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第三章 4話 水神伝説

地下の水道網が転移前の場所に置き去りになっていることから、外の店は軒並み臨時閉店。


街の人々にとってはまさに死活問題だろう。


明日から単独任務を与えられてはいるが、早くに国民に新鮮な水を届けなければ、衰弱していってしまう。


こうして何か手掛かりがないか魔術研究所によった訳だが、カノンにも久しぶりにあった気がする。


「やぁ助手君!今回の任務もよくやったねぇ偉いぞぉ!」


ゴシゴシとレルゲンの頭を撫でてくるカノン。初対面こそよそよそしかったが、いざ仲良くなってくると歳はあまり変わらないがセレスティアとはまた違った安心感がある。


「カノン様、やめて下さい」


「おや、失礼。それで?任務から帰ってきたばかりの助手君は私に何をお望みだい?」


「ここは深域のど真ん中です。水源を探しているのですが、何か手掛かりがあればと思いまして」


「そうだねぇ、研究者としては水源の濾過をどうするかが気になるね。


水源は空を飛べる君なら問題ないだろう。

その次を考えるとなると、安定した水源確保の為の工事とその濾過方法なら幾つか心当たりがあるよ」


「さすがカノン様。俺は水源とその道を作ればいいわけだ」


「その通りだね。もう一つ方法が無いこともないが、こっちは不確定要素が多いから水源を見つけてからでいいだろう。一応聞いておくかい?」


「お願いします」


「わかった。まず水神伝説って聞いたことあるかい?」


「いえ、聞いたことありません」


「簡単に言うと、深域近くに建国した領主が、深域を縄張りにしていた水龍の怒りを招いて折角作った国が洪水に晒されるって話だよ。


水龍以外にも神域には縄張りにしている龍種が実際にいる。いないことも珍しくないけどね。

ほら、今の私たちと状況が似ているだろう?」


「なるほど、心に留めておきます。流石所長」


「そうだろう?へへん、私はなんてったって第二王女だからね!凄いのサ」


鼻を上に向けてまるでどこかの童話に出てくるような反り方をする。


「大変参考になりました。ありがとうございました」


「また私の知恵が必要になったらいつでも頼ってくれたまえ、私は大体起きているからね」


「そこはしっかり寝て下さい。では、失礼します」


「明日からの任務、頑張れよぅ」


一礼して研究所を後にする。深域だからか地脈からの魔力供給が王都と比べても比較にならない程効率がいいのは嬉しい誤算だった。


しかし、それだけ魔力に満ち満ちているということであり、強力な魔物が跋扈する環境なのもまた必然なのである。


今日やれることはやった。後はしっかり休息を取って明日に備えよう。


途中お腹が空いて夜食を食べに厨房へ行ったのは内緒だ。やはり消耗するとそれだけ腹が減ると言うことにする。


次の朝、目を覚ますと体力と魔力がほぼ全快になっていることに気づく。


魔石龍から貰った指輪も魔力回復の助けになってくれているようだ。


「よし!いくか」


屋上庭園から飛んで行こうとすると、下で何やら騎士団が出撃の準備をしている。


事前に女王からは何も聞いていなかったが、レルゲン以外の動ける人員は可能な限り動かしておかなければ国民にも示しがつかないのだろう。


気にせずに自分も空に出て行こうとすると、マリーとセレスティアが見送りに来てくれていた。


マリーがセレスティアを連れてきたのだろうか、マリーがまず駆け寄ってくる。


「やっぱり何も言わずに出て行こうとする」


「すまない、俺はこの通りほぼ全快だ。心配いらない」


自分の身を案じてくれないセレスティアが少し顔をムッとさせる。


「私の心配はしてくださらないのですか?」


「心配だけど、ここの地脈の回復量を考えたら、セレスもかなり良くなったんじゃないか?」


「それはそうですが、そうではないのです」


「冗談だよ。もちろんセレスの身を案じているさ。でも無理はしないでくれ。君の傷は深かったんだから」


「それは勿論ですが、私も早く戦線に復帰できるように致します。その時はマリーも一緒に戦う事になるでしょう」


マリーがレルゲンの手を握って、任務の成功を祈る。


「私も新しい力で早く貴方の力になりたい。だからちゃんと無事で帰ってきて」


握られた手に力が籠る。その手を握り返すように両手でマリーの手を取る。


「あぁ、約束するよ」


マリーに誓いを立てると、セレスティアが後ろから遠慮がちに抱きついてくる。


「私も、貴方の無事を信じています。王国の未来を毎回託す事になりますが、どうか国民を救って下さい」


レルゲンが小さく頷き


「それじゃ、行ってくる!」


再びの飛翔。雲で地上が隠れない高さまで上昇し、辺りを見回す。


すると、思ったよりだいぶ早く湖を発見し、幸先は良好。すぐに向かおうとするが魔力感知に大型の魔物がかなりの数引っかかる。


昨日別れ際に貰った魔物の書物を片手に、出会った魔物を記録していく。四段階目、五段階目とやはり強力な魔物が多い。


騎士団が出撃準備していたが大丈夫だろうかと心配になる。


思考を切り替えて、湖に飛んで向かう。

不思議な事に、湖付近には魔力感知が引っかからない。不思議な力が働いているのだろうか。


湖の側に降り立ち飲み水として使えるかどうか物質分離の魔術をかけてみる。


多少の不純物はあったが、決して飲めない水では無さそうだ。カノンには濾過の心得があると言う事で、ここからどうやって水源を引いていくか考える。


暫く考えていると地面が小刻みに揺れ、始めは気のせいかと思ったが、揺れが段々と大きくなってくる。


慌てて空中に飛んで距離を取るが、信じられない光景が目に飛び込んでくる。


水龍だ。話で聞いていた水龍が今目の前にいる。少しの興奮を抑えながら、水龍の動向を影から見守る。


何かを探すように辺りを見回すが、何もいない事を確認し終わると湖深くに潜っていき、レルゲンの魔力探知からも離れていく。


どうやらかなりの深さを誇る湖だと分かるが、ここを水源とするならば、あの水龍を何とかしなければならない。


姿を見るに魔石龍と同じ六段階目なのは間違い無いだろう。


更に六段階目の中でも上澄みだと分かる神々しさ、また湖の近くで休憩していると恐らく水龍が姿を見せるだろう。見ての通り、警戒心と縄張り意識が高いのが分かる。


(女王に報告するか?)


いや、今こそ武勲を立てる時。功を焦っている気持ちは理解しているが、魔石龍との一件もある、穏便に済ませられるならそうしたい。


再び湖の近くで身を落ちつける。


再び地面が小刻みに揺れ始め、次第に大きくなる。水面から水龍が姿を見せる。

今度は隠れず、ただ水龍をじっと見つめる。


「この深域に何用だ、小さき者よ」


「お初にお目にかかる、水龍殿。私はレルゲン・シュトーゲンと申す者。この水源の一部を頂きたく馳せ参じた次第である」


「ほう、私が魔物である事を理解し、対話を望むか。前に何度か龍と対話したことがあるのだな?」


「魔石龍とは、そうだな。勝手な思い込みかもしれないが、友人だと思っている」


「ははは!もしかしてお喋り好きの“老龍”か!面白い。奴はまだ元気に隠居していたか」


「残念だが、魔石龍はもう居ない」


「そなたが討ち取ったのか?」


緊張感が走る。返答を誤れば即戦闘になるだろう。


「いや、最初は俺もそのつもりだったが、俺たち王国をこの深域に転移させた張本人が魔石龍を討ち取った」


「なるほど、それでそなたらは水に困り、私のところまで来たと言うわけか」


コクンと頷く。


「よろしい、水を与えるのはやぶさかではでは無い。が、そなたが持っているその黒い剣。


それを持っていると言うことは過去に龍と対峙し、証として一部をもらったのだろう。


私はそなたの力量がどれ程のものか確かめたくなった。剣を構えろ、レルゲン・シュトーゲン」


(話がとんとん拍子で進むと思ったら、やはりこうなるか…!)


即座に黒龍の剣を念動魔術で構え、持ってきた鉄の剣を五本、空中に帯同させる。


「面白い術を使うな?ではまずはこちらからいくぞ」


スゥと息を吸い込む動作を取り、レルゲンは瞬時に咆哮による拘束攻撃かと思い、耳を保護するべく小さなウォーターボールを生成して耳につける。


しかし、方向ではなく水龍らしい水を高圧で射出する水線攻撃だった。


一歩反応が出遅れたレルゲンだったが、これを矢避けの念動魔術で軌道を逸らし、後方の森を水線が一直線に進み抉り取った。


当たりどころが悪ければ、一撃で死んでいたであろう攻撃。


(流石は六段階目だな)


今度はレルゲンが動く、湖の周りを高速で走り、水龍の真裏を取ったところでサンダーボールを複数出現させ、湖に投げ入れる。


着水と同時に水が水蒸気となるが水龍に電撃が到達すると、これを弾いた。


(どういうことだ?どうして水に流した電気を弾く?)


ここで水龍が勝ち誇ったようにレルゲンへ向けて話しかける。


「浅知恵じゃな!私に電気は効かんぞ!」


首から下はそのままに、薙ぎ払うようにレルゲンへ水線攻撃を繰り出す。


しかし、これもまた矢避けの念動魔術で回避し、またも後方の森を抉る。


ここで水龍が水線攻撃を諦め、今度は空中に氷の棘を幾つも展開し、レルゲンに向けて射出する。


(性質変化も使えるのか)


今度は敢えて矢避けの念動魔術を使わずに黒龍の剣で全て叩き落とす。


それを見た水龍の口角が少し上がり、更に氷の棘をレルゲンに向けて大量に射出してくる。


レルゲンは横に走りながら交わし、剣で叩き落としを繰り返し、集中攻撃の切れ目を狙って帯同していた鉄の剣を全て水龍に向けて射出する。


すると水龍の硬い鱗で覆われた部分が水に変化し、射出した鉄の剣が水龍の中へ入り動きを完全に殺される。


「無駄だ、その程度の攻撃いくら続けても結果は変わらんよ」


全魔力解放による黒龍の剣の一撃を放ってもいいが、後にここから舗装しないとならないこと。


放った事による水質の汚染を考えると、別の手段を考える必要がある。電撃は通じず、剣は吸収され再接続が出来ない。


残る武装は黒龍の剣のみ、もう黒龍の一撃を入れるしか無いのかとも考えたが、この剣自体が持っている切れ味を信じて、空中へ放る。


放られた黒龍の剣は魔力糸に繋がれた状態で、縦軸の螺旋剣の回転ではなく、横軸で高速回転を始める。


この無防備とも取れるレルゲンの状態を突くべく再び氷の棘を連続で射出する水龍。


しかし高速回転された黒龍の剣を盾代わりにし、粉砕機にかけられたように氷の棘が砕け散る。更に回転数を上げていき、周囲の草木が音を立て始める。


「ウィンドカット」


ベンジー騎士団長との戦いで見せた高速回転された剣とウィンドカットの合わせ技。


だが、今回は貫通力を上げるのではなく、切断力を強化するべくレルゲンは剣に風の剣を纏わせる。


レルゲンの剣を見て水龍に焦りの色が見え始める。


「そんな剣で作った即席の盾など全方位から攻撃すれば済むだけのこと!」


「これは盾じゃ無い、あんたを斬るためのものだ」


氷の棘がレルゲンの四方八方から殺到する。


水龍の攻撃と同時にレルゲンも黒龍の剣を射出し、水龍が身体を液状化させる前に剣が鱗を切り裂き、


鮮血が迸るがすぐに斬られた部位が液状化し、出血が止まる。


「ぐっ…!だが!」


ここで初めて水龍が苦痛の表情を見せ、レルゲンが戦闘の流れを掴む。


氷の棘がレルゲンに着弾すると思われたが、やはり矢避けの念動魔術で衝突を回避し、更に水龍が焦り始める。


遠距離攻撃がダメなら近接ならどうだと言わんばかりに突進攻撃を仕掛けると、レルゲンがここでにやりと笑う。


(誘われたのか?!)


水龍がレルゲンの狙いに気づくがもう遅い。射出された黒龍の剣がいつの間にかレルゲンの手元に戻り、再度水龍に向けて直進する。


実態化した状態から液状化するまでは猶予がもう無い。誘い出された水龍は身を直前で捻り回避を試みるが、背ビレが紙を切るように簡単に切断される。


「ぬぅっ……」


再びの悲鳴と鮮血、しかしこれも斬られた背ビレ付近がすぐに液状化し、出血を防いでいく。


突進攻撃や遠距離攻撃をいなされ続けた水龍はついに観念し、レルゲンに対話を持ちかける。


「そなたの力量、確かなものだ。水は好きなだけ持っていけ。私を屈服させた証として、そこに転がっているヒレと鱗を持っていくがよい。


それと、水を綺麗にすることも必要であろう。

私自身にも水を浄化する作用があるが、ここの水が綺麗なのは地下に設置されているこの水晶のお陰だ。


沢山やるわけにはいかんが、そなたの街一つ分くらいの水を綺麗にすることは出来るはずだ」


「助かる。ここから川を引く要領でここの湖の水を頂くが、それでいいか?」


「ああ、もっていけ」


水龍に力を示すことの出来たレルゲンは、ここからどうやって水源を引いてくるか考えていた。


(さて、ここからどうやって街まで水を持ってくるかな)


一人で街まで川の水として流していてはいくら広大な湖とて、長くは持たないだろう。


最低でも一月は持つような仕組みが必要だと考え、一度水龍に別れを告げて街へと戻り、女王へ水龍の素材と共に報告する。


主に遠距離攻撃が攻撃手段だった水龍とは相性が良く戦闘を有利に進めることができたが、


一種の安全地帯として水の守り神を屠るわけにもいかない。殺さず、しかし力は認めさせる方法を取るのに苦労した。

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