50話 招待
レルゲン達が召子を宥めてから次の日、最初に異変に気づいたのはフェンだった。
「ヴヴゥゥゥゥ……!」
「どうしたの? フェン君」
空に向かって唸り声を上げるフェンは、空の色が昼間にも関わらずグニャりと歪み始め、
紫色の線を一本描いた紙をぐしゃっと握りつぶしたような、絵の具を水に垂らしたような軌跡が空へと一瞬で変化する前に、獣の感とも呼べる鋭いアンテナで察知していた。
異常な魔力濃度が空を覆い、陽光の優しい色もまるで魔界に来た時のような赤紫色のように変色して見える。
レルゲン達が中庭に急遽集まり空を見上げる。
「なんだ、これは……? ディオス神!」
少し遅れてディオスが駆けつけ、額には汗が滲んでいる。
「世界の侵食……!!
でもどうしてここまで距離の離れている世界にまで……!」
空から降ってくるような魔力の密度は濃く、まるで空に海があるかのような錯覚に陥る。
言いようのない息苦しさが全員を包んでいた。
「世界の侵食だって?
じゃあこの空は召子の世界からの影響なのか!?」
「そうだ!そしてこれはもう!
世界同士がぶつかってしまう!」
「ぶつかったらどうなるんだ!」
「良くて片方の世界強度が高い方が生き残り、最悪両方とも滅びる!」
「なんですって!?」
悲鳴に近い声をマリーが上げたが、叫びとは裏腹に空からは魔力とダウンバーストに近い下降気流とも取れる風が、空から降り注いでくる。
あまりの風圧に全員が顔を覆い空を睨む。
その見つめた先には、見知った無精髭を蓄えた男が空に浮いていた。
「マークス……!」
「久しぶり、でもないかねぇ……?
こちらの世界の神までいるとは好都合だ」
「どういうつもりですか?
マークス」
「おやぁ? 統括殿と、これはこれは魔王メアリー。久しぶりだねぇ」
「誰の許可を得て私を見下ろしている?」
「僕はもう貴女の部下ではないんだ。
許可があるとすればそれは世界_世界そのものと言って良い」
「もういいよ。君は喋るな。グラビティ・カタストロフ」
マークスの前に放たれた小さな黒い球。
風も魔力も、光さえも飲み込んでいく。
マークスの身体が歪んで見えるが、光すら飲み込むブラックホールとなれば、
レルゲン達には効いているのかがイマイチ理解が出来なかった。
そんな中でも術をかけられた本人はいたって冷静に銃身へと弾丸を一発だけ込め、引き金をブラックホールに向けて轟音と共に放たれた。
弾丸ごと全て飲み込む筈のブラックホールは吸い込んだ瞬間、光どころか魔力や風さえも飲み込むのを止め、漆黒の球に一本の光のヒビが入る。
ピシ、ピシっと無数にヒビが広がっていき、遂にはバラバラに砕け落ち破片となって消えていく。
「破壊の心念だね?」
「ご明察、流石は魔王様だ。
最初からコレを使わされるとは思わなかったよ」
「盾すら使えない君がなぜ破壊の心念を使えるのか……?
それは契約で心念をブーストしているのか、世界自体に心念のイメージ力を肩代わりしてもらっているのかだ。違うかい?」
「素晴らしい推察だ。だが惜しいな
この契約は君達の理解の外にある。分からない事を恥じる必要はないさ」
「心念を使うなとのたまった男が最初から心念を行使するとは笑わせる。矛盾の塊ですね」
「これは手厳しいねぇ統括殿。
だけど、君達はまだ心念について分かっているのはほんの少しだ。
僕がここに来たのは……お、そろそろかな?
上を見てごらん」
メンバーが空の変化に気づき反射的に上を見上げる中、レルゲンだけはマークスから目を外さずに凝視している。
一瞬だけ不機嫌そうに顔を歪めた様にも見えたが、距離が離れているからか正確な表情までは読み取れない。
空は色を変え、見たことのない摩天楼の群れのような世界が崩壊していく様が見て取れる。
言われなくても分かる。あれば間違いなく
「私の、故郷……」
奥歯を強く噛み締め、握る聖剣の手に自然と力が込められる。
今にもマークスへ向かっていきそうだったが、大きく息を吐き出して憎しみでは無い純粋な使命感が身体を包み込む。
それを見たマークスは片眉を上げて不思議そうに声を漏らしたが、すぐに興味を失い上空へと手を伸ばした。
「さて、ではここからは相談だ。
今から世界と世界の境界線を無くして互いに衝突させる。
君達が取れる選択肢は二つ。
一つはこのまま黙って両方の世界が崩壊するのを待つか、もう一つは僕の招待に応じるかだ」
「貴方だって世界の崩壊に巻き込まれればタダでは済まないはず!
ここで共倒れを願ったら貴方も巻き添えですよ?」
セレスティアが冷静に話しの穴を突いたが、マークスは受け流した。
「もう忘れたのかい?
僕は世界を渡り歩ける。
自分の手でレルゲンを葬れないのは残念だが、それもまた君達の自由だ。
だが、ただ黙って犬死し終末を受け入れるお前達じゃないだろう!」
世界の境界線から魔物が止めどなく中央王国の上空に出現し
すぐに魔力感知で索敵すると、どんなに弱い魔物でも四段階目、中には六段階目の魔物と思われる反応もある。
何にせよ数が多い。ザックリ目視しただけでも千は下らないだろう。
飛来してくるのはどれも空中機動の可能な見たことのない魔物が大半。
全員が構えを取り直し、襲いかかってくる魔物を向かい撃つべく準備をするが、全員を制してレルゲンが一本前に出る。
背後には黒龍の剣を含めた浮遊剣が四本。
全て念動魔樹で高速回転を始めていた。




