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43話 心念の盾

「来たな、反逆者」


受け止められた剣を持ち、上官の天使が数メートル程後退して距離を取る。


「貴方が遊んでいたお陰で、そこに寝ている男の命が助かりました」


「カリュエルはお前を殺した後できっちりと息の根を止めてやる。すぐに会わせてやるから安心しろ」


「いえ、下の層には貴方一人で行っていただきます」


お互いに煽り合うが、先に動いたのは上官の天使。クラリス共々カリュエルを延長線に捉えた一撃が迫る。


回避は不可能。

ここで意識を失っているカリュエルを庇いながら戦えなくはないが、逆手に取られると足元を掬われかねない。


姿勢を低く構えて衝撃を吸収するために全身の力を逃がしていく。


「また受け止める気か!今度はそう簡単にいかんぞ!」


刹那、翼の剣が形状を変化させる。

一枚一枚の羽が鋭い棘のようにジグザグと覆い、受け止めた際に裂傷を負わせるような、クラリスを意識した形状へと変わった。


冷静に翼の変化に気づいたクラリスは、素手で受け止めるのを止めて、振り下ろされた剣の腹をコツンと殴り軌道を変えた。


カリュエルの頭スレスレの地面を抉った剣は食い込んで中々抜けない。


この出来た巨大な隙に、クラリスは体術で上官の天使の腹部目掛けて正拳突きを放ったが、咄嗟に剣から手を離して距離を取る。


「お前の攻撃は認める。だが、当たらなければ意味がないぞ」


「ですので少し広いところでやりましょうか」


「無意味な提案だな。これから殺される奴が場所の変更など。お前達はなす術もなくここで…」


言い切る前にクラリスが距離を一瞬で詰め切り、上官の天使に回し蹴りを叩き込んだ。


百メートル程吹き飛ばされた後、ようやく体勢を立て直した上官の天使は、大量の血反吐を吐きながらクラリスを睨みつけた。


「馬鹿な。私はセルフィラ様に選ばれた特別な天使だ。こんな無翼の女に力で吹き飛ばされるなど、あってはならない!」


深く突き刺さった腹ついた蹴りの跡が無くなり、口から溢れていく血も少しずつ量が減っていき、やがて完全に回復する。


選別式で戦ったどの天使よりも回復までの速度が一段と速い。


(もう完全回復ですか)


「驚いているようだな。そんな単発の攻撃では、いくらやっても致命打にはならんぞ。


そしてこれが、我らに与えられた唯一無二の武器。お前程度の天使に使うのは正直癪だが、この際そんな事はどうでもいい。


今ここで確実にお前らを粛清するのが最優先だ」


上官の天使の背後に光の輪のような紋様が現れ、魔力が段違いに上がっていく。


周囲の風を巻き込みながら紫色の光を放ち、光輪からは紫色の雨が降り注ぐ。


「随分と下品な光ですね」


「お前達のように審美眼の無い連中には分からない、高貴な光だ!」


薄っすらと目を細めてクラリスを見つめるが、恐怖の心念は微塵も感じることができない。

違和感を覚えながらも言葉で圧倒せんとする。


「だが褒めてやろう。この圧倒的なまでの存在感。そして絶大な魔力を前にして逃げ出さなかったその度胸を!」


光輪を携えた天使がクラリス目掛けて急接近する。


音速近くまで高められた速度は二人の間合いを一瞬で殺し、クラリスへ向けて翼の剣を振り下ろす。


クラリスは一撃を最小限の動きで横に躱し、光輪の天使の腕をガッチリと掴んで離さない。


ならばと反対側の腕で翼を握り、剣としてクラリスに襲いかかるが、これもまた振り下ろす手前で手首を掴んでホールドする。


両腕を掴んだ状態でもう一度蹴りを入れようとした瞬間、背後の光輪が光を増し、光弾を無数にゼロ距離で放った。


着弾と共に黒煙が上がり、クラリスの姿が完全に見えなくなる。


光輪の天使は未だ掴まれている腕の感触から、光弾が全弾当たったと確信し、大きな声で勝ち誇った。


「ハハハハハハ!

今の攻撃をこの距離で、そして防御も無しで喰らえば流石のお前でも跡形もあるまい!


ぐちゃぐちゃになったお前の美しい亡骸を拝んでやるぞ」


黒煙が徐々に晴れていき、再起不能になった目の前の敵を見つめる。


しかしそこにあったのはぐちゃぐちゃになったクラリスの亡骸ではなかった。


半透明のオレンジ色の光がクラリスの目の前に展開され、当のクラリス自身は全くの無傷。


「馬鹿な、そんな事があるか。

それは心念の盾だ。無翼の天使如きが到達できる領域では無い!お前は一体なんなんだ!


この腕を早く離せ!」


ギュっと更に握られた腕が激しく痛みを伴い、光輪の天使が膝を突く。


強引に魔力による圧力でクラリスを引き剥がし、腕をさすりながら尚も続ける。


「くそ…どうしてこんな奴に盾が使える…?

そもそも本当にお前は無翼の天使か?

まさか、お前は…」


「私は無翼の天使_いえ、私は魔王直轄部隊の一人、クラリス・クラノイド。人間族」


「やはり天使ですら無かったか。盾を使えるのはセルフィラ様と一部の人間のみ。


天使には決して到達出来ない領域に、なぜ下等種族の人間が至れるのかは心底疑問だが、納得の強さだクラリス・クラノイド!


私は運がいい。ここで貴様の首を持ち帰れば、私は更に上へと進んでいける」

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