41話 同族の救助
船を使い深二層を抜けて初層へと上がる。
相変わらず四角い建物が広がっており、検問の天使がクラリス達を見ると、すぐに礼と挨拶を贈った。
「やはりこの服を着ているとすぐに通されるな」
無翼の自分にさえ身に纏っている服を見て、有翼の天使が礼をする違和感を少し感じながらもその場を後にする。
検問の天使も若干戸惑ったような気がしたが、無理もないのでその場をすぐに後にする。
すると、やはり通り過ぎてから検問の天使が不思議そうに、隣の天使へ小言で話している。
「なぁ、あれって無翼の…」
「バカ!あの服を着られているって事は選別式を通過したお方だ。きっと翼は普段から仕舞われているんだろう。
口が裂けてもそんなことを言うんじゃない」
「お、おう。すまなかった」
カリュエルは若干笑いながらクラリスの肩を軽くトントンと叩いたが、当人は完全に無視を決め込んでいた。
無翼の天使の監視とは、有り体に言ってしまえば反乱を起こさないかの兆候を確認することが出来れば任務が終了する訳だ。
しかし、レルゲンが一度武闘派に剣の技術提供をしてから大幅に数を減らしていたため、どちらかといえば武闘派よりも、
穏健派が武闘派に変化していないかの確認が大きい。
以前無翼の天使達に匿ってもらっていた拠点を訪れると、そこは既にも抜けの空になっていた。
拠点を移したのだろうか?と疑問に感じている所で、カリュエルが工房の窯に手を置きながら呟いた。
「ここが無翼の天使達が使っていた拠点か。
どうやら必要な物は全て持ち去った後のようだが、奴らはどこに行ったんだろうな?」
偶然付近を飛んでいた有翼の天使にカリュエルが聞き込みをすると、焦った様子の天使が質問に答えた。
「はっ!この付近の無翼達は武闘派を切り捨て、穏健派のみで別の拠点に移ったと噂になっております。
残った武闘派達は軒並み粛正されるか、散り散りになったと」
「そうか、情報提供感謝する」
「いえ、公務。お疲れ様でございます」
カリュエルがクラリスの元に戻り、情報を共有するが、無翼の天使達の所在が不明である事と、予想通り武闘派はほぼ壊滅的であることが確認できるのみだった。
控えめに言っても任務として成立するのか怪しいラインだ。
しかし、クラリスは冷静に状況を分析して、どこか表情に焦りが見えるカリュエルを宥めた。
「今回の任務を再度確認しますが、無翼の天使の動向を調べるのが目的で、何も穏健派までどうにかするものではありません」
「そうだな。俺達の目的はあくまでも反乱の動きがあるかどうかで、静かに暮らしている奴らに何かするわけじゃない」
「そうです。ならば、武闘派達がほぼ壊滅している証拠だけ何か持ち帰ればいいのではないでしょうか」
「それはそうだが、証拠って何か当てがあるのか?」
カリュエルは眉を少しハの字にしながらクラリスを見つめ返したが、自信に満ちた表情で真っ直ぐ見つめ返し答えた。
「あります。ここからそう遠くない所に」
黙ってクラリスについて行くこと約一時間。
到着したのはかつてミカエラが囚われていた預かり所だ。
予想通りあの時から誰かが踏み入った様子はなく、不気味なガラスの中には未だに何人もの天使達が怪しい液体の中に入れられ魔力という名の生命力を、殺さないギリギリの所で吸い上げられていた。
「なんだ、こりゃあ…」
「ここは私達が所属している尖兵達が管理している研究所のような場所です。
以前来た時から何も変わっていないなら、それこそ反乱分子の活動が止まっている証明に他なりません」
「それは分かったけどよ、これは流石に…」
「助けますか?私はここにいる天使達はそこまで興味がありませんが」
「なんか急に冷めたな。まあ気持ちは分かるけどよ。だけど、俺はコイツらを助けたい」
「そうですか。では貴方の責任の元助けましょう。この機械は私達が乗って来た船に似ている。操作は出来そうですか?」
「あぁ!もう勝手に話を進めるな!
もう俺の責任でいいよ全く。素直じゃねぇんだから」
鋭く睨みつけられたカリュエルは、クラリスの目から発せられる圧に少しばかり怯んだが、気を取り直して天使達が囚われている機械を確認する。
「確かにこれは船と少し似ているな。多分だがコレを押せば…」
ボタンを一つ押すと機械が低く唸るような駆動音を響かせつつ、天使達を沈めていた液体が減っていく。
完全に液体がなくなってからガラスが開き、中の天使が顕になる。
しかし、カリュエルがその天使を抱きかかえた瞬間、指先から少しずつ砂へと変わっていく。
「あぁ、くそ!待ってくれ!せめて意識だけでも取り戻してくれ」
完全に砂へと変わった天使だった物を暫く抱き締めててから、カリュエルの翼の色が少しだけくすんだように見えた。
しかし、クラリスに振り返った時には翼の色は純白のまま。
ただの見間違いだと気持ちを切り替え、カリュエルに残酷な事実を伝える。