41話 敵将軍の成長
「最後だ! レルゲン!」
すかさずレルゲンの前に聖槍ロンギヌスを構えたミカエラと、聖剣を手にした召子がカバーに入り飛び掛かるが、
既に落下の勢いがついたレイノールの速度を軽減するのみで全て弾かれ、尚もレルゲンへと迫った。
「来るか! レイノール!」
「ここで楽になりな! いい加減疲れただろう!」
黒龍の剣がレルゲンの魔力に呼応するように白い光を放ち始め、レイノールを迎え撃つ体制が整う。
有り余っているその魔力で下半身を支えるべく、足にも魔力を集中してこちらも純粋な魔力が見せる光を放つ。
体重と落下のエネルギーを全て乗せた重撃を叩きつける様にレルゲンを押し潰そうとする。
「ぐっ……!」
敷いたばかりの床石が柔らかい砂を抉るようにレルゲンの足を沈め込んだ。
「オオオオオ!!!」
裂帛の気合いと共に念動魔術で黒龍の剣に固めて込めた魔力を一気に解放しながら振り抜く。
上空に戻されたレイノールは、瞬間移動はせずにレルゲンが空中に飛んでくるのを待つ。
「いくぜ、レルゲン。テンペスト・エンチャント」
(転生武器に風の上位魔術を付与した……!)
反射的にレルゲンが最も得意としている火の魔術を炎剣・朱雀に込める。
「ブルーフレイム・エンチャント」
フラガラルクに風が纏われ、より一層一撃の鋭さと殺傷力が強化される。
間違って一撃だけでも入れられば即死に繋がる。
対してレルゲンの青い炎は本来再生を阻害するために用いられることが今まで多かったが、今回は痛覚を遮断出来ない人間相手。
斬撃による傷だけではなく、斬ると同時に傷口を焼く。本来であれば想像を絶する痛みを与える攻撃となる。
「その剣、ただの魔物の剣じゃねぇな。素材はなんだ?」
「聞いてどうする?」
「いや、ただの純粋な興味さ。
叩き折る前に知っておきたかっただけだ」
「この炎剣はお前の予想通りただの魔物じゃない。
試してみれば分かるさ」
「そうさせてもらおう」
二人の距離が空中で一気に詰まり、お互いの剣がぶつかり合う。
ギリ、ギリ……と不協音が響くと共に、衝撃波が周囲に撒き散らされ、威力の高さが伺い知れる。
火花を数秒散らし炎剣に込められた爆炎がフラガラルクの刀身の色が白くなる程変えていく。
フラガラルクの変化に気づいたレイノールはそれを嫌い、鍔迫り合いを途中で中断させて瞬間移動で距離を取った。
「なるほどな…その剣。とんでもない温度だ。
熱くねぇのか?」
「さてな。そっちこそテンペストを纏うなんて、さぞ扱いに慣れているんだろう。
なんで今まで使わなかった?」
「最初にお前と戦った時にこの技術は通じないと思っただけさ。
だが今、疲弊しているお前を感じ取って考えが変わった。
魔力が戻っても気力が戻っていなきゃ意味が無いとすぐに教えてやろう」
(この男、心念については知らないようだが、薄らと理解し始めている)
続々と魔力がレルゲンの下へ集まってくる。
時間はかけていられないと感じ、テンペストを纏ったまま勝負をかけに来る。
月夜の灯りに照らされて、身体を捻るように構える。連続瞬間移動の時と同様の構えは、予想通りレイノールの姿を一瞬にして消した。
レルゲンは石城を建設している最中、下でクラリスとレイノールが戦っていた時に魔力感知だけで観察していた。
レルゲンの心念の盾はまだ未完成もいい所。
だからこそ使用回数を増やして実戦で慣れて行かねばならない。
クラリスがやってのけたであろう心念の盾の全方位防御は今のレルゲンには出来ない。
レイノールが何かを掴もうとしている中で、未完成だとしても心念の盾を何度も見せるのはある意味、
リスクとなり得るが使わなければ確実に命を取られる。
そんな予知にも近い予感が思考を駆け巡る。
静かにその名を呼ぶ。
「我を護れ、盾よ……!」
連続して分身していると見紛う連続瞬間移動から繰り出された攻撃は、フラガラルクの一撃を止めた。
ピシッ、ピシッと受け止めた後にヒビが進んでいき、半透明のオレンジの盾はバラバラと崩れた。
落ちた破片は空へ溶けるように消え、またも何に止められたか分からないレイノールは大きく狼狽した。
「下のクラリスってメイドも似たような方法で防御していたが、一体それは何なんだ?
武器や防具でもない防御法。
そしてその掛け声は間違いなく俺の知らない何かだ。だが一つ分かったことがある。
レルゲン、その砕けた盾はまだお前がメイドよりもまだ使いこなせていない証拠だ」
「敵に教えることは何もない」
(俺が知らない技術をさも当然のように使ってくる。つまり、まだ上がある)
不敵に笑うレイノールを見て、レルゲンは気味の悪さを感じる。
(もっと剣気を研ぎ澄ませ。
剣に、この武器に思念を乗せろ。
相手を一撃で刈り取るだけのイメージを……!)
テンペストではなく思念による圧が放たれる。
明確な世界への上書きの足掛かり。
世界への干渉にレイノールは成長を感じ取り、拳を握っては開いてを繰り返す。
「はっ! これが何なのか知らねぇが、お前らが使っている技の一部だろうな。
感謝するぜ。俺はまだ強くなれる!」
一度は撤退を本気で考えたカリストルの大将は、圧倒的な戦闘センスで状況をひっくり返すだけの成長を見せた。




