30話 魔王の戦い方
聖属性の光の矢がレルゲン達の速度に置いていかれ上空を通過する。
すかさず天使達は魔術の種類を転換し、複数人で合成魔術を放つべく中心に手をかざした。
「「ハイリッヒ・ユニゾンフレイム」」
小さな的に小さな攻撃では有効打にならないと考えた天使達の一撃は、レルゲン達の速度に合わせた軌道に即座に合わせられた。
「マリー!」
「任せて!」
全員の前に滑りながら立ち、神剣に意識を集中する。握り直された神剣が白い光を放ち始め、それを見た一人の天使は「おぉ…!」と一言だけ漏らす。
聖属性を纏った絶対切断の加護を引き出した一撃は、天使達の合成魔術をも斬り裂いて真っ二つに両断する。
形を保てなくなった合成魔術はすぐに自壊し爆発を伴ったが、レルゲン達の肌を軽く焼く程度で通り過ぎる。
後ろの様子をチラッと確認して仲間の安否を気遣ったが、爆風の中から姿を見せたレルゲンが前を見るように促した。
「気にするな!後ろはカバーする!」
コクンと頷いて再び腰を落として氷の上を滑る。
天使までの距離を完全に詰め切ったマリーは大上段に神剣を振りかぶり、念動魔術で浮遊してから思い切り振り下ろした。
だが、間合いが無くなった天使は魔術で出来た聖属性の剣を両手に具現化し、マリーの攻撃を二刀で防ぐ。
レルゲン達も追いつき、各々の武装を解放して残りの天使達に攻撃を仕掛けるが、これもうまく受け流されつつ応戦。
どの天使もギリエルと同等かそれ以上の力の持ち主であると考え、翼のみに頼った戦い方では無いと理解する。
何人もの天使の翼を合成しなければ、ここまで魔力を上手く扱い切れないだろうと判断したアラエルは、より一層ショートソードに込めた力を上げていく。
「お前ら、一体何人の天使を手にかけやがった!」
「さてな、無翼の復讐でここまで進んできた事は褒めてやろう。
しかし、その旅もここで終わりだ。
そして後ろで見ている天使はミカエラだな?
ここまで連れてきてもらった事に感謝を贈るぞ」
「何言って、やがる!」
強引に薙ぎ払ったショートソードをバク宙で回避し、マリーと鍔迫り合いをしている天使の下へそのまま移動して数的有利を取ろうとする。
すぐに距離を取ろうと身を引こうと後ろに跳ぼうとするが、察知した天使が強引にマリーの腕を掴んで身動きを封じた。
「この…ッ!」
「まず一人」
確実に止めを刺すために聖属性の光で出来た剣を投げ捨てて、自らの翼に手をかけた。
巨大な剣に変形した翼が迫る。
他のメンバーもそれぞれの天使の相手で精一杯。追いかけて来るアラエルもまだ距離が開いていた。
(やられる…!)
目を閉じた瞬間、翼の剣がマリーの首元に迫る。天使の口角が上がった瞬間、
召子の聖剣から〈天の翼〉が生えて相手の天使を力づくで弾き飛ばし、マリーに攻撃を仕掛けた天使を間一発で防御した。
「助かったわ!」
マリーの腕を掴んでいた天使も、驚いた様子ですぐに手を離して距離を取る。
「あの魔剣から生えている翼…まさか…」
召子の聖剣から生えた翼を見た天使達は若干狼狽えたが、それを遠方から見ていた一人が椅子から立ち上がり、興奮した様子で自らの翼を撫でた。
「あれだ、あれこそが私が求める最後の翼に相応しい!」
二人の天使の距離が近くなった時を待っていたクラリスは、相手をしていた天使の剣を引き付け、絡め取るように回して地面に叩きつける。
「がっ…!」
身体中の酸素が強引に吐き出された天使は、苦しそうな声を上げて白目を剥き意識を失った。
それに止まらず二人の天使との距離を詰めたクラリスは、詰め切った勢いそのままに肘打ちを天使の溝落ちに正確に当て、二人の天使を吹き飛ばした。
「ただの人間がなんて馬鹿力だ…!」
「失礼ですよ、ただのメイドに馬鹿力だなんて」
「お前のような召使いがいるか!」
吹き飛ばされた天使が思わずクラリスに言い返したが、涼しげな表情で目を閉じながら構え直す。
攻めに転じるならここだと感じたレルゲンは、黒龍の剣に込める魔力を瞬間的に上げ、魔力放出のみの圧力で吹き飛ばす。
「一気に畳み掛けるぞ!」
セレスティアは掛け声と共に、更に一歩引いた天使達に全力の複合魔術を放つ。
「ダブルキャスト・マジック、ハイリッヒ・グリッター」
「そんな見え見えの攻撃に当たると思うな!」
直線的な放射攻撃を躱そうと身体に命令を出すが、動きが途轍もなく重くなり、天使達が膝を突く。
「この魔術は、魔王か…!」
重力魔術で身体を重くされた天使達は、セレスティアの複合魔術を躱そうと身を捩った。
しかし、動いた先に追尾するようレルゲンによって軌道が修正される。
「曲がれ」
一本の線が曲線となり、天使を貫通する。
遥か彼方に伸びる複合魔術は、それだけに止まらず、鋭角に曲げられて再び天使を背面から貫く。
「捻れろ」
今度は重力操作で光の方向を捻じ曲げたメアリーが呟き、何度も貫いては軌道を強引に捻られ、繰り返し天使を貫通して行く。
「ぐあぁぁ…」
それでも抜群の生命力の高さで何度もその身に受けながら、這うようにその場から離れようとしたが、移動先には既に複合魔術が回り込んでいる。
術の効力が完全に消えた頃には、穴だらけになった天使が残り、その場で砂へと還っていく。
「なんて惨い…!この悪魔め!」
「そうさ、私は魔の王。
貴様らを潰せるならどんな手段でも使わせてもらうおう」