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45話 忠誠心の理由

その頃のレルゲン達は、クラリスが爆発的に高めて放った心念を肌で感じ取っていた。


「ねぇ、レルゲン。この感覚ってあの時メアリーと戦った時に、貴方が起きた時と何か似ている気がするんだけど」


マリーが肩を抱きながらビリビリと伝わってくるプレッシャーを伝えると、レルゲンどころか召子以外は同じ感覚を患っていた。


「恐らくクラリスだろう。ここから少し遠い気がするが、間違いなく心念による何かだ」


「えっ、もしかして皆さん何か感じ取っているんですか?私だけ何も感じないんですけど……」


少し焦った表情で神妙な面持ちの周りを見て、メアリーに視線で助けを求める。


「召子はまだこっちの世界に来て日が浅いから仕方ない。

本来心念を感じ取るまでは膨大な戦闘経験が必要だ。だけど安心していい。


私と戦っていた時の召子は間違いなく心念を込めた攻撃が出来ていたよ。

自覚が無いだけで彼らのように肌で感じ取るまでそう時間はかからないだろう」


「そうなの? ならいっか!

私だけ置いていかれてるのかと思ってちょっと焦っちゃった」


(心念の盾を使ったのか…相手は相当な手練。

しかしそれを従えるセルフィラという天使は、やはり只者ではないようだね)


「何者なんだ?クラリスって女は。

単独で潜入するって言っていたからには強い奴だとは思っていたが、ここまで伝わってくるのはちょっと異常だぞ」


アラエル達天使は心念による操作術は魔術と同じだけ身近なところにあり、


選ばれた一握りの天使達がその領域に至れるというのが、天使達の中で常識だった。


「それは私も気になっていました。

初めて会った時から唯ならぬ強さを感じてはいましたが、武器も持たずに己の身体一つで戦えるのは異常と捉えられても不思議ではありません」


クラリスの強さが気になる面々を他所に、ミカエラは深二層がある上空をただじっと見つめていた。


メアリーに説明を求めるように距離を詰めると、本人がいない中伝えてもいいのか迷った表情になりながらも、ついに話す決心をする。


「クラリスについて皆んなが知りたい気持ちも分かる。なんと言っても私の直轄部隊の一人だからね。


それである程度納得していただろうけど、流石に別の何かがあると予想するのは理解できる。強すぎると。


簡単に言えば、彼女は肉体時間を全盛期で凍結されている元勇者だ」


「えっ?は?勇者が魔王に付き従っているの?

でも勇者って出現すれば魔王もまた引っ張られるように現るって」


「そうだ。だが、この関係性が出来上がったのはもう少し後で、トリガーとなっているのは今召子が持っている聖剣だ。


クラリスはこの聖剣が精霊達から貸与されるよりももっとずっと前に召喚され、


本当に拳一つで成り上がった原初の勇者なのだよ」


「原初の勇者…」


メアリーは頷き、尚も続ける。


「さっきも言ったが心念の体得には膨大な時間がかかる。


肉体が全盛期で凍結されている理由はついぞ私にも教えてくれなかったが、それだけの時間を鍛錬に費やし、今に至るという訳だ。


古い付き合いだが、分からないことも多くてね。


少しずつ教えてくれてはいるんだが、私に対する忠誠心の理由くらいじゃないか?

ちゃんと話してくれたのは」


はっはっは、と懐かしむように笑いながら説明していると、無言で続きを促されて更に続ける。


「忠誠心の理由かい?それは前にクラリスが私に挑んできた時まで遡る。

彼女は世界が孕む矛盾に苦しんでいた。


なぜ人間と悪魔は敵対しなくてはならないのか、友好的な関係になれないのかと。


こんなにもお互いを憎しみ合う必要はない。

もっと頭を柔らかくしろ!って言われたのは今でも覚えているよ。


話が少し逸れたが、戦いの後。

私は心念に入門したてのクラリスを殺せなかった。


力で押さえつけることは簡単だったが、私の何かがそれを許さなかったんだろうね。


魔王城は未だに再建中だが、中庭がある。

庭に咲く貴重な花に水をやっていたら、そこへクラリスがやってきて聞いたんだ。


どうして貴重な水を使ってまで花を育てているのかと。


私はこう答えた。

たとえ肥沃な土地で無くても、懸命に生きようと花を咲かせているこの命を、私は放っておけない。


それが単なる私の自己満足だとしても、注ぐという行為こそに意味を見出しているんだ。


するとクラリスはその場で膝を折り、その場で忠誠を誓ったというわけだよ」


話を聞いていたミカエラが、優しく微笑みながら声をかける。


「いい従者を持ったのですね。メアリー」


少し頬を赤くしながらもお礼を返す魔王の珍しい光景が、レルゲン達の目の前に流れていた。

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