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31話 邪悪な笑み

残りの天使はまだ五人。

一人倒してもまだまだ士気は落ちずに迎撃する構えを崩さない。


だが、意外にも幕切れはあっけなく終わる。


「はい…え、帰還命令ですか?

私達はまだ…!は、はい。承知致しました」


リーダー格の天使が命令を一度は理解できなかったが、二度伝えられた事で他の理由があると承諾する。


引き上げようと踵を返したが、レルゲンが待ったをかける。


「セルフィラからの命令か?」


「痴れ者め、人間如きがその名を口にするな。

次に会う時が君達の最後だ。

二度と会わない事を祈るんだな」


吐き捨てるようにその場を後にしようとする天使達に、アラエルは追撃を入れようとするが、マリーが手で制した。


「なんで止める」


「最初は運良く一人倒せたけど、今度はきっとそんな簡単にはいかない。

だから今は仕切り直しましょう」


マリーの言葉を聞いていたリーダー格の天使は、アラエルを一瞥した後に背後を晒した。


「いい判断だ、女。飼い犬の躾はしっかりやっておけ」


またもアラエルの顔にに青筋が立ったが、今度は何とか堪える。


全員が飛び去った後に、マリーがレルゲンに向けて天使達の飛んだ先について確認する。


「追いかけるんでしょ?」


「ああ、一面が水面とは考えづらいが闇雲に飛んでも目立つだけだ。


見つからない程度に距離を離したら追いかけよう」


「簡単に言うけどよ。見つからないようにってただ距離を離しただけだと意味がないぞ。

当てはあるのか?」


「大丈夫だ。俺たちはこれから水中を進む。

メアリーの重力魔術があれば、俺の念動魔術で空気の服を作っても長時間の潜水が出来るはずだ。


セレスに耐寒バフをかけ直してもらえれば凍える事もない」


「なるほど水中なら奴らの目を誤魔化すには丁度いい。この水温なら尚更注意が逸れて好都合だな」


「念には念を入れて隠蔽魔術もかけて進んだ方がいい。敵は機械を使ってこちらの魔力を捕捉している可能性がある。


かつて君達が魔界に来た時も、レルゲンの魔力でおおよその位置と到達時間は掴んでいたからね」


レルゲン達が以前に魔界へ来た時の動向を掴んでいたメアリーは、素直に当時の様子を伝えた。


「やはりそうだったのか。セレス、負担をかけるが頼めるだろうか?」


セレスティアは人数を再確認しつつも快く引き受ける。


「お任せください。魔力はまだまだ余裕がありますので心配いりません」


頷き合い、レルゲンは全員分の酸素スーツを念動魔術で用意する。


「なんか気持ち悪いな」


「すぐに慣れるさ、天使達もだいぶ距離が離れた。そろそろ出発しよう」


隠蔽魔術で忽然と姿を消したレルゲン達は、音もなく水中に身を投じた。



天使達が描かれた巨大な壁画が飾られている大広間にいるセルフィラは、興奮した様子で記録している映像を見返していた。


「何度見ても素晴らしい。素晴らしい翼だよ最上召子、歴代の聖剣使いの中でも君程美しい翼を発現させた勇者はいなかった。


だがそれだけに不憫だ。

その美しい翼を下界の者が持っているなど、あまりにも翼が不憫でならない。早く私の一部となって救ってやりたいよ」


外から差し込んでくる光に照らされて、眩く輝いている自らの翼を優しく撫でながら独白する。


余韻に浸っていると、レルゲン達と接敵した天使達が戻ってくる気配を感じ、翼を折りたたんで仕舞う。


「セルフィラ様、ただいま帰還いたしました」


「ご苦労。さて、報告を聞かせてもらおうか。

私も遠方から君達のやり取りを見ていたが、実際に相手をした者だけが分かる事もあるだろう」


「はっ、私どもが接敵した彼らの戦闘術は、仲間を生かし、かつ他の仲間が危険に陥ると助けずにはいられない甘さを感じました。


これは今後の作戦に活かせるかと」


「その甘さを理解していながら攻めきれずに、私の翼を二十枚も失ったわけだが、それに対して君はどう思う?リュースベルト」


ビリッと言葉のみの圧が広がっていき、リュースベルトは滝のような冷や汗を掻きつつも、弁明と謝罪を口にする。


「このセルフィラ様から賜った翼のお陰で我らはこの階層に居られることに感謝を。


そして、貴重な翼を失った天使につきましては全て私の責任です。

どのような処罰であっても、何なりとお申し付けください」


「そうか。いい覚悟だ。

それは君から全ての翼を回収したとしても変わらないと受け取るよ」


「…!は、はっ!」


「どうした?そんなに奪われるのが怖いのか?

翼の恩恵を私利私欲のために使っていなければ堕天することはない。


無翼の天使になるだけだ。

君は今までその翼を使って私服を肥やしていたのか?」


「いえ…!決してそのようなことは」


「いい返事だ。君には特別に一枚の翼を残して一番上の層に行ってもらうことにする。


一枚だけ残すのは今まで君が忠実に従って来た、長年の贈り物だと思ってくれ」


「そ、それは…!」


「どうした?

返事がないぞ_リュースベルト」


「仰せの通りに。今まで大変お世話になりました」


膝を突き、自らの翼を一枚だけ残して全てむしり取り、セルフィラに返還する。


血だらけになりながら肩に手置き、止血しながらその場を去るリュースベルトにセルフィラは声をかける。


「そうそう、この外には翼が大好物の狩兎がいるから気をつけるといい。

隠蔽魔術程度なら空を飛べずとも一枚だけでも使えるはずだ。

だが、奴らは天使の発する匂いを察知する。


堕天に近ければ近い程やってくるが、君なら堕天とは縁遠いはずだから問題ないだろう」


リュースベルトは顔を引きつらせながら一礼し、隠蔽魔術を発動してその場を後にする。


沈黙の中、中庭に解き放たれた狩兎が一斉に何かに反応を示し、一点の方向に向けて走り始め


「ひっ…!来るな!こっちに来るんじゃない!

嫌だ!これは私の翼だ!!嫌だぁ!!」


口から飛び出た鋭利な前歯を使ってリュースベルトの翼目掛けて飛び掛かり、何羽もの狩兎が翼を貪る。


しばらく悲鳴がセルフィラの鼓膜を震わせたが、その表情からは残念そうな顔は覗かせずに、邪悪な笑みがこぼれ落ちていた。

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