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50話 喪失

魔力とは別の、心念の籠った言霊がセルフィラに向けられる。


「それは結構だが、君はそんなに強い言葉を使って大丈夫かい?」


「どういう意味だ」


「心念とは元より現実を塗り替えるもの。

現実と遠くなればなるほど、発動に必要なイメージ力が増えていく。


つまり、分不相応の願いは自らの身を滅ぼす。

端的に言えば脳にダメージが入るが、どうやらその様子は無さそうだね」


レルゲンを観察するようにセルフィラは顎に手をやって見つめていたが、


流れる魔力の滑らかさに変化すらないレルゲンの身体を見て、一つの結論に至る。


「そうか。君は私より力が上だと思っているのか。


いい、流石は世界の異分子だ。

余りにも傲慢なその姿勢、その表情。


是非とも粉々にしてやりたいよ」


「やれるものならやってみろ」


「そうさせてもらう。フロスト・ジャベリン」


上位魔術ですらない中位の魔術が一本。レルゲンに向けて発射される。


舐めているのではなく、純粋に避けるまでもなく矢避けの念動魔術で軌道散らす未来を想像し、慌てることなくじっと待ち構える。


しかし、何かがおかしい。

発射された一本の中位魔術は何の変哲もないただの単一の攻撃。


複合魔術ではなく、ただの性質変化の水の魔術。


それを分かっていながらセルフィラは、レルゲンに対して粉々にすると豪語した。

単一の中位魔術では、明らかにチグハグ。


頭の片隅には薄く暗いモヤがかかりながらも、一本の氷槍が矢避けの念動魔術の範囲に入る。


遠目でセルフィラが小さく笑った、気がした。


モヤが確信へと変わる。

レルゲンの顔に一直線に迫った攻撃は、矢避けの念動魔術の範囲に入ったのにも関わらず、そのまま真っ直ぐ直進を続ける。


人間離れした反射神経で顔を反らすと、頬の薄皮を割いてそのまま彼方へと消えていった。


意外そうな表情のセルフィラは、レルゲンが咄嗟に躱すという選択を取ったことに驚きつつも賞賛し、パチパチと拍手を送る。


「素晴らしい反応速度だ。

君が得意としている魔術を敢えて誘ったが、最後に違和感に気づいて躱す。


どうやら勘もいいようだね」


「何をした」


「ただの魔術戦だよ。しかし、心念を込めたね」


「だから俺の魔術を無効にして、そのまま進んできたのか」


セルフィラは答えずただ笑みを浮かべるが、ミカエラが割って入るように叫ぶ。


「それは無効ではありません。現実の上書きです。貴方の魔術は確かに機能している。


それでも効力を中和するように、曲げる力よりも直進するイメージが勝っているのです!」


ミカエラの言葉を聞き、一滴だけ汗を垂らす。


「ありがとうございます、ミカエラ様」


矢避けの念動魔術が機能しないのではなく、相手の心念が自らの魔術を超えてきたと噛み砕いて納得。


ナイト・ブルームスタットとの念動魔術のやり合いをした時に、念動魔術同士で練度のぶつかり合いをした時のことを思い出す。


今度は魔術の掛け合いではなく、魔術と心念。


似て非なる対決とはいえ、根源にある所は共通している。


「おや、バラすのが早い。

ですが心念というのは自在に扱うには膨大な時間がかかるのは、その顔ぶれを見れば理解しているようですね。


ならば、先ほどは偶然にも私の言葉から逃れた事を除けば、人間という短命種族ではどうにもならない道理なのは分かりますか?」


マリーに支えられながら何とか自分の足で立つセレスティアが杖を前に突いて宣言する。


「貴方、今自分で言いましたね。偶然にも逃れたと。


それはつまり貴方にも分からない何かをレルゲンが持っていると白状しているのと同じ。


自分にもわからないから異分子と呼んでいるのではないですか」


セルフィラは遠い目をして最深層に続いている水平線を見つめる。


悲しいのか嬉しいのか、自分でもよく分かっていないような表情を浮かべ、そして視線をセレスティアに戻す。


「人間とは短命でありながら、なぜこんなにも儚く美しいのか。

今すぐに君達を私の物にしたい。そしてすぐに儀式をしよう。


安心していい。何度も儀式をするつもりはない。上位種族の種はどんな状態であろうと人間は孕ってしまう」


「誰が、貴方となんて!」


マリーが神剣に魔力を通して、絶対切断の加護と隷属の加護の合わせ技をイメージしながらセルフィラに向けて駆け出す。


「やぁぁぁああああ!!!」


「ふむ、加護か」


(コイツ、私の加護のことも知っている…!)


関係ないと頭を切り替えて、致命傷を与えることだけを考えて神剣を振るう。


セルフィラは右腕を差し出すように前に出し、マリーに向けた。


「要らないのなら、遠慮なくもらうわ」


切先がセルフィラの右腕に触れて皮膚を切り割くが、完全に両断することはなく途中で止まってしまう。


意外そうな顔を見せるセルフィラだったが、それよりも大きく狼狽したのはマリーだった。


「なんで、切断出来ないの!」


「君の加護の源はその剣の宝石のようだ」


「!!」


慌てて剣を引き戻そうとするが、それよりも早く神剣にセルフィラが手をかける。


強引に摘み出された宝石は呆気なく砕かれ、絶対切断の加護を失い、刀身の太さが若干細くなる。


「そんな…!」


「君は世界に愛されている。だが、届かない」


満足したセルフィラはマリーの神剣を離し、飛び退いたマリーはレルゲンの背後で膝を突いて悔しそうに顔を歪めた。


「ごめん、レルゲン…私の加護。無くちゃっちゃった…」


レルゲンは振り返らず、声も掛けない。

最愛の妻は、こんなところで挫けないと信じているから。


だが、すぐにこのショック状態から立ち直ることは難しいだろう。


(後は俺達に任せろ)


セルフィラは笑みを浮かべながら、一つ閃いた表情になる。


「そうだ、これから君達の特技を一つずつ潰して回ろうか。今の彼女のように」


「そんなことさせません!」


召子の聖剣から純白の翼が生えて〈天の翼〉を発現させ突っ込み、距離を一気に潰した。


(来たッ!私の翼だ!)


大きく歪んだ笑みに変わるセルフィラは、肉薄してくる召子を迎えにいくように前へ歩き出した。

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