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37話 準決勝

受け止めた手とは反対の腕を真っ直ぐにローウェルの胸部にゆっくりと伸ばす。


手が胸に触れ、姿勢はそのままに下半身から上半身へ力の流れを作りつつ、触れた手を捻る様に回転させた瞬間に溜めた力を爆発させる。


「はっ!」


短い掛け声と共に捻られた掌から放たれた重い一撃は、一瞬でローウェルの身体を貫いた。


「ゴッ…!」


身体に穴が開きそうな衝撃が身体を叩き、握られた翼の剣は依然としてクラリスが握りつつ、囲われている壁面へ一直線に吹き飛ばされる。


吹き飛ばした後に翼の剣を持ち変えると、流石に手が赤くなっており、それを見たクラリスは修行不足だと自らを諌めた。


「審判。彼はもう立ち上がりません。終了の合図を」


およそ無翼の天使の一撃を軽く超えた攻撃は、会場全体がシンと静まり返る。


審判すら巻き込み息を呑んでいたが、一泊置いて終了の宣言をする。


「終了!勝者十三番!」


歓声はなく、罵声もない。

静まり返った中、天覧席から拍手が送られた。


「ここまで圧倒的な力を見せつけられては、翼持ちの面目が丸潰れじゃ無いか。

素晴らしいよクラリス君。まさかここまで強いとは思っていなかった」


「この翼、お受け取り下さい」


手に持っている剣に変形した翼をセルフィラに向け放ると、凄まじい速度で回転しながら天覧席の石壁に突き刺さる。


全く驚く様子を見せないセルフィラは、ただ突き刺さったローウェルの翼に手で触れると、解されるように自らの体内へと吸収する。


それだけに止まらず、気を失っているローウェルの翼に人差し指だけ向けると、


まるで翼が意思を持っているかのようにローウェルから離れてセルフィラの元へ飛んでいく。


(心念による操作術は当たり前のように使えるようですね)


「彼の翼は全て受け取った。これでクラリス君を甘く見て痛い目を見る天使はいなくなっただろう。


是非とも次の選別式も勝ち上がってくれ。

期待しているよ」


セルフィラは未だ声のみで姿を見せる事はない。確認できたのは翼にかざされた片手のみ。


必要以上に姿を隠しているのは何か理由があるのか。


または選別式を勝ち上がった天使にしか素性を明かさないのかは分からないが、セルフィラはまたすぐに奥へと消えていった。


翼を全て奪われたローウェルは意識を取り戻し、傷の修復が追いついていない様子。


それだけ魔術の発動や身体の再生機能と直接関係している器官が翼なのだと分かる。


一瞬だけ自らの懐に手が伸びそうにピクッと動いたが、再び剣を受け止めた手を確認するフリをして歩み寄る。


「翼をもがれても堕天しないのですね」


「意外か?」


「いいえ」


ローウェルはボロボロの身体を感じさせないようなしっかりとした足取りで、選別式会場を後にした。


その後も選別式は筒がなく進んでいき、いよいよ準決勝まで駒を進める。


途中翼を全て奪われて堕天した天使も中にはいたが、それ以外のイレギュラーは起きずに進んでいく。


相手は既にこの選抜式で翼を二十枚以上も増やし、魔力量だけで見れば他の勝ち上がった天使の中でも高い水準と言っていい。


「それでは選別式の準決勝を開始します。十三番、二番。前へ」


前へ進んでいくと、自分と同じくらいの背丈で横を歩く天使と目が合う。


「よろしく。クラリス」


相手の名前は知らないが自分の名前だけ周りには知れ渡っており、


準決勝ともなれば誰が勝ち上がっているのか気になると思われるが、クラリスは興味がなかった。


「よろしくお願いします」


視線を前に戻して舞台中央へ進み、お互いが改めて見つめ合う。


「私の名前は…サラエル。貴女と戦う天使の名前」


「無翼の天使。クラリス・クラノイド」


「それでは準決勝第二試合、始めて下さい」


サラエルが両方の翼に手をかけて、勢いよく引き抜き二刀を構えてクラリスに突進してくる。


狙いが定めづらいように左右にステップを交えながら走り込んでくるサラエルは、身体を回転させながら駒のようにしてクラリスに近づいていく。


首元へ正確に狙われた連続攻撃を後ろに跳んで回避すると、尚もクラリスを追いかけるように距離を縮めた。


壁まで後退し、もうこれ以上の後退は不可能。

だが、既に高速で回転して肉薄を続けるサラエルの攻撃は、よく見た。


追い詰められたことで逆にサラエルは最後の一撃を入れようと、力みを増して壁ごとクラリスを斬りつけようとする。


持ち前のしなやかさで足を開き、沈み込んで回避したクラリスは、すぐに開いた足を閉じつつ身体全体を使った回し蹴りでサラエルを吹き飛ばした。


(なんて柔らかな動き…!)


吹き飛ばされたサラエルは空中で翼を展開して威力を相殺し、口から一滴の血が顎にかけて流れ落ちたのを鬱陶しそうに腕で拭った。


「やるわね。もう貴女を無翼だからといって舐めた天使は残っていないけど、それでも意外だったわ。まさかここまで生き残るとは思わなかった」


クラリスは答えない。

代わりに空中に留まっているサラエルに向けて左手を伸ばして狙いを定める。


右手に魔力を集中し、真っ直ぐサラエルに向けて拳を突き出した。


クラリスの数少ない遠距離攻撃は、不可視の衝撃波となってサラエルの顔面を捉える。


大きく上を向くように顔が打ち上げられ、再びクラリスを見つめるサラエルの表情は、今までの表情とはまるで異なっていた。

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