47話 パーフェクト・スペリア
船が最深層に到着しカリュエルと別れると、そこにはレルゲン達が待ち構えていた。
「迎えが来たのはクラリスの方だったか」
「そのようですね」
カリュエルは短く別れを告げ、宮殿の方角へ飛んでいく。
だが、待っていたメンバーが一人多い。
セリエルだ。無翼の天使、穏健派のセリエルがレルゲン達の後ろから姿を現す。
クラリスはセリエルを見た瞬間、緊張度が尋常じゃなく上がる。
「穏健派のリーダーがなぜここに……?」
恐る恐る尋ねると、アラエルが元気よくセリエルの背中をバシバシ叩きながら、代わりに答えた。
「俺が心配でここまで見つからずに来たんだってよ!」
「そうですか」
セリエルはニコニコ笑いながら、アラエルの突っ込みに無言で耐えている。
クラリスが異常なまでに緊張している様子に気づいたメアリーとレルゲンは、
少しセリエルから距離を取るようにさりげなく他のメンバーとの間に割って入った。
「アラエル、それがレルゲンさんが作ってくださった新しい武器ですか?」
「ああ、コイツだ」
剣を鞘から引き出してセリエルに渡すと、セリエルは興味深そうに刀身を観察している。
「なるほど、これが人間の技術ですか」
「何言ってんだ?
作ったのはレルゲンだって言ってんだろ?」
「ええ、ですからここまでの剣を鍛えられる技術を持っているのでしょう。
これは確かに天使の翼を切断することが出来る_故に穏健派としてはこの武器はあまりよく見えませんね。こんなふうに」
グサッ
「は?」
「このように簡単に天使の身体を切り裂くことが出来る」
「何の冗談だよ。なんで……そんな……」
アラエルに深く差し込まれたショートソードは、簡単に致命傷となり得た。
「パーフェクト・スペリア。解除」
呟いた言葉がセリエルの姿を顕にする。
刹那、予め準備が出来ていたレルゲンとメアリー、そしてクラリスがセリエルに一斉に渾身の一撃を入れた。
「オオオオオ!!!」
「ハァァァアア!」
「セルフィラァ!」
一斉に襲いかかった三人の一撃は、ゆっくりと広げられた翼によって完全に包まれた身体に届かなかった。
全て正面から受け止められ、翼を広げた圧力で全員が散り散りに吹き飛ばされる。
誰よりも早くセルフィラからの攻撃を受けたアラエルは、胸に突き刺さったショートソードを引き抜くことなく、膝から崩れ落ちていた。
「セリエルがセルフィラ…?
なんで……でも!
あ、あぁ……!ああああああああああああああ!!!!!!!!
オオオオオオオオオオオオ!!!!!」
アラエルは絶叫と共に身体がどんどんと変色していき、完全な堕天を遂げようとしていた。
身体が半分程変色したところで、
ミカエラがアラエルの両肩を強く握り、そして力を込めて抱きしめた。
「大丈夫、貴方は強い天使です。
その歳で翼を奪われてもここまで堕天しなかったのは、貴方の心の強さが導いたのです。
大丈夫、大丈夫…!」
「あああああぁぁぁぁぁ…………なんで、信じていたのに、俺の兄貴だったのに……!
どうしてだよ……セリエル……」
目からは大粒の涙が溢れて止まらず、ただ一人信用していた兄貴分が真の黒幕だった事実に耐えきれなかった。
堕天の変色が半分程進んだところで、ミカエラの抱擁が進行を止める。
その様子をただじっと見つめていたセリエル、もといセルフィラは心底残念そうにため息をついていた。