42話 意識の集合
(明らかにさっきと違う気配、レルゲン……!
私が到着するまでどうか無事で!)
レイノールが纏う気配に明確な違いを感じ取り、クラリスは飛ぶ速度を一層上げた。
レルゲンの下に駆けつけるまで、約五秒。
その五秒の間が恐ろしく長く感じる。
拭いきれない悪寒が汗と共に流れ落ちることはなく、焦燥感のみが全身を冷たく凍えさせた。
「ウルカ、いけるか?」
「いつでも行けるよ」
「心念だけではもう奴は抑えられない。
魔力を全解放して感知範囲を広げる」
「分かった!」
「「第二段階、全魔力解放!」」
「ようやく本気になったか。
だが、お前が力を出す度に俺はまた強くなれる。いくらでも付き合うぞ」
(クラリスがここまで飛んでくるまで後少し、それまで持ち堪えれば)
いや、違う。そうじゃない。
ここで単独でレイノールを打倒出来なければ、きっとこの先は成長速度で負けてしまう。
仲間を頼ることが悪い選択ではない。
だが、頼りすぎてバランスを崩し、結局護りたい者を護れないようになるのだけは一番回避しなくてはならない。
この時、この瞬間だけは、
ミカエラや召子、クラリスに頼らずとも切り抜けなくてはならない……!
決心したレルゲンの纏う雰囲気もまた変化する。
「ミカエラ、召子は手を出さないでくれ。
クラリスがここに来ても同じだ。
加勢しないように説明して欲しい」
「ですが気力が多少戻ったとしても、心念はまだ十分に使える程回復していないでしょう?」
悲痛な声色でミカエラが止めに入ったが、召子は冷静だった。
「ミカエラさん、多分大丈夫ですよ。
今のレルゲンさんはあの時とどこか似ている。
アメリアと戦った時、最後に見せた雰囲気に」
「ですが……!」
「ミカエラ、大丈夫だ」
「……分かりました。危ないと感じたら助けに入りますから」
「あぁ、助かる。さあ、続きといこう」
「魔力だけじゃ無い。存在感っていうのか?
最初に会った時と同じくらいまで戻したな。
いいじゃねぇか」
ここでクラリスがようやく到着する。
宙に浮いてレイノールと同じ場所まで飛んでいくレルゲンを見て、加勢しない二人を見てすぐに呆れた顔付きになりながらも、クラリスは静かに一人の男を見送った。
「本当に加勢はいいのか? レルゲン」
「お前と一対一で踊ってやるよ」
「男の誘いには乗らない主義だが気に入った。
存分にやり合おうぜ」
二人が愛剣を持ち、片や黄金のフラガラルク。片や漆黒の黒龍の剣で距離が縮まっていく。
戦いは始めからレルゲンが連続攻撃を仕掛けていく。
敢えて浮遊剣を使わずに両手でしっかりと握られた黒龍の剣のみの斬り込み。
ただ一本の剣だけに意識を集中し、足りない心念を一本の剣に凝縮して攻撃を繰り出した。
フラガラルクは半自動的にレルゲンの攻撃を捌いていくが、黒龍の剣の途轍もない重量がドンドンと加速度的に上がって来ると共に、振り抜いた剣の重さもまた上がる。
相殺出来ていた攻撃がレルゲンの速度と重さに対応が出来なくなっていくレイノールは、自分よりも体格に恵まれていないレルゲンの力強さに疑問を感じていた。
(フラガラルクのお陰で今はついていけているが、純粋な剣の重さは俺よりも上。
なのに速度と重さは上がる一方。なぜだ?)
手数が減った。意識を割く対象が減った分だけ上乗せされていく集中力。
(レルゲンの気持ちが剣に乗っているのが分かる。普段分散している意識が一つに戻っただけで、ここまで変わるのか……!)
「いいヒントをもらったよ。レイノール」
「なんだと?」
「俺は無意識の内に色々な所に気持ちを分けていた。
だが、お前を見て学ばせてもらったよ。
分散させていた意識を一つに。
この剣に集中するだけでこんなにも変わるとはな」
「はっ!まだ強くなるか!
いいぜ、とことん付き合ってやる」
二人の正面衝突は永遠とも思えるほどに続くと思われたが、そのやり取りは意外にも終わりがすぐに訪れた。
ドスン
レイノールの胸元に背後から突き刺すように一本の剣が貫通し、肺を貫いた事により口から止めどなく血が滴りながら溢れ出る。
二人とも気配も、魔力も感知する事なく刺し込まれた剣の主は黒いローブに身を包み、口には無精髭を蓄えた見知った男の陰が覗いていた。
「久しぶりじゃねぇか、二人とも」




