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38話 心念の色

見下ろすようにクラリスを睨みつけるサラエルの目は、殺意に満ちていた。


「私の顔に傷をつけたわね?つけたわね!

絶対に許さないわ。

治ったとしても私の、我の顔に泥を塗った事実は変わらないッ!」


二人以上の声が重なるように聞こえ、クラリスが改めて身構える。


(これは、翼の自我による侵食。ギリエルと同様に、感情の昂ぶりで表に現れるようですね)


クラリスが共感覚で目にした心念の色は、限りなく黒に近い灰色。

もはや天使の出していい色ではない。

それよりももっと近い色は、天使よりも悪魔と言えるだろう。


サラエルは持っていた二刀の翼を空中に放り投げ、残る翼を全て引きちぎった。


残る天使達が響めきの声を上げるのも無理はない。


自ら間接的に無翼の天使となったサラエルの皮膚がバラバラと崩壊を始め、苦しみの声を上げる。


「グァァァア…こんな、こんな自殺するような真似、我は許さん……黙りなさい。私は私よ。


私の名はサラエル、貴方に身体は渡さないし、堕天だってしない!黙って従え!」


悪魔に変色していったサラエルの肌は身体全体の半分ほど。


しかし、その変化も強引に翼の主導権を握った事で徐々に天使の姿に戻っていく。


放り投げられた翼の剣は空中で止まり、手にも二振りの剣。

合計四本の剣を携えたサラエルは、クラリスを見つめて薄く笑いながら宣言する。


「行くわよ。四つの刃で切り裂いてあげる」


心念による操作術で空中に固定されていた翼が徐々に回転していき、剣の形が分からない程に高速回転していく。


回転が最高潮に達したその時、弧を描くようにクラリスに迫りながら距離を詰め、サラエル自身もまた斬り込むために疾駆する。


飛んでくる二本の剣を短いステップで躱し、距離を詰め切った踊りにも似た、緩急のつけられた攻撃を躱し、弾き、そして剣を握られた腕ごと受け止める。


一度躱した剣が再び大きく円を描いてクラリスの元へ戻って来たのを、横目で確認してまた躱す。


しかし今度は一度目と違い、翼で出来た剣の大きさを微妙に大きくしてクラリスの感覚を狂わせた。


再び完璧に躱したと思った回転翼は、クラリスの髪を数本切断して後方に飛んでいき、


一瞬注意が逸れた瞬間にサラエルが更に押し込むべく間合いを詰める。


一歩分躱すための余裕が潰されたクラリスは、間合いの高さを嫌い後方へ跳んで距離を取ったが、サラエルの攻撃は更に苛烈さを増していく。


「ハイド・スペリア」


自らにかけるのではなく、心念による操作術で空中を飛んでいる翼にかけられた隠蔽魔術は、一瞬にして姿と魔力を消す。


「さぁ、これで躱すのも難しくなったでしょう!今度はどうするのかしら?」


クラリスに不可視のニ撃が迫る。

目視や魔力感知では位置の特定が困難になり、勝ちを確信したサラエルは追撃を止める。


しかし、クラリスは逆に目に意識を集中。

回転で発生する風切り音でおおよその位置は掴める。


何も無い虚空に意識を集中していくと、薄っすらと色のような物が見えるようになり、


前にかざすように出された両手は、正確に回転翼を二本とも受け止めた。


「なっ!見えない、感知も出来ないはずなのにどうして!?」


「私は込められた心念を色で捉える事が出来ます。込められた心念が強い程、それは分かりやすい。貴女のは正にその典型です」


「心念を色で…そんな技術見た事も聞いた事も!」


「独学ですから当然です」


「…っ!ならその受け止めた手ごと斬り裂いてやる」


意識を再びクラリスの持つ翼に向けるが、万力の如く握られている翼はピクリとも動かない。


「なんて力なの…!そんな力、無翼の天使に出せるわけが…」


戦意を失ったサラエルはその場でへたり込み、膝から崩れ落ちてしまう。


もう心念による操作術は機能しないと判断したクラリスは、握った翼の剣を離し、地面に音を立てて転がる翼を確認して審判の天使を見つめる。


「勝者!十三番」


歓声は無い、拍手も無い静寂のみが場を包んだが、次がいよいよ決勝戦。


クラリスを見つめる天使は、ますます疑念の目を向けていた。

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