28話 最深層へと続く物
「魔力は感じないから魔物ではないと思うが、これは一体何だろうな」
近くで見ると、明らかに人の手が加えられている仕掛けが施されている物を見た召子は、直感的にこれが元いた世界にあった物だと理解する。
「何かの機械だとは思いますけど、用途が分からないですね」
「機械?ヨルダルクのテクトが使っていた様な物か。
だけど、そんな人為的に作られた物が何故天界にあるのか…
ミカエラ様。何か分かりますか?」
「いえ、これは私も初めて見た物です。
そもそも天界はあなた方が思う通り、人為的に作られた物とは本来縁遠い筈なのですが…」
「メアリーもミカエラ様も分からないとなるとだいぶお手上げだな。
召子の元いた世界では、機械は当たり前のようにあったのか?」
「ありましたよ。寧ろ生活する上では必需品に近いものです。
でも、こっちの世界は魔力っていう私達の世界ではないものが当たり前に溢れているので、それを組み合わせたものに変化していると思います」
再び半透明の筒を触ると、振動が発生してレルゲンはすぐに手を引いた。
しかし、駆動音と思われる低い音と、小刻みに揺れる振動は段々と大きくなっていき、一つの大きな変化をもたらした。
始めは振動による揺れが砂を波立たせていると思っていたが、その波は徐々に大きくなっていき、
次第に半透明の筒から天使の亡骸である砂が弾かれるように押し出されていく。
すぐに変化に気づいたレルゲンが、全員を捕捉して念動魔術で強制的に離れようとする。
しかし、半透明の筒はそれよりも早く急激に砂を全て押し流し、一名を除いてレルゲン達をも弾き飛ばした。
「えっ?」
召子の気の抜けた声だけが耳に残り、レルゲン達は大きく体勢を崩し砂を巻き上げた。
半透明の筒の周りは全て砂が押し流されて、ぽっかりと大きな深淵へと続く穴が空いている。
「きゃあぁぁぁあ!!」
真っ直ぐ奈落へ落ちていく召子に向けて、レルゲンは吹き飛ばされながらも必死に念動魔術で浮遊させようと手を伸ばす。
しかし、正確な狙いが定められない召子は落ちて消えていく。
「っ…!」
全員が召子だけ落ちていく様を見つめ、メアリーはすぐに立ち上がって手を伸ばした。
「召子!!」
伸ばされた手は見えない壁がメアリーを拒み、
重力魔術による救援も叶うことは無かった。
やがて振動が収まり、砂が徐々に基に戻っていく。
完全に砂へ飲み込まれる寸前、咳き込みながら聖剣を地中から突き上げて召子が上がってくる。
「危ない所でした…」
「召子!無事だったか」
「砂は少し飲んじゃったけど大丈夫だよ」
身体についた砂を払いながら、駆け寄ったメアリーを気遣う。
「それにしてもなんで私だけ落ちたんだろう?」
「皆にあって召子にはない物はあれしか無いだろう」
「そっか、魔力…!
でもこの聖剣は魔力を持っているけど、どうして皆んなみたいに弾かれないのかな?」
召子が疑問に思っていると、レルゲンのポケットからウルカが出てきて予想を口にする。
「多分だけど、聖剣の魔力は他の魔剣とは少し魔力の質が違うから弾かれなかったんだと思う」
「魔力の質かぁ」
召子だけ穴に吸い込まれた理由が分かったところで、ミカエラが穴のあった場所を見つめながら全員に伝える。
「先程こじ開けられた穴ですが、間違いなく最深層へと繋がっていると思われます。
原理は不明ですが、この機械は次の層に繋がる鍵となる物です。
上空からはコレと同じ物は見つけられなかったので、恐らくそう多くは存在しないでしょう。
無闇には触れませんが、あなた方には心念による操作術と近い念動魔術がありますので、調べる方法はあるはずです」
「この機械を使って次の層に行けるだけで大きな一歩だ。
時間が掛かるかもしれないが調べてみよう」
機械を見慣れている召子を中心に、半透明の筒状の機械を調べると、どうやら中に天使が入る構造だと見抜く。
「分かった!これ乗り物ですよレルゲンさん!」
「…?馬車みたいなものか?」
「そうです。中に入って、それで次の層に落ちていくのが本来の使い方なんじゃ無いでしょうか?」