると幾らシュット君でも、死にますよ?」


「俺の「挨拶」に耐えたんだ。そんなつもりはないさ」


帯同させる剣の中には、ドライドが丹精込めて鍛え上げた剣もある。


刀身は白銀で細く、細剣に近い形状を取る。鍔部分はアシュラ・ハガマの増幅鉱石があしらわれており、他にも王国から直接貸与された名剣とも呼べる切れ味を誇る鉄剣が五本。


黒龍の剣も入れれば計七本の剣を扱うこととなる。マリーとセレスティアの装備は変わらず、ハクロウのみ魔物討伐の時から日本刀のような形状の刀を二本、始めから抜刀している。


レルゲン達に対する軍服の二人組は、片方が短剣を両手に一本ずつ持ち、もう片方は片手直剣を持っている。


レルゲンの挨拶の時は両者共何も持っていなかったが、最初から武器を手にしている事から、挨拶時は始めから「どちらも本気ではなかった」のだ。


レルゲンの額から汗が流れ、地面へと落ちる。


「いくぞ!!」


両陣営共駆け出す。

前衛はマリーとハクロウ、レルゲンは遊撃として一歩下がり、セレスティアは小声で攻撃魔術の詠唱を始める。


最初は様子見とばかりにお互い魔術の追加攻撃はせずに前衛同士の鍔迫り合いが繰り広げられる。


レルゲンも鉄剣を一本ずつ相手の横腹に射出するが、あっさりと短剣使いは弾き、片手直剣の方は素手で弾く。


射出速度と剣の切れ味から考えても無傷で防げるとは考えづらい一撃だが、


ここでレルゲンが挨拶をした時に放った赤い光線を両者とも素手で受け止めていたことと重なる。


(やはり身体の構造的に何かあるな)


ちらっとナイトの方を見るが依然として動かず、表情も変えず、戦いを楽しむように観戦している。


レルゲン剣を弾いた直後に両者とも鍔迫り合いを止め、剣戟が室内に響く。


マリーとハクロウは共に近接型だが、戦い方が正反対に位置する。


ハクロウは剣の巧さ、マリーは自慢の膂力と合わせた連続攻撃を得意とし、徐々にアイとユゥを押していく。


ここで、アイとユゥが同時に後方へ飛びマリー達から距離を取る。マリーは既に連続剣の加護を発動し、効果がリセットされる前に、次の一撃を与えるべくアイの方へ肉薄する。


しかし、短剣を持ったままマリーに向けて魔術を唱える。


「ダウン・ザ・ピッチ」


唱えられた瞬間、マリーの加速がガクンと落ち、攻撃から次の攻撃に入るまでの間隔が空いたために連続剣の加護が解除される。


「なっ…」


連続剣の加護が序盤で解除され、マリーが止められる。急な減速に身体がまだ馴染まないところに、短剣を構え直し、マリーに突進するアイ。


そうはさせないとマリーとの間にレルゲンが鉄剣を割り込ませ、突進を止める。


(この短剣使いは闇魔術を使うのか)


レルゲンは一歩下がったところで戦況を見つつ戦えるために敵戦力の分析をする余裕が出来ている。


再び距離が空くが、マリーと闇魔術を操るアイとは相性が悪い。すかさずレルゲンがマリーとハクロウの位置を交代するべく指示を出す。


「「了解!」」


位置変えをさせまいとユゥがハクロウに肉薄して切り掛かるが、これをうまく躱して後ろに数歩小刻みに飛び、距離を取った瞬間レルゲンが念動魔術で鉄剣を飛ばす。


だがハクロウが距離を取った瞬間に、ユゥが片手をハクロウに向け唱える。


「マルチ・シャイン・ジャベリン」


(光の上位魔術を詠唱破棄か!)


一瞬ハクロウが面食らう。レルゲンが牽制のために入れた鉄剣をすり抜けるように軌道を変え、ハクロウへと一直線に向かう。


高速でハクロウへと向かう複数の光の矢は様々な角度から襲いかかってくるが、いとも簡単に切り落として見せた。


これにはナイトも少し驚いたのか、小さく


「ほぅ…」


と感嘆の声を漏らす。


「複雑な軌道で来るが、まだ速さがイマイチだな。これならボウズの剣の方が速ぇのよ」


マリーとハクロウが距離を取り終え、位置を変える。マリーは光の上位魔術を扱うユゥに、ハクロウは速度減速の闇魔術を扱うアイと対峙する。


セレスティアはというと詠唱を既に終え、発動のタイミングを見極めていた。


攻撃魔術の準備が終わったセレスティアは、レルゲンを呼ぶ。


「レルゲン!」


レルゲンがセレスティアを向き、お互いに頷く。


全魔力解放

ゴォオオと真紅の魔力が迸り、セレスティアと反対側に走りながら全魔力を解放する。


咄嗟にアイとユゥがレルゲンの方へ注意を向け、黒龍の剣を使った光線攻撃に備えようとするが、それを見たナイトが疑問に感じる。


(味方諸共、関係なく放つ気ですか?)


黒龍の剣に全魔力が込められ、刀身が赤く、そして伸びてゆく。


完全にアイとユゥがセレスティアに背中を向けたタイミングで、声高らかにセレスティアが唱える。


「テンペスト」


風の上位魔術が無防備なアイとユゥを襲う。無数の風の刃が上空から降り注ぎ、大きな土煙を上げながら着弾する。


上位魔術をモロに食らった二人はバランスを崩してよろけ、何とか体制を立て直そうとするが、この隙をレルゲンが突かない訳が無かった。


念動魔術を全身にかけて瞬間的に速度を上げ、射程の延長線上に誰もいないアイの方へ接近し、叫ぶ


「オオオオオオ!!!!!」


既に発射体制が整っていた黒龍の剣から真紅の光線が至近距離のアイ目掛けて放たれる。


満足な体制でレルゲンの挨拶を受けた時とは違い、胴体部分に光線が直撃した。


光線が消えて辺りがシンと静まり返る。攻撃が直撃したアイの横腹付近の軍服は切れ、深く腹が抉れているが、血が出ていない。


(おかしい…手応えはあったのに効いている実感が湧かない)


一旦敵の様子を伺うべく距離を取る。するとユゥがアイに向かって光の回復魔術を唱える。


「エクストラ・ヒール」


唱えられたアイの深く抉れた横腹が綺麗に修復されていく。それを見たレルゲンが一つ確信を得た。


(ハッタリの可能性もあるが、あそこまで傷を負うと治さなければ危険と判断しているな)


治療が終わり、再びアイとユゥが武器を構え直す。セレスティアが次の一撃を備えるべく、詠唱を開始。


それを見たアイとユゥがそれぞれ前衛のマリーとハクロウを無視し、セレスティアへ狙いを変更した。  


アイは自身の影に沈んでいき、ユゥは自身に光の速度バフのライト・スピードを無詠唱でかけセレスティアへ突っ込んでいく。

ここでレルゲンがマリーに向かって叫ぶ。


「マリー!君はセレスに走って向かう奴を止めてくれ!影移動の方は俺が何とかする!」


「分かったわ!」


マリーは既にセレスから速度バフをかけられている。それに加えて速足の加護でユゥに追いつくのは容易だった。


セレスとの間にマリーが入り、ユゥの動きを止める。


問題は影移動のアイだ、セレスティアに近づき過ぎればアイの影移動の補助になり、遠すぎればセレスティアを護れない。


念動魔術で瞬時に移動が間に合う距離まで近づいて止まる。セレスティアが自身の影がある方向に向きを変え、杖を構える。


出てくるなら間違いなくセレスティアの影を選ぶだろう。しかし出てきたのは短剣二本のみ、恐らく影の中から投げつけている。


(矢避けの念動魔術)


遠隔でセレスに念動魔術をかけて短剣が軌道を有らぬ方向へ変える。


しかし飛んでいったはずの短剣が空中で静止し、セレスティアの方へ向かっていく。


これを鉄剣でレルゲンが二本共弾き、セレスティアへの攻撃が一旦止まる。


(今のは間違いなく念動魔術だ。片方が念動魔術を使ったということは、もう片方も使えると睨んだ方がいいな)


よく見ると細い魔力糸が短剣に二本付いている。この魔力糸で空中から再度セレスティアへと向かっていったのだろう。


「レルゲン!」


マリーが呼ぶ声がする。振り返るとアイどころかユゥの姿もない。これはまさか…


(影移動は自分以外の対象にも作用するのか!)


気づいた時には自身の影は死角である後ろにある、振り返っていてからでは遅い。


鉄剣を背中に滑り込ませて影から出てきたユゥの一撃を辛くも防ぐ。


剣と剣の衝突音が室内に響き、防がれたユゥが後ろへバックステップしながら距離を取る。


二人は声で合図を出しているわけではない、目配せしながら戦っているわけではない。


もっと俯瞰してこの戦況を見ているような感覚。そんな芸当歴戦の猛者か、この戦いを見ている者しか出来ないはず。まさか…自動人形とは…


すぐにレルゲンがナイトを見る。ナイトと目線が合うと同時に、ナイトが拍手をレルゲンに送る。


「素晴らしい。たった数度のやり取りでそこまで看破されるとは。流石シュット君」


今のやり取りから自動人形の意味を完全に理解したレルゲンは魔力を黒龍の剣に込め、ナイトとアイ、ユゥ二人の間に斬撃を放つ。


高速で放たれた斬撃は外壁を僅かに削り取り、ナイトとの繋がりを断とうと目論んだが、これは失敗に終わる。


「残念、いい線いっていますが、それで私とその娘達との繋がりが切れたらそれは自動ではなく、手動です」

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