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26話 ルミナス・ブロウ

「モートゥルス・ボール」


破壊の心念が最大限に込められた巨大な紅い球が上空から振り下ろされる。


「ウルカ!」


「行くよレル君!」


「「第二段階、全魔力解放!」」


レルゲンの身体から碧い魔力が全身から迸る。

ゆらゆらと、そして白い光が混じりつつ噴き上がる。


初めてレルゲンの魔力解放を見たメアリーとクラリスは、その純粋な力の塊を見て息を呑んだ。


(これが、レルゲンの全力…!)


レルゲンの全魔力解放を上空から感じ取ったギリエルは、放った破壊の心念で出来た紅い球を更に押し込むべく、片手に意識を集中して声を上げる。


「受け止めるつもりか…!

出来るものならやってみるがいい!」


紅い球から発せされる魔力と心念の圧力が地上へ先に到達し、暴風にも似た風が天使の亡骸から出来た砂を大きく巻き上げた。


レルゲンを除く全員は思わず顔を片手で覆って砂嵐から身を守った。


「こんな威力…受け止めるなんて無謀です!

避けて下さい!」


セレスティアが思わずレルゲンに向けて叫んだが、大きな背中が「大丈夫だ」と雄弁に語っていた。


「ウルカ。毎回力を貸してくれてありがとう」


「急にどうしたの?

私はいつだってレル君の味方だよ。

君が私の力を求める限り、私は君に力を貸してあげたい。それはこれからも変わらないよ」


レルゲンは少しだけ笑い、ウルカはレルゲンの肩に乗って迫る攻撃を強く見つめる。


「行くぞ、ウルカ」


「やっちゃえ、レル君!」


黒龍の剣に碧い魔力を全て込め、刀身が伸びる。

その刀身に白銀の剣を合わせると一本の剣となり、伸びた刀身の光が全て一体となった白銀の剣に吸い込まれていく。


吸収された光のエネルギーを、全て白銀の剣の先端に念動魔術で集中すると、頭身大程の大きさの球の形を取り、濃密な魔力の塊が形成される。


「ルミナス・ブロウ」


白銀の剣から現れた光の球から大出力の魔力の奔流が突き進み、ギリエルの放った破壊の心念と衝突する。


広範囲に広がって全体を押しつぶさんとするモートゥルス・ボールを、貫通力を重視したルミナス・ブロウが迎え撃つ。


拮抗は一瞬だった。

モートゥルス・ボールを押し潰そうとルミナス・ブロウが中心から突き進み、大きく凹ませながら拮抗したが、


やがてモートゥルス・ボールを徐々に押し返していくルミナス・ブロウが技の表面を貫通していく。


じわ、じわ…と貫通する面が広がっていき、やがてギリエルからもはっきりと見える程にレルゲンが放った光が侵食していく。


「馬鹿な…!私の最大出力の!いずれ大天使となる俺の一撃が…!

ガアアァァァァァ!!!」


技ごとギリエルを貫通していったルミナス・ブロウは、飲み込んだ後も更に突き進んでいき、初層の壁をも貫いてやがて消えた。


「レルゲン!」


力を全て使い切り、マインドダウン寸前までいったレルゲンの元へ駆け寄るマリーとセレスティア。


すぐに魔力の受け渡しを済ませていると、魔力感知が上空に薄く現れた。


「なんて生命力の強い奴だ」


レルゲンがフラフラになりながらも砂に突き刺して身体を支えていた一振りの剣を構え直すが、マリーが手で制して前に出る。


「大丈夫。後は私に任せてゆっくり休んでて」


振り返って微笑んだマリーの表情を見て安心したレルゲンはその場に座り込み


「頼んだ」


と一言だけ伝えてバトンを渡す。


「ハァ…ハァ…よくも、よくもこのギリエル様を無翼の天使にまで追い詰めてくれたな…!」


上空からゆっくりと降りてくるギリエルは、確かに翼を全て使い切って無翼の天使となっていた。


「まだ戦うの?」


マリーが神剣を片手で持ってギリエルに問いかけるが、返答は決まっていた。


「当たり前だ…!こんなところで俺は負けていられないんだ。そこのお前、間違いなくその翼は本物だ。


俺にその翼を一対でいい。早く寄越せ…!でないと俺は、俺でなくなる!」


ミカエラに伸ばされた右手が、徐々に黒く変色していく。


ボロボロと皮膚が剥がれていく様に中から悪魔の表層が現れていき、焦ったギリエルはミカエラの下へ駆け出していた。


「早く…俺に翼を…!嫌だ!悪魔になんてなりたくない!俺は堕天なんて絶対に!」


マリーは瞳を閉じて少しだけ集中し、横切ってミカエラの下へ走っていくギリエルを一度だけ斬りつけた。


一切手応えのない一撃は、ギリエルの悪魔の部分だけ両断し、やがて砂へと還っていく。


悪魔に堕天せず一生を終えるギリエルはマリーに振り返り、一言だけ言葉をかけた。


「ありがとう」


「どこまでも勝手な天使ね」


風の吹かない深二層で、ギリエルは地面の砂と全く同じ色の欠片となって満足そうに、永遠に沈黙した。

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