34話 居城の外観探索
白を基調とした重厚感のある造りに、青と黄金で出来た装飾が施されている門がゆっくりと、
そして吸い込まれるように口を開ける様は、差し詰め死への片道切符を思わせる。
クラリスは既にレルゲン達とは別れ、単独で列に並び一人、また一人と門を潜っていく天使達の後ろをついて行く。
無翼の天使としてクラリスを見た天使達は、すぐに嘲笑するかとレルゲン達は予想し、多少の油断を誘えると思っていたが、その目論見は大きく外れる。
天使達から見れば初めの層の検問を突破し、次の墓場を単独で突破した事実に対して、笑いよりも疑念を含んだ表情となった。
一種の警戒にも似た感情がクラリスの周りの空気を包んだが、それを一切意に返さずにただ静かに列に並ぶ胆力に、唯ならぬ雰囲気を天使達は感じ取る。
やがて開門と同時に天使達はクラリスに対する注意を切り上げ、自身の集中状態を上げていく。
天に祈りを捧げる天使もいる中、ゆっくりと歩を進めた先に進むクラリスの姿が見えなくなる。
ここから先はクラリス本人に任せるしかない。
その間に自分達が出来ることは、ただクラリスからの知らせを待つだけではなく、
やれる事はきっとあるはずと考えを巡らせ続けていたレルゲンは、一つの案を思いつく。
「クラリスが頑張っている中で、俺達が出来る事は中よりも外側の探索だ」
マリーはようやく天使の擬態をしなくても良くなったことで、肩に自然と入っていた力を抜いて伸びをしながら返答する。
「裏口を探そうって訳ね」
「勿論それも探すつもりだが、
まだ俺達はこの建物…というより宮殿に近いコイツの全容をまだ掴めていない。
今後に活かせるかもしれない情報を今のうちに集めておきたい」
「ではまた水中からどうなっているのか探るところから始めますか?」
セレスティアの問いにレルゲンは頷いて、再び念動魔術で酸素スーツを作成する。
「普段なら空から見た方が色々と俯瞰できて手っ取り早いが、奴らのテリトリーもまた空だ。
選別の最中に空中戦が始まってもおかしくないから、俺達は意識が向く方向とは逆の下から攻めていこう」
まずはこの宮殿が水上に浮いているのかどうか。仮に大きな波が発生すれば、足場の急激な揺れを考える必要がある。
しかし、一度潜って確認すると底なしの海にも思える深さに、どこまでも伸びる宮殿の基礎が伸びているため足場問題は心配ない。
加えて水中からどこか内部へ侵入出来る場所があるか、一度全員が散って確認する。
だが、水中を内部から見る小窓が幾つか散見されるのみで侵入口は発見には至らず。
小窓があるという事は、建物内部には水中深くまで構造が作り込まれている証明でもあるのは収穫と言って良いだろう。
水中で残る探索といえば、脅威になる水性生物の有無や、こちらを探索してくるであろう機械を見受けられるかどうか。
この二つは水中からは確認できず、一旦水中での宮殿探索は切り上げて、潜水地点とは反対側に顔を出す。
「なるほど。こっちは簡素な作りだが、裏口がありそうな階段があるな」
表は威厳を示す重厚な造り。
裏側はどちらかと言えば機能的と言っていい天使達の離発着場のような場所が上層階に見て取れる。
「ミカエラ様。天使達は建築事情に明るい者がいるのですか?」
「いえ、そもそも元の天界には人工の建造物は存在していませんでした。
自らの配下に実際の作業はさせたとは思いますが、この建物を設計したのはセルフィラ本人でしょう」
百枚の翼を持ちながらここまで巨大な建造物を設計できるだけの頭脳と、強靭な自我を有すると分かる出立ちを感じ取り、
これから相手にする大元の力量を形で示されて脂汗を流す。
ミカエラはレルゲン達の心境の変化を掬い取り、すぐに声をかけた。
「敵の力を予測するのは大事ですが、貴方達の力量は天使に引けを取らないのもまた事実です。
敵を過小評価するのは論外ですが、逆に大きくする必要もありません」
一言だけお礼を返し、短く息と共に負の感情を吐き出す。
気持ちを切り替え改めて敵の居城を見直すと、セレスティアが頂上付近に取り付けられている機械に気づいた。
「あの建造物の頂に見えるのは機械ではないでしょうか?何の機械かは分かりませんが…」
メアリーはセレスティアが指差した地点を確認し、どこか見覚えがあると伝える。
「私の城にも似た様な物が設置してあるから何となくは分かる。あれは恐らくアンテナだ」
「アンテナ?」
「ああ、君達が城に来るタイミングがある程度は把握していたと前に言っただろう?
分かりやすく言ってしまえば、あれは超広範囲に展開する敵感知を可能にする機械だ。
それが物体感知なのか魔力感知かは外観から判断出来ないが、
私達が隠蔽魔術を使いながらではあるがある程度自由に行動できているところを見るに魔力感知だろうね」
しかしアラエルはこの最深層にたどり着いた時に奇襲を受けたことに引っ掛かりを感じ、メアリーに疑問をぶつける。