46話 異世界行き、手配しましょうか?
「胸を貫かれた君としては、マークスはどう映ったんだい?
私は直接の関わりがないので今ここで中央王国の面々を含めて説明してくれたまえよ」
「奴は、マークスは弾丸に追われていた。
今思えば演技だったんだろうが、俺がカリストルの近くの森で鍛錬をしていた時、滝のように汗を流して助けを求めた。
普段はフラガラルクは持ってきていなかったんだが、その時は偶々持参していたのもあってつい助けちまった。それからはカリストルが中央王国に攻め入ろうとしていることをどこで嗅ぎつけたのか、
自分の素性を明かしてレルゲン達の特徴や戦い方、武装の種類に至るまで色々と教えてくれたよ。
俺がその情報を持ち込んでから国は本格的に中央王国の包囲網を作ろうと動き始めた。
一連の動きを全く関係のないマークスが影ながら動かしているような不気味さがあったが、その時は気づかなかった」
話終わると少しの後悔が伺える顔付きになりながらも、レイノールは真っ直ぐにレルゲンを見つめて礼を言う。
「助かった。あのままお前に治されていなければ、フルポーションを飲んでも俺は死んでいた」
「気にするな。その分お前には働いてもらうつもりだからな」
「ああ、借りは返す。お前にも奴にも」
ダクストベリクは話を聞いた後に、直接の接点があったクラリスを呼んで話しを続けた。
「魔界で遭遇した狙撃手について、なぜ生きていたかはクラリスさんの報告を聞いて承知しておりますが、これは今後もカリストルに協力して頂く為にも説明した方が良いでしょう。
お願い出来ますか?」
「承知しました」
石城をカツカツと軽快な音を鳴らしながら、会議の場には不釣り合いなメイド衣装で参加するクラリスが返事を寄越す。
「マークスは魔王軍直属の幹部の一人。
実力的には下に位置する男でしたが、継戦能力は高く単独行動もできる。
射撃と隠密の腕だけは一流と言っていいでしょう。
しかしながら放った呪いの弾丸は、心念と念動魔術の合わせ技でマークスを永遠に追尾する弾へと変えられました。
その時点でマークスの命運は決まったものだと私自身思いましたが、
彼曰く、世界との契約を経て呪いの弾丸を跳ね除け、世界の歯車の一部となり奴隷化することで延命を遂げたようです」
考えるように顎に手を置いてアンツヴェルトが机の端を見つめながら口を開く。
「世界との契約とは、即ち今その世界にとって不都合な事象が発生している自浄作用で自然に起こっているのか。
または世界という大きな大義名分の下、自分にとって不都合な事象が発生している為に、現状を変えようとしている者がいるかの二択だね」
「どちらも可能性はあるでしょう。
この世界ではなく、ここではない異界。
異世界と契約を結んでいる可能性も捨てきれません。
いずれにせよ、ここにいる国同士でいざこざを起こしている余裕はないというのは皆さん理解できる筈です」
このクラリスの言葉に少しムッとした表情をメフィストは浮かべたが、何も口を挟まずに飲み込む。
一方で話しを聞きながら、レルゲンは直接その場にいなかったアンツヴェルトの異様な飲み込みの早さに驚いたが、そのまま話しの腰を折らずに続ける。
「問題はその世界ついて干渉できる手立てがないことだな」
全員が若干俯き加減になりながらも考えを巡らせるが、敵側の狙いが推測できたとしても手を出せない現状は変わらない。
だが、この押しても引いても進展の無い筈の話題に口を挟んだのは、意外な人物だった。
「お困りのようですね。
異世界旅行、手配しましょうか?」
「唯一神ディオス。なぜここに?」
特に信心深いダクストベリクは、初めて会った神に椅子から立ち上がりすぐに頭を下げようとしたが、セレスティアがそれを止める。
「セレスティア? なぜ止めるのですか?」
「お母様、このお方は確かに唯一神ディオスで間違いありませんが、頭を下げる程のお方でもございません」
「なんと畏れ多いことを……!
申し訳ございませんディオス様。
娘の無礼は私の命でお赦しを頂きたく……」
悲壮感漂うダクストベリクとは対照的に落ち着いている周りを見て、違和感を感じながらも謝罪を続ける。
ダクストベリクの気持ちはディオス自身余り心地良いものではなかったようで、すぐに窓枠に座っていた所から飛び降りて中へ入り、ダクストベリクの肩に手を置いた。
「良いのです。それだけ私の愚かさがそこにいるレルゲン君やセレスティア君らに負担を強いている。
私の評価が著しく低いのは仕方がありません」
「ディオス神、貴方からは転生武器の回収を依頼されている筈だ。それはもういいのか?」
冷静に話しを進めようとするレルゲンに、ディオスは頷きながら、転生武器の脅威が一番高いのはカリストルだったと説明し、
当面の間は転生武器が世界を揺るがすまでに悪用されるまでは猶予があると伝えられる。
相変わらず説明不足だった事実にセレスティアは若干の苛つきを見せたが、マリーに諌められて額に手をかざし、「続けて下さい」とジェスチャーを取る。
「ともあれ、君達が世界を渡って他の世界まで救いたいというなら私は協力しよう」
「世界との契約について、マークスは心念の使い手を減らすのが目的の一部だと言っていた。
では真の目的は一体なんなのか、ディオス神は知らないのか?」
「残念ながら。
ただ推測することはできる。
私も君達のやり取りは見ていたが、マークスという男は魔力や心念が行使出来なくなる一歩手前にある異世界と契約し、
自らの世界に再び豊かな土壌を用意しようとしているんじゃないだろうか。
世界のバランスを保つなんてご立派なことを言っていたようだが、その実蓋を開けてみたら蛆虫が湧いていた。なんていうのはよくある話しだろう?」
「なぜその世界に魔力や心念が消えようとしているのか、見当はつかないか?」
「難しい質問だね。
君達にとって魔力はごく当たり前の中で過ごしてきたからピンと来ないだろうが、全く魔力を持たない召子君に聞いてみたら分かるんじゃないかな。
魔力と心念が失われた世界にはある共通点がある。
それは技術革新による経済の活性化だ。
これは卵が先か、親鳥が先かの話になるが、代わりになるものを人々は考え、想像する力で豊かな時代を切り開いている。
つまり、魔力を人々が必要としなくなった時から徐々にその力が弱まっていき、認知されなくなっていくことで、完全に消滅へと近づいていっているとも考えられないだろうか?」
ディオス神が言っていることは納得できる。出来てしまうからこそある種の疑いをレルゲン達が持ってしまうのも無理はない。
「本当にそれだけか? ディオス神」
「ああ、私から言えるのはそれだけだよ」
「そうか、分かった」
いよいよここではない何処か違う世界に渡る話しになった。
レルゲン達だけじゃなく召子やハクロウ。
騎士団の面々や王国民に至るまで、十分に話し合いをしてからの結論になる。
すぐに足を運んで解決するとは行かない。
マークスが契約している世界はもっと複雑に絡み合っている気がした。
「まだ結論が出ないのも仕方ありません。
かと言って現状もそう長くも保たないでしょう。マークスがまた介入してくるのも時間の問題。
また必要になったら呼んでもらえればいいのですが、すぐに呼びかけに応じられるかどうか……
もしお邪魔で無ければ中央王国に腰を落ち着けたいのですが、いかがですか?」
願ってもない提案をディオスがすると、ダクストベリクはすぐに承諾して一度講和会議はお開きに。
また異世界については日を改めて協議される手筈となった。




