33話 第三の選択肢
「あそこに並んでいる天使達は全員敵だと思っていいんだよな?」
アラエルが腰に下げているショートソードに手を置きながら、すぐに飛び掛かろうと腰を落とす。
それを言葉でレルゲンが一度止めるが、中々納得はいかない様子。
「待ってくれ。気持ちは分かるが、アイツらは選別参加者であると同時に、まだ相手側の勢力には成り切っていないんじゃないか?」
「一緒だろ。あの中で勝ち残る、生き残った奴は結局セルフィラの犬になるんだ。
ここで頭数を減らす事が出来れば、後々楽になるはずだろ」
「ですがアラエル。こう言った考えもあるのではないですか?
生き残った天使は確かに我々にとって脅威になりかねませんが、それ以外に脱落する天使とも余計に戦うのは必然。
騒ぎが大きくなれば、セルフィラは私達がここまで近づいているのを察知して、姿を暗ませるかもしれません」
ミカエラが落ち着けるような声色で、アラエルに別の可能性を示すと、少し考え込むように下を向いて渋々納得する。
「それは確かにそうだけどよ。
でもミカエラ様、何か行動を起こさないとここまで来た意味もありませんよ」
「そうですね。確かに何もしないのは私も歯痒い。
かと言って、皆さんと共に戦うよりもサポートの方が私には合っているでしょう。
レルゲンはこれからどうすればいいと思いますか?」
「一つはこのまま選別が終わるのを見てから、最後の一人になったところで強襲して翼を解放する方法。
一番堅実なやり方で、最後まで戦えばいくら天使でもかなり消耗しているはず。そこで叩ければ一番理想です。
二つ目は俺達の中から代表者を決めて実際に選別を勝ち上がりつつ、最後の一人になる方法。
これは実際に天使であるミカエラ様かアラエルにしか出来ないが、回収した翼による戦力補強とセルフィラの下に付く天使を一人減らす事が出来る。だが…」
「俺はアイツらから翼を奪えたとしても、それを身につけるなんて絶対に嫌だね」
「私もここはアラエルと同意見です。
そもそも勝てないとは思いますが、仮に勝てたとしても翼を増やすのはセルフィラと同じ。
心の堕天に他なりません」
レルゲンはコクンと頷いて、最初の案で進めようと話をまとめようとしたが、メアリーがここで更に別の案を示す。
「話が纏まりそうなところですまないが、こういうのはどうだろうか?
クラリスを選別に参加させる。
天使ではない人族だが、膂力だけならこの中で群を抜いて高い。
加えて私達の様に武器を持たないことも天使達の中では不自然で無いはず。
得た翼は身に付けるのではなく破棄し、それでも勝ち上がればセルフィラの目に止まるのではないかい?」
クラリスはただじっとメアリーの言葉を目を閉じて聞いているのみで感情は伺えないが、
信頼し合っているのは今までの短い間とはいえ伝わってくるところがある。
クラリスが仮にメアリーの案で上手く行った場合、単独での潜入となるのは間違いない。
それでもクラリスならやれると信じているメアリーの言葉を聞いて、レルゲンは少し迷った。
どちらの方がより確実に、セルフィラに接触し情報を持ち帰る可能性があるのか。
また発生する危険度を考えた時に、自分の案とメアリーの案でどちらがより安全か天秤にかける。
もちろん安全だけ考えれば自ら提案した方法が一番だが、それより先は完全にアドリブになるため次が無い。
しかし、クラリスが仮に無翼の天使としてセルフィラの元へ召し上げられれば、内部の情報を手に入れる可能性がグンと上がる。
「クラリス。君は…」
「可能です」
「即答か。まだ何も言っていないが」
「いいえ、貴方はきっとこう言うでしょう。
君はこの危険な単独任務をこなせるのか、と。
であれば答えは一つです」
「…頼もしいな。分かった、クラリスとメアリーがそこまで言うんだ。
でも、危なくなったら遠慮なく帰ってきてくれ。そこから先は俺達全員で君をカバーしてみせるよ」
クラリスは片目を開けながら横目でレルゲンをチラッと確認し、静かに微笑みながら冗談を口にする余裕を見せた。
「私をそこまで心配するなんて、今まで一人もいませんでしたよ。
貴方は私のナイトになって下さるのですね?」
「そういうつもりは…いや、違うな。
俺は君をこれから全力でサポートするのは間違いない。
ある意味では確かに君のナイトになるのは間違いではないよ」
「冗談ですよ。貴方は真面目ですね」
ここでようやく自分が揶揄われていたと自覚したレルゲンは、頬を軽く掻きながら目線を逸らした。