47話 平和な模擬戦
マークスの介入後、中央王国とカリストルは講和条約を経て恒久的な終戦状態となった。
セレスティアとマリーはカリストルという脅威が無くなってから、魔力を持たない一般市民が使える転移魔法陣の普及に向けて準備を進めている。
依然としてマークスの脅威はある。
だが、いつまでも緊張状態を維持していてはいざ戦う時にスイッチの切り替えが出来なくなる。
今は脅威があると認識しつつ、こうして湖で静かに釣りをするのも悪くないだろう。
今回はミカエラだけじゃなく、敵だったカリストルの将軍も横であくびをしながら平和を謳歌していた。
鮮やかに陽光を反射する澄んだ湖に、浮かぶ木製の船に三人が揺られている。
「お前は奥さん達の手伝いしなくていいのか?」
「俺が内政や外交ができるタイプだと思うか?」
「出来なくはないんじゃねぇか?
お前の戦い方は理知的というか、戦いながらかなり色んな事考えてるだろ。
俺とは反対の戦い方だ」
「そんなものか? とにかく俺はセレスとマリーに余計な口出しはしない。
俺以上に能力を持っているからな。
勿論意見を求められるなら口を出すことはあるけどな。もう俺が色々先頭に立たなくても二人なら大丈夫だ」
「急に自慢話が始まったな」
「うるさい。お前が話を振ったんだろ」
ミカエラが頭をレルゲンの肩に預けてくる。
「釣れませんね」
レルゲンとレイノールは大きな欠伸をしながら、微動だにしない釣り糸の先を覗いていた。
レルゲン達が釣りをしている頃、セレスティアとマリーはカリストルと戦う前に決着がついた為に失わなかった人的資源を、フルに活かそうと考えを共有していた。
「せっかくカリストルの人員を動かせるようになったのだから、もっと物事を広げて考えるべきよ」
「私もその考え方は尊重しますが、すぐにカリストルの人員を動かすのは危険だと考えています。
レルゲンとお父様が奪った一万人の命に関わる人々や、カリストル王が戦いを煽った国民達は、中央王国という彼等から見たら小国に負けた事実を納得できない」
「それはそうだけど……手っ取り早く力を認めさせるには何か方法がないのかしら?」
二人の話し合いには他の参加者もいる。
中央王国からはカノンとディシア。
カリストルからはアンツヴェルトが席を囲んでいた。
前にレルゲンが披露した山斬りを見せればどうだろうかとディシアが提案するが、地形を変えるくらいならレイノールでも可能だとアンツヴェルトが突っぱねる。
パッと見で力を誇示するのはやはり軍事力が手っ取り早い。
しかし、レルゲンに可能でレイノールには不可能な所で見せる必要がある。
カリストルの国民はなぜ負けたのかを明確に示されるのを待っているのだ。
「となると、やはり転移関係かねぇ」
カノンが机に突っ伏しながら話すと、アンツヴェルトが詳しく聞きたいと目線を寄越した。
「まだ技術的に実用段階には来ていないが、いずれ国民一人一人が転移で移動する時代がやってくる。
その前段階としてレルゲンの魔力糸で作った転移魔法陣で資材を運び、戦いを有利に進めた!
とかはどうかねぇ?」
「それは前にも一度聞いたが、本当に実用段階まで進められるのかね?
にわかには信じ難いが。
それと、国民は中央王国が転移を自由にできたとしても戦いに精通していない身となれば、
あまりイメージが出来ないだろう」
「そっかぁ、残念」
カノンは少し気怠そうに、あまり興味が無さそうにアンツヴェルトの言葉を聞き流したが、マリーはそうではなかった。
「さっきから無理だ、出来ないばかりだけど、
カリストル国の天才軍師様には何か考えがあるのかしら?」
「あるとも。カリストルは他の国と比べても大国だ。それだけに情報伝達にかなり時間がかかる。だからこそ情報技術が発展して生活を支えている。
一般兵士には持たせられない高価な代物だが、
カリストルには何地点も魔術を介した通信端末が普及しているのさ。
それを利用しない手は無いだろうね。
今度私から知り合いの記者に掛け合ってみようか」
「ありがとうございます。アンツヴェルト様」
「様は余計ですよセレスティア殿下。
私達は負けた身分ですので、謙る必要はありません。それでその記者に対して何を見せるかだが、一番確実な方法が一つある」
マリーが不機嫌そうに尋ねる。
「何よ?」
「我がカリストルのトップであるレイノールと、それを打ち倒す中央王国のレルゲンという図を見せればいい」
「む、確かに山斬りや転移よりかはより直接的で分かりやすいか……」
「実際に記者がこの目で見れば一発で国民には伝わる。レイノールはあれでも国内では結構人気者でね。
一度負けたと報じられても信じる者の方が少ないのさ」
それから時は少し経ち、レルゲンとレイノールが武装を全て身につけて中央王国にある闘技場に集められる。
集まったカリストルの記者は五十人を超え、みな魔水晶を触媒にした映写機や写真機を持ち寄っていた。
「悪いな、レルゲン。俺達の国民を納得させる為にここまでお膳立てしてもらってよ」
「それはお互い様だろ。
お前との勝負は奴のせいで一度は中止になったんだ。いい機会だ、ここで白黒つけよう」
「やる気になってくれて助かる。
俺も久しぶりの運動だ。お手柔らかに頼みたいね!」
「それは出来ない相談だな!」
二人の魔力と心念、そしてプライドが激しく衝突する。
用いられた剣も全て魔剣。
ヒビの入った白銀の剣もドライドが鍛え直した技量に感謝しつつ今はまた浮遊剣として背後に浮いている状態だ。
レイノールは回収された転生武器を再び与えられ、万全の状態でレルゲンと対峙していた。
記者達は二人の戦いを思い想いに収め、途中からヒートアップしてきた二人の動きに、
ついていけなくなった辺りで機材を押す手が止まっていた。
その中でも一人だけペンをひたすらに走らせていた人物がいた。石城の発案者であるニューロだ。
後に新聞として大きく取り上げられた二人の戦いを報じる記事には、ニューロのメモ書きが纏められた内容がひっそりと掲載されていたのは、レルゲン達が知ることはついぞなかった。




