第三章 6話 決戦前
五段階目の討伐で自信をつけたマリー達は少しの休憩の後、五段階目一体、六段階目も一体討伐して帰還して来たのだった。
六段階目は魔力量と大きさ、一撃の破壊力は大きいがセレスティアは標的にならない程前衛二人の働き凄まじく
アシュラ・ハガマに似た形状の魔物を討ち取ったのだった。
王国に帰還してからというもの、レルゲンにこの事を報告に行った三人は気力、魔力が尽きかける限界近くまで消耗はしていたが
それでもやり遂げたのを見て、レルゲンはただ一言「お疲れ様」と労った。
それから発注した武器が完成するまでは、レルゲンは三人の連携を崩さないように立ち回り
援護に徹することが多く、念動魔術による牽制くらいしか必要としない力量まで実力が底上げされていた。
この成長ぶりにはマリー達自身も驚いており、レルゲンも背中を預けられると安心していた。
武器が出来たとドライドから連絡が入り、早速届いた剣を試し斬りするべく、鍛冶屋の裏に周る。
「この前の黒龍の剣とは違って、どっちかっていうとマリー嬢ちゃんの魔剣に近いな。
要望通り作りはしたが、どんな目的があってそんな仕様にしたんだ?」
掻い摘んでドライドに話す。
「それをしたところでなぜそうなるんだ?」
と返って来たので、説明が難しいと言って逃げる。試し斬りだけして切れ味を確かめ、要望通りの品質を確認してドライドに感謝を伝えた後に持ち帰るのだった。
実は新しい武器はレルゲンが幼少期に体験したある出来事が元になっている。
まだ魔法すら使ったことのない年齢のレルゲンが、火炎魔法を発現させたと大騒ぎになった事があった。
結果的には魔法の痕跡は無く、原因が分からないまま終わったが、それを見た両親がナイトを家庭教師としてつけて魔術を教えることとなるのだが、
レルゲンは今でも鮮明に覚えている。
“この世は魔で満ちている”
魔術適正が無くても、魔法くらいなら誰でも出来るのだという確信がレルゲンを形作った。
その手段を魔術で応用することによって、真の魔術として昇華させる。まさに十八番ともいえるレルゲン独自の技の基礎だ。
準備は整った。敵の本陣とも言える座標に徒歩で向かう。
相変わらず魔力揮発剤が常時巻かれており、魔物が寄り付かない道がこの深い森の中に出来ている。
森を抜け、木々が不自然に生えていない場所に出ると陽の光が入り込み、暖かな日差しが差し込んでくる。
芝の上に立つ四角柱のような、深域には不釣り合いな建物が見えてくる。
今までの魔物とは違う、六段階目と比較しても濃くて重い魔力が身を包んでいく。
場の空気に呑まれないようにレルゲンが皆に伝える。
「間違いなく成長しているのは皆実感していると思う。
俺もそうだ。これから最後の戦いになるが緊張する必要はないよ。
ハクロウは大丈夫そうだけどな。特にマリーはちょっと緊張し過ぎ」
「うるさいわね、そのくらい自覚しているわ」
この両手に大切な人々の未来がかかっている、緊張しない方が本来おかしいのだ。
まだマリーの手が小刻みに震えている。レルゲンが震えているマリーの手を力強く握り
「君なら大丈夫だ。近接戦闘ならもう俺を超えている。
自信を持てと言うのは簡単だけど、出来るはずだ。もう一度言うぞ?君なら、大丈夫」
マリーの目を見て噛み締めるように伝えると、不思議とマリーの震えがピタっと止まる。
「レルゲン、私なら大丈夫です。緊張はしていますが、マリー程ではありません」
「そうだな。でもこういうのはちゃんと伝えるのが大事なんだ、俺はそれを君達から学んだ。
セレス、君ならきっと俺たちを支えられる。セレスに俺たちの背中、預けるよ」
「ええ、任せてください。皆のことは私が護ります」
セレスの目を真っ直ぐみてから軽く抱擁を交わす。
「では皆にバフをかけます」
セレスティアがバフの詠唱をしている時に、ハクロウが茶化すように
「俺にも手を握って、抱きしめてくれるかい?」
というので
「やなこった」
と一言だけ笑いながらレルゲンが返す。ふぅと息を吐き、表情が引き締まる。
「皆が無事に王国へ帰ることをここに誓う!絶対に勝とう!」
「「「おお!!!」」」