45話 講和会議
次の日の朝、まだレイノールは意識を失ったまま。
クラリスに力加減を尋ねるが、返答は何度聞いても
「軽くですよ、軽く。
あの程度でここまで気を失っているのはこの男の実力不足です」
視線をレルゲンから逸らすこのメイドは、間違いなく強めにやったのだろうと態度からも分かる。
意識が戻らない敵将が示すのは一つ。
カリストル側から見れば討ち取られたと思うのが道理。
転生武器は二つとも回収が終わり、レイノールは文字通り武装を全て強制解除。
レイノールの強さの源は転生武器に使われないだけの身体能力の高さと、心念の一端を掴み始めた戦闘センス。
恐らく転生武器を取り上げられても魔剣一つ与えるだけでも脅威となり得るだろう。
このまま本人の意思とは関係なくカリストルとの争いが終結するまでは拘束する必要がある。
手首には既に魔力封じの鎖が繋がれているが、その気になれば心念を行使して鎖を断ち切るかもしれない。
故にレルゲンが常にフル装備の状態でレイノールの側を離れることが出来ずにいた。
「どうするつもりなんだ? 次期女王の二人としては」
「「戦争が終わるまで拘束!」」
「だよな。このままコイツが起きてから暴れないといいんだが……」
それから丸一日はレイノールが意識を取り戻すことはなく、戦力の大部分を失う前にカリストル側から講和会議を持ちかけられる。
勿論中央王国がやりたいのは敵の大虐殺ではなく軍事侵攻を恒久的に取りやめさせる事にあるが、それもまた条件次第というのが正直なところ。
講和会議が行われるのは両陣営の丁度中間地点にある、レルゲンが一日で建設した石城で行われた。
既に補修工事もレルゲンが行い、強度的な問題もない。
レイノールが意識を取り戻してから建設を再開したが、思いの外、敵将は素直に魔力封じの鎖に繋がれたままで抵抗する素振りは見せなかった。
「よう。お前も来たのか、アンツヴェルト」
「おや、まだ生きていたか。
それは何よりだよレイノール。寛大な中央王国様に感謝するんだな」
「へいへい。メフィスト殿には申し訳ないことを。
力及ばす無様な姿をお見せすることになった」
「よい。其方が討ち取られたという事は、それ即ち数の利を活かせるだけの相手では無い証明よ。
それが早くに分かっただけでも僥倖よ。
大義であった、レイノール」
ギュッと握られたその拳は己の無力感を嘆いているのか、それとも討ち取られたカリストル王との約束を果たせなかった嘆きなのかは分からない。
レイノールの複雑な顔をチラッと見たレルゲンは、感情を読み取られないようにカリストルの軍師と呼ばれる年端もいかない幼女に目線を動かしたが、
終始レルゲンを見ているアンツヴェルトと目が合い、年齢からは想像も付かない程に目の奥を見られるような気色の悪い感覚に包まれてすぐに目を逸らした。
だが、すぐに鮮やかな翡翠色のショートカットに整えられた幼女から声をかけられる。
「君が中央王国の騎士団に所属している、元旧王朝の長男であるレルゲン・シュトーゲン副団長かな?」
レルゲンの返答を待つ天才軍師は、声からも何か情報を吸い取ろうとさえしていると感じる熱視線を注いでいた。
「そうだ。そちらがレイノールに色々と吹き込んだ軍師か」
「そうだとも!
しかしこんな若いのに副団長まで成り上がるとは。
ましてや君は中央王国に言わば革命を受けた身だ。
憎しみの感情は持ち合わせていないのかい?」
挑発とも受け取られかねない言動にマリーは黙って聞いていたが、この一言で完全にカチンときたのか口を挟まずにはいられなかった。
「黙りなさい。
ここには宣戦布告に来たわけじゃないんでしょう?
どちらが主導権を握っているのか弁えるべきだわ」
「おっとこれは失礼。
もう一人の女王マリー・トレスティア殿下。
やはり生きていたか」
「おあいにく様。元気いっぱいよ」
ゴホンと大きめの咳払いをしたセレスティアにマリーはすぐに自分を諌めて口を閉ざしたが、アンツヴェルトは更にマリーを煽り立てる。
「これはセレスティア・ウノリティア女王陛下、お初にお目にかかる。
いや、今はまだ王女殿下と言った方が正しいかな?
何はともあれ次期女王陛下をお目にかかれるとは光栄だ」
アンツヴェルトは目線だけをマリーに送ったが、そこで完全に子供の児戯だと見切りをつけて波風を立てずに受け流す。
少し退屈そうな顔をしたが、流石は天才軍師と言われるだけあり、興味を失ったかのように視線を現女王のダクストベリクに戻した。
「さて、本日お集まり頂いたのは他でもありません。我が中央王国とカリストル国との講和会議になります。
中央王国からは私、ダクストベリクと次期女王の二人であるセレスティアとマリー。
そして騎士団代表として副団長のレルゲンを同席させております。
カリストル国からはメフィスト殿、軍師のアンツヴェルト殿。そして魔力封じの手枷を嵌めさせて頂いておりますがレイノール殿の三名。
カリストル国の要人は本日いらしていないようですが、メフィスト殿が国の全権代理という認識でよろしいでしょうか?」
「構いません」
「分かりました。
それでは始めましょう。両国の為の会議を」
それから相互に和平条約を結ぶことで概ね合意が成されたが、内容は終始中央王国に有利な内容で取り決めが進められた。
中でもカリストル国の要人の集まりである集団はヨルダルクと同様に全て解体。
新たな要人、つまり国の未来を決める機関を新たに設置し、およそ七割は中央王国の息のかかった人員を起用することで合意する。
そして二国間の話が終わってから話は世界と契約をしたマークスについての話し合いが始まろうとしていた。




