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第二章 11話 インフラ攻撃 改稿版

こんな具合で王立図書館での本選びに飽きた時に、

カノンの研究所に足を運び、研究を手伝っていた。


カノン自体の魔力量や適正はいいとこC止まりで、

潤沢に研究に使う魔力が無いのでレルゲンの魔力タンクには助かっているそうだ。


(これは、俺が切り取った魔族の魔石か?)


「おや、気づいたかい?

調べてみるとその魔族から奪った魔石は君が前に倒した

五段階目のアシュラ・ハガマの尻尾についている

鉱石と構造が似ていてね。


実際に魔力を込めたら光り輝く事から、

少量の魔力で結構な魔力運用が見込めるのがわかったよ。

あっ、そこまででストップね」


魔力を込めるのを止めて、カノンに返す。

ペンを雑紙に走らせながら結果を記入していく。


前に見せてもらった事はあるが、

セレスティアの講義よりもサッパリな内容だった。


いつもはもう少しスッキリした作業机だが、

今日は何やら書類が山積みだ。


「今日は忙しそうだな」


「あー、この山積み書類のことかい?

良ければ内容確認を手伝っておくれよ。

大体が体調不良を訴える国民の意見書だよ」


「いいけど、意見書がどうしてここに来るんだ?」


「なんでも、体調不良になっている原因を探って欲しいんだと。

私は何でも屋じゃ無いんだぞー」


椅子にもたれかかって不満を口にするカノン。

試しに何枚か読んでみると、

腹痛・嘔吐・下痢・果ては関節の痛みまで多岐に渡る。


確かにこれは街の医者に頼んだ方がいい案件な気がするが……と

思っていた時に一つ気になる症状があった。


これは症状と言っていいのか分からないが、

魔力量が急激に伸びて、性格が少し荒っぽくなった子供がいるとのこと。


これは医者ではなく研究所で調べる必要があるのかもしれない。

そう感じたレルゲンがカノンに件の書類を渡す。


「これはうちの案件かもねぇ」


なんともやる気の出ないカノンの声は本当に面倒くさそうだ。


「まぁ、俺もやれる事はやるから」


「頼り切って悪いねぇ、ほんと助かっているよ。

うちの研究員にこの症状が出ている親御さんへ話を聞きに行かせるから、

結果次第で助手君にも作業を割り振るよ」


カノンから再びお呼びがかかって研究室に行くと、

更に机のみならず通路にまで書類の山が積み重なっている。


カノンの目には一時期改善したと思っていたクマが色濃く浮き出ている。


「カノン、また寝てないのか?」


「やぁ、レルゲン助手…よく来てくれたってことはもうその日か」


口ぶりから察するに、また数日寝ないで研究に明け暮れていたのだろう。


「仮眠とってからでもいいぞ」


「優しいね。でも先に説明が先だ。

魔力量が急激に伸びた子供についてだが、

血液検査をしたところ、“ある物質”が検出された」


「ある物質?」


「粉末レベルまで細かくされた魔石さ」


「それってこの前王立図書館で見せてくれた」


「そう、これは本格的に非常事態かもしれないってわけさ」


カノンがこの前図書館で見せてくれた特別な本と

言われている書物の一つに“人間の魔物化”なる本がある。


内容はある実験好きな科学者が、人体実験を行う為に奴隷を買い、

魔石を含んだ食事を与え、

魔石を体内に取り入れる事で強化人間を作るという実験だったのだが、

実験対象は皆直ぐに中毒症状を起こし死に至り、

結果は全くの無駄足で早々に頓挫した計画だった。


その失敗した研究の適合者に近い人物がいるのか甚だ疑問だが、

実際に会って色々と調べてみる必要がありそうだ。


早急にこの子供を確保する為に王国の騎士が動いたようだったが、

結果は既に子供が何者かに殺されてしまっているのか、

単なる行方不明なのか分からないまま事態は迷宮入りしてしまう。


この結末を持って、

何者かが裏で意図的に王国民の生活を脅かしている事が分かり、

商人達の検閲など外から入ってくるものに対して

警戒を強化する方針が決定された。


しかし、警戒を強化しても王国民の衰弱は増す一方で、

飲食店は軒並み一時閉店を余儀なくされる。


調査の方法を一から考え直すために会議が研究所で開かれるが、

中々具体策が出てこない。


何らかの方法で体に粉末状の魔石が入っている事は確かで、

それがどうやって気づかないうちに摂取しているのかが課題だった。


魔力量が高い魔術師は影響がやはり少なく、

魔力があまり高くない騎士連中は体調を崩すものも出てきた。


これ以上原因が分からない状態が続けば、

他国からの攻撃も考える国家の非常事態宣言の発令も考えられる。


「食べ物は検閲が強化されているし、

大気中の魔力濃度も地脈からの供給を考慮すれば許容範囲内。

残すは…水、なんてことはないか。

商人から水なんてこの街には必要無いし、売りにも来ないですし」


一人の研究員がブツブツと消去法で可能性を潰していく。


「疫病対策で定期的に薬も出していますが、時期が合いません。

内部に協力者がいるという事もあまり考えづらいかと」


再びうーんと考え込む研究員達。

飲食物では無い場合、他に可能性があるものは思いつかない

というのが最終結論であることは変わらず、

混入手段が分からないというのが現状だ。


他にも気になる報告が上がっていないか、

レルゲンが調べていると、

鍛治屋街で作成する武具の性能がどの店も

何故か上がっているという紙が目に入った。


「カノン様、この報告が気になるのですが、

一度現地を確認しに行ってもいいでしょうか?」


「あぁ、これね。時期も大体同じだし何かあるかもだ。

気になるなら行っておいで」


「ありがとうございます」


街を歩いて鍛治屋街を目指すが、

つい先日マリーと歩いた時とは様子が全く違う。

道ゆく人々はまばらで、出店は少ない。

閉めている店も多い。

活気で溢れていた街は、どこか遠くへ行ってしまったかのようだ。


閑散とした通りを抜け、

鍛冶屋街へ入ると今まで寒く感じるようなのに対し、

こちらは暖かく感じる。鍛治職人達は日夜腕を磨くべく槌を振い続ける。

一日でも無駄にできない焦燥感のようなものがあるのだろうか。


「ドライドさん、いるかい?」


少し待つと奥から低身長ながらも屈強な肉体の持ち主が現れる。


「よぉ、レルゲンの旦那、今日はどうした?

マリー嬢ちゃんまでいるじゃねぇか。また武器の発注かい?」


「まずはお礼を。この首飾り、とても気に入っているわ、

ありがとう。今日は発注ではないの」


「いいってことよ、いつもうちを利用してくれているんだ。

あのくらいは色つけさせてもらうぜ。

でも発注じゃねぇってんなら、今日はどんな御用向きだい?」


「この報告書についてなんだが」


レルゲンはドライドが出した報告書を手に、

ドライドにここへきた理由を説明する。


「なるほどな、中を案内するには構わないが、

あまり役に立てないと思うぞ」


「大丈夫だ。今日はお礼に来たのがメインみたいなものだから」


「そうかい、じゃあこの前みたいに順番に見せていくぜ」


「よろしく頼む」


順に見ていったが、気になる工程はない。


普段通りの作業工程だ。だというのに、

何故か魔剣を作成するはずのない物が魔力を微量ながら持っている。

レルゲンはこの工房に入ってから、

いや、この鍛治屋街の通りについてから魔力感知を展開している。

魔力感知に引っかからない程度の魔剣。もうそれは魔剣ではなく


「こりゃダメだ、“粗悪品”だな」


そう、性能自体は上がっているが、純粋な剣でも魔剣ですらない。

いわゆるどちらでもない粗悪品と言える。


粗悪品を王宮に卸す訳にも行かないとドライドが

試作品すら出さなかったのがこの剣なのだ。


レルゲンがこの粗悪品から発せられる

微量な魔力を感知できるまで感覚を鋭くする。


すると、徐々にその粗悪品の形になるまでに、

魔力の層が幾つも折り重なるように近づくような、

少しずつ粗悪品になっていくように工程を進んでいっているような感覚。


レルゲンが再度ドライドに尋ねる。


「この剣が出来るまでに毎回やる工程って何かあるか?」


「毎回やる工程ねぇ、

鉄や素材をまず棒状に整形するだろ?

そんで窯で熱する、そんで叩いて伸ばす。

その後は冷やしてまた熱して叩く。この繰り返しだな。

毎回やるってのとは少し違うが、

「何度も」やるってんなら熱する、叩く、冷やすだな」


マリーが呟きながら復唱する


「窯で熱して、槌で叩いて、水で冷やす」


ここで一人の研究員が水は商人からも買わない

という言葉を思い出す。


水、みず…みず!!


マリーが閃いたように「あっ」と呟く。


「レルゲン、私の料理から毒を取り除いたみたいに、

「細かい魔石」を取り出す事って出来る?」


「できる、はずだ」


「試してみて欲しい事があるの」


「分かった、どれにその魔石が含まれている?」


「冷やしている時に使う“水”よ」


「ドライド、案内してくれ」


「あいよ。ここに溜めてある水を使って剣を冷やしているぜ」


「よし」


意識を水に集中し、

物質分離の念動魔術をかける。

今回分離するのは水と魔石。


水面が波立ち溜めていた全ての水が持ち上がる。

すると水から目に見えないくらい

細かい粒子のような粉が立ち上り、

一点に集中して固められていく。


かなりの水量から抽出されたのは砂粒程度の小さな魔石。

されどこの街を救う大きな成果だ。


謁見の間にて、主力貴族と騎士団、

そしてセレスティアに普段は研究所に籠って

中々姿を見せないカノンですら、今回の会合には集まっている。


全員が揃った所で女王が状況を確認する。


「つまり、この報告書を読むと鍛治屋街に

供給されている水は“この街を流れている川”であり、

王国民の誰しもが口にしている生活用水に目に見えない粒子状の魔石

が混入させられていたということですね?マリー、そして騎士レルゲン」


マリーが一歩前に出て女王に追加調査の結果を報告する。


「はい。この街に入ってくる川の暫く上流まで調査員を

派遣して水を持ち帰らせ、

ここにいる騎士レルゲンによる物質分離の念動魔術により

確認いたしました。分離の瞬間は私も立ち合い、

間違いないと判断いたします」


「分かりました。報告ご苦労様です。騎士レルゲンも大義でした」


「勿体なきお言葉」


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