25話 破壊の心念
激しく火花を散らす中、レルゲンは違和感を感じていた。
(こいつ、動きは大した事ないが間合いが毎回微妙に変わっているな)
その正体は、すぐに実感となって現れた。
翼で出来た剣の形状が急激に短くなり、レルゲンがギリエルを迎撃しようと黒龍の剣を振り抜いたが、空振りに終わる。
その時、ギリエルは確かに笑い、レルゲンの首元へ短剣となった翼の刃先を向かわせた。
動きが急激にスローモーションの様にゆっくりと見えるようになり、身体を捻りながら回転させて回避する。
僅かに胸元を掠めて薄く皮膚が切れたが、それだけではギリエルは満足せず、眉を上げた。
「よく躱した。今のを躱したということは薄々勘付いていたわけだ」
「どうかな。だが、刃先は僅かに掠めたぞ」
「今のはお前を殺す為の一撃だ。命を取れなかったならそれは外したのと同じ事」
「そうかい」
ギリエルの剣は文字通り変幻自在。
短くしたということは、長くも出来ると考えた方がいいと推測したレルゲンはゆっくりと更に間合いを離す。
「ほう。この短くなった剣を見て距離を取るか。頭はいい様だな」
今度はレルゲンから仕掛ける。
少しだけ魔力を込めた黒龍の剣に、風の下位魔法のウィンドカットを念動魔術で固定する。
刀身は伸びないが無色の遠距離斬撃に、これもまた色のない切断力を上げるウィンドカットを合わせた無色透明の攻撃を放つ。
「感知出来ないとでも思ったか!」
翼で身体を覆い、レルゲンの遠距離からの攻撃を羽ばたく要領で上空へ弾き飛ばし、得意気な顔になる。
しかし、レルゲンの狙いは無色透明の攻撃を当てることではなかった。
一度弾く為にギリエルの目線が翼で隠された瞬間に、レルゲンはウルカを呼んで背後に大量のブルーフレイム・アローズを待機させる。
この一瞬の溜めのためだけに繰り出された不可視の一撃。
あまりの数の多さにギリエルは冷や汗を掻いた。
「なんだ、その量は」
「覚悟はいいか」
ギリエルの返答は待たずに一斉に火の上位魔術を発射すると、持っていた短剣の形状が再び片手直剣に戻るだけでなく、
もう片方の空いている手で翼を握り、二刀流の構えを取る。
真正面から一斉に向かってくるブルーフレイム・アローズを、二刀を振り回す様に迎撃していく。
何本か身体に当たり、やや焦がしながらも迎撃を続けるギリエルを脇目に、レルゲンは再び黒龍の剣に今度は全魔力を込めて刀身が伸びる。
込められた魔力によって黒い光の刀身が伸びてゆき、伸びた刀身の光を念動魔術で圧縮すると、更に発光が強くなりつつもレルゲンの命令を今か今かと待っている。
発射され続けているブルーフレイム・アローズよりも速く移動してギリエルの横に飛んだレルゲンが、黒龍の剣から一線攻撃を至近距離から叩き込んだ。
「オオオオォォォォ!!」
「しまっ…!」
咄嗟にブルーフレイム・アローズの迎撃を止めて、それよりも殺傷力の高い攻撃が来ると直感的に理解したギリエルが、
一線攻撃を翼から出来た二刀で防御した。
しかし、それだけではレルゲンの攻撃は止める事が出来ず、翼で出来た剣にヒビが無数に入って行き、
やがて抑え切れずに粉々になって飲み込まれてゆく。
「こんなもの…!」
翼で出来た剣が二本とも破壊され、両手で受け止めようと前にかざす。
手の平が焼け焦げていくが、ギリエルが一線攻撃を握り潰し、大きな爆炎が辺りに広がっていく。
煙が晴れていき、ギリエルの姿が少しずつ見えてくる。
しかし、ギリエルの両腕は肘から先が無くなっており、腕の組織はズタズタにされている。
翼から出来た剣も完全に破壊され、残るは二対のみ。
「貴様…俺の、俺が集めた翼をよくも、よくも…」
徐々に青筋が額に刻まれていき、感情の昂りと共に魔力が引っ張られるように高まっていく。
一瞬で腕が生え変わり、レルゲンを指さして宣言する。
「絶対に許さんぞ…!この墓場の砂と同じ様に、お前を粉々にしてやる!」
咆哮にも似た決意は、クラリスがしっかりと共感覚的に色で捉えていた。
「紅い、純粋な破壊の心念…!
レルゲン!気をつけて下さい!あの天使の奥義が来ます!」
レルゲンはクラリスからの注意を受けて頷いて返し、構えを取り直しす。
「その身に受けるがいい。天界に抗う咎人よ」
ギリエル最大の攻撃がレルゲン共々下にいる仲間達に襲い掛かろうとし、
巨大な魔力に破壊の心念を込められた一撃が、上空に向けて集まっていく。
振り下ろされるまで後数秒といったところだろう。